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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
43/92

43話 ラフキン

 コダマは、ラフキン城の地下を進んでいた。

 流石に魔王城と言うべきか、魔法で地中から侵入する者を阻む結界が張ってある。

 だが、精霊の力で潜っている彼には何の意味も無い。


 人の目に映らないコダマは堂々と正面から城門をくぐっても良かったのだが、念の為、コソコソと行動しているのだ。

 城の立地面積の半分くらいまで来たかな? という辺りで、そっと地上に顔を出す。

 

 そこは中庭だった。

 整然と整えられた庭園に、グネグネと曲がった枝の奇妙な木々が植えられている。

 

 そして、精霊の存在を感知できる特殊な者がいないことを祈りながら、彼は城内に潜入した。



 壁を歩きながら、城内の魔族たちの会話に聞き耳を立てる。

 多くの者達がいたって普通の話をしている中、ふと気を引いた内容があった。


「カウラの様子はどうだ」

「順調のようだ。無事、魔大陸掌握の足掛かりになってくれそうだぞ」

「ならいい。問題は、皇帝だが...」

「悪魔のお偉いさんが、なんとかしてくれるんだろ?

 俺たちが心配することじゃないさ」

「...本当に、そう思っているのか?」

「ああ。俺たちは、奴らにとって都合のいい道具だ。使える限りは、望みを叶えてくれるだろうさ」


 匂う、匂うぞい...!


 と、コダマはその会話をしている魔族たちについていく。

 やがて、大きな扉の前に出た。

 

 

 中に入っていった彼らに続こうとして――― 扉をくぐる寸前で、ピタッと足を止める。

 明確な理由は無い。ただの勘である。

 

 だが、彼は知っていた。

 勘を(おろそ)かにした者から、不運に見舞われる事を。


「うむむ...」


 中に入りたい。だが、多分入らない方がいい。

 直接自分の目で見さえすればその原因もわかるのだが、見る時点で既にマズい気がするのだ。


 葛藤していると、彼が手に持つ杖が、目を覚ました。

 杖の先端にピョコンと若葉が芽吹き、伸びをする。


「ふわぁぁ...よう寝た。

 ん? 今は一人なのかえ。仲間に愛想を尽かされたのかの?」

「じゃあかしい! 違わい! ワシにしか出来ぬことをしているだけじゃ!」

「ならば、なぜこんな所でウロウロしておるのかえ」

「ぐっ...」


 コダマは一瞬ひるんだが、良いことを思いついた! とばかりに、マダコを天に掲げた。


「おぬしなら、いける気がする!

 よし、ワシの代わりに中の様子を見聞きするのじゃ!」

「な、なにぃっ!?」


 そう言うなり、扉の下の僅かな隙間から、スッとマダコを部屋の中に差し込んだ。

 彼が手に持っている限り、人の目に視認はされないはずなのだ。


「なんてジジィじゃ! 突然、寝起きのレディに何をしおるっ!」


 憤慨しながらも、室内の様子を伺うマダコ。

 状況はよくわかっていないが、彼女(?)も、何やら怪しげな会談のスパイ活動には興味があった。


 身を縮めて双葉を閉じ、そっと観察する。

 

 中に居るのは、魔族3人と...人間の女だろうか。

 


「...―――の素材の集まりが悪い。今の倍は欲しい」

「し、しかし、今の量でも既に限界で...」

「チッ。なら、カウラからも集めろ」

「は。掌握を進めております...っ」

「わかっているのか? 働きが悪ければ、クーデターに手は貸さんのだぞ」

「そのことなのですが...どこまで我らが直接手を―――...、!?」


 魔族の一人が言葉を切ったのは、突如、女が部屋の出入り口の前に魔法攻撃を放ったからだ。

 木片を散らしながら、扉の下半分が吹っ飛ぶ。


「い、いったい何を―――っ!?」

「クソ。聞かれたか...」

「――!!?」

 

 女は、部屋に結界を張っていた。

 壁、天井、床、そして扉に、僅かにでも何かが触れたら感知できる盗聴防止用の結界だ。同時に、完全防音も備えている。

 それに今、一瞬だが触れるものがあった。


「扉の下か...唯一の抜け穴だったが、まさか本当に突かれるとは...」


 虫やネズミだった可能性も、なくは無い。

 だが、誰かが意図的に盗聴しようとした可能性を、第一に考えていくべきだ。


「それもそうか。敵が生まれない確率の方が、低いのだから...」


 そう言って女は、ひっそりと冷徹な笑みを浮かべた。





 コダマは、部屋の奥から殺気が飛んできた瞬間、マダコを引っ込めて後方に飛び退(すさ)っていた。

 ほとんど同時に扉がはじけ飛んだのを見て、マダコが喚く。


「こんなに危ういのならば、先に言えぃ!」

「すまぬすまぬ」


 サササササーーっと中庭まで撤退し、地中に潜り込んで一息つく。


「ふぅ」

「ふぅ、ではないわ! 説明せぃ、なんじゃアイツは!?」

「ふむ。アイツ…攻撃を放った者は、魔族ではなかったかの?」

「人間の女に見えおったが」

「悪魔だった可能性は?」

「...(わらわ)はガオケレナの一部であったからの。見たことの無い者はわからぬ」

「それもそうじゃな」


 そして急に、マダコの葉っぱがシオシオと小さくなる。


「力尽きた...寝る...」

「ま、待つのじゃ! 何を見聞きしたか、一言でも!!」

「...ここだけでは素材不足ゆえに、カウラへ手を伸ばして...。

 クーデター…に、手を貸すのは...誰じゃろな...グゥ……」


 マダコは沈黙した。



「......。」


 素材不足? 何の? カウラ?

 クーデター?

 ここは王城だ。そしてあの部屋は、なかなかに……というか、かなり立派な扉だった。玉座の間の可能性もある。

 そこでの会話の「クーデター」ならば、魔皇帝に対するものか。

 

 廊下で聞いた会話の情報も併せて推測していく。


 悪魔のお偉いさんが、皇帝を何とかする。

 手を貸す。

 クーデター。


「なるほどのぅ。そういう事じゃったか」


 コダマは(ひげ)をツマツマすると、王城の外へ出ていった。




 事前に決めた予定通り、城門の前でしばらく待っていると、レイラとサトリが転移したきた。

 コダマを見つけるなり、二人が言う。


「グレイプニルの鎖を作らせているある!」

「街中で、地味に素材集めをしていたわ」


「...素材不足とはその事じゃったか。

 こちらも、それに関して情報を得たぞい」


 彼も、カウラとクーデターに関する内容を話す。


 なるほど、フムフムと頷きあっていると突然、上空の雲が霧散した。

 冒険者ギルドがある方角だ。

 灰色の夜空に、そこだけぽっかりと藍色の空間が生じる。


「ベニッピーが来たわね」

「行くとするかの」


 そうして3人は、最初に来たギルド付近へと転移した。



__________________________________




 俺はイズナを連れて、ラフキンの冒険者ギルドの前に出現した。

 サトリから預かっていた芭蕉扇に魔力を乗せて、空に向かって一振りする。

 

 ここに来る前に決めていた合図だ。

 そして間もなく、サトリとコダ爺を連れたレイラが転移してきた。


「帰還準備の信号が来た。少し早いが、もう帰ってもいいだろう」

「了解ある」

「グレイプニルに、おそらく神がやられているわ」

「カウラのサイラス王が危ないから、ケヴィンさんがずっと傍につく事になったよ」

「魔皇帝にクーデターを起こそうとしているようじゃぞ、ラフキンは」


「......。」

「......。」


 互いに、え? という反応である。


「ぐ、ぐれーぷにる?」

「サイラス王が危険って、どういう事あるか!?」

「王だけじゃなく、皇帝にまで!?」

「...とにかく、話は戻ってからじゃ」

「そうよ。どうせまた全部、向こう(ヴォルカ)でも説明することになるんだから」


 混乱したままだが、それは一先ず置いておいて。

 俺はサトリに、コダ爺は自分で、レイラは自らとイズナに、空気で包む結界を張る。

 

 それを確認してから、4人を連れてヴォルカに転移した。





 久しぶりのヴォルカは、物々しい雰囲気だった。

 城は無くなってしまったはずだが、単純な造りの、要塞のような建造物が建っている。

 俺たちがその城門前に出現すると、守備の衛兵が一斉に緊張して構えた。


「ベニッピー、友達と援軍二人を連れて戻りましたー」


「ベ、ベニッピー様! お帰りなさいませ!」

「さ、こちらに。戻られましたら、すぐにお連れせよと王がお待ちです」


 衛兵の一人が、先に立って案内してくれた。

 初めて来るイズナとレイラ、まだ慣れないサトリとコダ爺だけでなく、この建物が初めての俺もキョロキョロしながら進む。


「この要塞、誰がどうやって造ったんだ?」

「はっ。王と、魔法が得意な者数人で、岩を組み上げて建てられておりました」

「へぇ...」


 ガルってどんな魔法を使うんだろう。

 まだ一度も見たことないな。


 特にグネグネと曲がったりすることなく、一番奥の大きな部屋の前に到着する。


「ベニッピー様がお戻りになりました」


 扉を叩いて室内に声をかけた兵士が場所を譲ったので、俺は扉を開けた。


 

 ―――途端、四方から襲い来る剣と槍。


 大丈夫。なんとなく予想していたから。

 これが龍宮城流の挨拶なんだと、俺はもう知っている。


 人化を解いて、物理的に体積を減らしてカウント率を下げつつ、身体能力に物を言わせて全て回避する。

 そして、間髪入れずに放たれた渦巻く水流の魔法攻撃(岩の破片混じり)を、こちらも魔法で相殺した。


 さて。相手は誰かな?

 


「わははは! 戻ったか、ベニッピー!」

「生きていたか、ハンフリー」


 一人目は、この国の兵士長ハンフリー(タチウオ)。剣。


「すみません、兵長に無理矢理……」

「わかってるって、エド」


 二人目は、ハンフリーの副官エドワール(リーフィーシードラゴン)。槍。


「この間ぶりっす、ベニッピーさん!」

「やっぱり戻ってたか、先輩」


 三人目は、ベルタ。説明不要。短剣。


「おかえりー」

「おう。魔石通信も、便利だが考えものだったぞ、ガル」


 四人目、ガル。説明不要。太刀(たち)と水流。



 以上4名と、苦笑しながら見守っていた他の者達に歓迎(?)され、俺は帰還した。

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