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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
42/92

42話 情報収集

 夜の城内は、昼間に比べるととても静かだ。

 ポツポツと明かりの灯る廊下を、足音を立てずに駆け抜ける。

 まだ日が暮れてそんなに時間は経っていないのだが、皆帰るのが早いな。


「ケヴィンの居場所を知っているのか?」

「仕事場は知ってるから、まずはそこに向かってみるよ」


 イズナの先導で進み、ケヴィンの仕事部屋に到着した。

 部屋の扉をノックすると、返事が返ってきたので迷わず開ける。



 彼は、書類の山と格闘していたようだ。

 手を止める理由ができたことが嬉しいように、こちらを見る。


「どうした? 国から呼び出しがかかったのか?」

「いや、まだ「帰還の準備」の段階だ。それより、緊急事態だ。

 ラフキンがやべぇ奴らだった」


 順序だてて上手く説明できない俺の代わりに、イズナが説明してくれた。


 それを聞いて、ケヴィンの表情が一気に暗く、難しくなる。


「―――そうか、グレンが...」


 グレン?


「マグワイアと呼ばれていた男だよ」


 イズナが教えてくれた。


「...話の内容から察するに、サイラス王襲撃の計画でも立てていたようだな。

 グレンが、か...」

「ケヴィンと、ハイアット?って人をどうするかって話もしようとしていたが、それ以上聞いてこられなかった。

 すまん」


「いや。おれは全く感づけなかった。二人とも、本当に感謝する」


 ケヴィンが頭を下げたので、慌てて止めた。


「いいって、偶然聞いただけなんだから。

 ...計画を盗聴されたことにも、気付かせちまった。前倒しになるか、延期か、中止か――― わからないな」


「ああ。...そうなってくると、王の傍を離れるわけには…いかなくなった。

 神の元に行く際は、召喚者の義務としておれも同行するつもりだったんだが...すまない」


 イズナが、明るい口調で言う。


「僕たちも、折角仲良くなってきたサイラス王に何かあるかもしれない状況では、落ち着いて動けないすよ。

 ケヴィンさんがついていてくれるなら、安心して行ってこられます」

「そうだそうだ。――って、イズナだって、無理して今からヴォルカに行かなくても、こっちで待っていてもいいんだぞ?」


 だが、ケヴィンが首を振った。


「イズナには、ベニッピーに同行してもらえると有難い。

 悪魔はラフキンに手を伸ばしていると同時に、ヴォルカを狙っているようだからな。そちらが少しでも盤石な状態であれば、結果的にこちらの方も有利になるだろう」

「わかりました。元よりそのつもりでしたし、問題ないっす」


 なるほどな。

 

 

 その後、国に一時帰還する際にはこちらに報告に寄らずに、レイラとイズナを伴って直接向かう事をケヴィンに伝え、了承を得た。

 

 そしてそのまま、ラフキンに転移した。




__________________________________




 サトリとコダマ、レイラはラフキンの冒険者ギルドの傍に転移していた。


 つい先ほどベニッピーを連れて一瞬来たばかりだが、やはりここの空気は重い。

 そう思って眉を顰めたレイラだが、


「ここがラフキンね! 涼しくて快適だわ」


 というサトリの明るい声に、思わず笑みを浮かべた。


「そうあるね。ここもまだ暖かい方あるが、カウラよりはマシね」

「レイラは赤道直下でも鎧を着てるんでしょう? 暑くないの?」

「鎧の内側を冷気で満たしているある」

「やっぱりね! あー、私もはやく魔力の制御力を取り戻さないと……」


 通行人たちが、楽しく話す珍妙な格好の少女二人を、物珍しそうに見ていく。

 だが、そんな彼らの表情は明るいものではない。


「前に来た時よりも、地中魔力の狂いが大きくなっているある。

 着々と異常が進行しているね...」

「元凶を止めるためにも、ササっと仕事をしちゃいましょう」


 

 話し合った結果、コダマが単独でラフキンの城に潜入しての内部調査、サトリとレイラが街の様子の観察・調査をする事になった。

 

「任せるのじゃ!」


 と、張りきったコダマはたちまち地中に消える。

 

 それを少し心配そうに見やりながらも、サトリはレイラと一緒にギルドの建物に入っていった。



 こちらの二人は、「流れてきた冒険者」の設定での情報収集である。

 何か変わったことは起きていないかと、まずは依頼掲示板を確認する。


「うーん...普通あるな」

「特におかしな依頼は無いようね」


 天候異常で作物が育ちにくい地域らしく、食糧となる野草や動物、魚の採取依頼が多い。

 その中でも、鳥や魚、熊がとりわけ人気なようだ。いや――― 人気と言うより、一人が大量の依頼を出している。


「この依頼主、商人かなにかあるね?」

「...そう、かもしれないわね」


 サトリはなにか引っかかったが、それが何かはわからなかった。



 ギルドでは目ぼしい情報は得られそうにないので、外に出て人通りの多い場所を目指す。


 大通りに出ると、あまり活気はないがそれなりに賑わっている。

 足元を鼠が駆け抜けていって、レイラは顔を顰めた。


「げ。ネズミある。奴らも大変あるな、穀物(食べ物)が減って」

「それにしても、数が多くないかしら?

 よく見ると至る所にいるわよ」


 サトリの視線の先には、昼間だというのに何匹もの鼠がいる。

 植え込みの根本や建物の下、花壇の脇などに(うごめ)く影。


「不衛生ある。猫が仕事をしていないあるね」

「そうね...」


 何が変わった事はないかと、注意深く周囲の様子を観察していると、二人とも同時に同じことに気づく。


「この辺りには、ショートヘアの女性が多いのね」

「不思議あるね。魔族の女性は、長い髪を好むと思っていたあるに」


 そう。

 レイラの言う通り、基本的に魔族は男女ともに長髪を好む傾向がある。

 それを鑑みれば、この街の女性は奇異に映った。街を歩いている男性は長髪の割合が多かったから、尚更だ。


 不思議に思ったレイラが、近くの露店商人に聞いてみた。


「―――今この街には、短髪ブームが来ているあるか?」

「いんや。来ていたのは、女の髪を高く買い取る商人だ。

 もっとも今は、他の街に移動したみたいだがな」


「...その理由は知ってるあるか?」

「さあな。それより嬢ちゃんたちは魔法系の冒険者か?

 そうだったら、向こうの店に行けば割の良い仕事があるぜ」


 そう言って商人が指差した先には、岩がゴロゴロ転がる露店があった。「魔法使い急募!単発、一瞬で終わる作業」と書かれたハタが立っている。


「……何あるか。あの怪しげな店は」

「なんでも、岩を切断する下請け業者だそうだぞ」

「気になるから、行ってみるわ。教えてくれてありがとね」


 サトリがお礼を言って、二人は岩の露店に向かった。



「レイラ、上手く聞き出してね」

「任せるある」



 その店の前で足を止め、中を覗き込む。

 形ばかりの簡素なカウンターの向こうでは、地面に広げられた汚れた大きな布の上に、大小様々な形・種類の岩が転がっていた。どれも一様に、下半分が土に(まみ)れている


 店の者が、こちらに気付いてやってきた。


「ハタを見たある。何すればいいあるか?」

「ここにある岩の、土が付いている境目を切断してくれ。

 小さいものでこの金額、大きいものでこれだ」


 そう言って店主が示した料金表に記された報酬金額を見て、二人は目を見開いた。

 こんな単純作業ではあり得ないくらいの高額だったのだ。


「ど、どうして岩を切るあるね?」

「何だっていいだろう。魔法の腕に自信があるなら、試しにこいつをスパッとやってみてくれよ」


 相手をじっと見ていたサトリが頷いたのを見て、レイラは差し出された小さな岩を、店主のお望み通りにスパッと切った。

 彼女の独自魔法、「光増幅放射(レーザービーム)切断」で。


 店主が仰天する。


「こ、こいつはスゲェや……!

 こんなに綺麗な切断面で切ってくれるヤツは初めてだ。

 嬢ちゃん、ボーナス出すからもっと沢山切ってくれ!」

「お安い御用あるね」


 そうしてスパスパし続け、転がる全ての岩が真っ二つになった頃。

 報酬をたんまり頂いたレイラは兜を上げて、にっこりと笑った。


「さぁ、教えるあるよ。誰が元請けなのかを」


 指先から、パシパシとビームを飛ばしながら。




 大通りの切断屋に教えられた元請けは、人気の無い通りの建物の地下に、普段は居るようだった。

 そこへ向かい、運良くもあっさり遭遇する。

 

 今、二人の視線の先には、土のついた岩を黙々と手動で粉砕している男がいる。

 彼はこちらを一瞥すると、また作業に戻った。


「切断の下請け屋に、この場所を聞いたある。なんでこんな事をしているあるか?」

「知るかよ。見りゃわかるだろ。俺だって頼まれてやってるだけだ」

「依頼主は?」

「たとえアンタたちがこの作業を一瞬で終わらせてくれたとしても、それだけは教えらんねぇよ」


 なかなか口が堅い。

 しかし、二人はすぐに引き下がった。


「わかったある」

「...その口の堅さ、ずっと続けた方が良いわよ」

「言われるまでもねえ」



 地上に出るなり、サトリが言う。


「あの男も依頼主の正体はよくわかっていなかったようだけれど...

 間違いないわ。誰か――おそらく悪魔が、「グレイプニルの鎖」を作らせている」

「...聞いたことあるね。何だったあるか...」

「ドワーフ族にしか作製できない、魔法の(かせ)よ。

 魚の骨、鳥の羽、熊の爪、女の髪を編み込んで、地中の魔力を直接吸収した岩の部位を粉砕した砂を振りかけて、たくさんの猫にフミフミさせて完成する鎖。―――わたし、どうしてこんな事知っているのかしらね...?」

「―――! 思い出したある...! 魔獣フェンリルの唯一の弱点...!」

 

 

 サトリとレイラは頷きあうと、コダマが潜入しているラフキン城の前に転移した。

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