41話 諜報活動
俺たちが最初にいた部屋に戻ると、サトリたちはもう戻っていた。
なぜかコダ爺がイジイジしている。
「どうしたコダ爺」
「ワシももうちょっと役に立ちたかったのじゃぁ」
報告を聞くと、普通に召喚師達と話をしただけのようで、彼の本領は発揮されなかったらしい。
「それくらいでいじけるなよ、まだこれからだろ?
コダ爺が活躍するのは」
「う、うむ。次こそは、鍵のかかった部屋に侵入するのじゃ」
物騒なことを言ってメラメラと燃えている。
...頼もしいことで何よりだ。
こちらも、王様から得た情報を話した。
ラフキンが怪しいと聞いて、レイラが頷く。
「ずっと魔大陸で待ってる間、冒険者としてラフキンにも行ったある。
他の北方領と同じで、自然災害や地脈の狂いが多かったあるが...
あんまり、領主が民を救済している雰囲気は無かったね」
やはり、そうか。
この後、どうするかを決めた。
俺とイズナがカウラにあるラフキン支部を探り、レイラの転移魔法でサトリとコダ爺がラフキンに行く事になった。
いつ魔石で呼び出しがかかるかわからないので、俺もすぐにラフキンに転移して3人を迎えに行けるように、一度レイラの転移でラフキンにまで連れて行ってもらう。
探る内容を取り決め、二組はそれぞれ出発した。
俺は今、カウラ王城の近くにあるラフキン大使館の建物に居る。
ビー玉サイズに縮んで、壁や床の保護色に随時変化しながらな。
何をしているのかというと、建物の構造の把握と、重要そうな部屋の位置確認だ。
それと、警備の者や職員の配置、動向も。
ある程度頭に入ったので、そろりと戻って、外で待つイズナに伝える。
ついでに、大雑把に描いた地図も渡す。
フムフムと聞いていた彼は、嬉しそうに手を打った。
「ベニッピーさんが居ると、凄く仕事が楽になるっす。
もう、完璧な侵入プランが完成しましたよ」
お前、一応…というか思いっきり冒険者だよな? 仕事って...
...いや、まあ想像はついていたけどね。
「そういやさ。何でお前ら二人が招集されたんだ?
他にも「勇者」って居るんだろ?」
「はい。勇者と呼ばれる冒険者のほぼ全員に勧誘がきていたみたいなんすけど、皆断ってたんすよ。
怪しすぎるって。
僕は...レイラもらしいんすけど、単純に好奇心が勝ったので、応じたんです」
そうか。
だんだんわかってきたのだが、コイツは人見知りではあるが、好奇心は結構強いようなのだ。
故郷の里を出て冒険者をやっているのも、それ故だと言っていた。
「最初に聞かされたことと違う展開になってきただろうが、このまま続けていいのか?」
「勿論すよ。むしろ面白くなってきて嬉しいすね」
この前は「ゲ、悪魔かぁ…」みたいな顔をしていたが、やはり興味が勝っていたか。
「お前、今20歳くらいか?」
「人間ではそのくらいすね。実年齢は、もっと上すよ。なにせエルフ族なんで」
「そうか。俺も、人間でいうと今20歳程度なんだ。だから、敬語要らねえよ?」
普段はあまり気にならないのだが、同年代の同性に敬語を使われると、何かしっくりこない。
断じて、ベルタと微妙にキャラが被るからではない。
「そう...だね。確かに、片方だけ敬語だと変かも。そうするよ」
「おう」
ちょっとだけ仲良くなれた気がする。
夜になった。
俺は小さくなってイズナの懐に潜り込む。
まだ日が落ちて然程の時間は経っていないので、建物内では多くの人が動いている気配がする。
彼は、塀の人気の無い箇所を見つけると、一瞬で乗り越えた。
音もなく庭に降り立ち、暗がりを素早く移動する。
裏口の前に到達すると彼は身を隠し、俺が懐から出た。
そうっと一人で泳ぎだし、誰か帰宅する職員が表口から出た隙に、建物内に忍び込む。
そのままコソコソと裏口まで行き、鍵を開けた。
合図を送るとイズナがパッと入ってきて、鍵を閉める。
そして、あらかじめ目星をつけていた場所から天井裏に侵入した。
コトリとも音を立てずに進む彼の後ろをついていく。
昼間の偵察では、天井裏にまでは入らなかった。
だから今通っているルートも、全て彼のプランだ。
何度もグネグネと曲がりつつ進むと、やがてイズナが歩を止めた。
床板(天井板)の僅かな隙間から下を覗く。
やや立派な執務室のような空間で、数人の者たちが話をしていた。
...こんな部屋あったかな?
イズナは懐から小さな竹を取り出して、床にピタリとつけ、耳を当てた。
俺も隙間に張り付きつつ、部屋を見下ろす。
人化して、額の魔道具をオフにする。
中にいる魔族は、当然だが全員知らない顔だ。
「―――サイラス王はまだ、騙されてくれているか?」
「ああ。王は人が良いからな。余程のことが無いと、疑い始めないだろう」
「くっくっく...。まったく。よくカウラは、そんな王が統治できているな」
おおぉ。
初っ端から、不穏な会話が聞こえるぞ。
「異世界の者が、やっと戻ってきたらしいな。エルランジェはどこで油を売っていたんだか」
「マグワイアよ。あんな無能がお前のライバルの一人なのか?」
「...上に立つ王が王だからな。仕方ない」
エルランジェ?
どこかで聞いたような...って、ケヴィンの苗字だったわ。
イズナが、こそッと囁く。
「マグワイアと呼ばれた男、彼はカウラの次期魔王候補の一人だ。
――― まさか、この場に居るとはね...」
なんとまぁ。
ケヴィンさんや、同僚が裏切ってますよー。
話は続く。
「召喚師長は、国に帰って大人しくしているのか?」
「特に何も報告が来ないから、問題ないのだろうよ」
「悪知恵が働く奴にも困ったものよ。
マグワイア、彼女は他に怪しい動きはしていなかっただろうな?」
「...ああ、大丈夫だ」
あ。
今こいつ、「四六時中監視してるわけじゃねぇんだから、んな事わかるかボケ」って考えたぞ。
...ウラリーは、やっぱり何かあったんだな。
「それで、いつあの計画を実行に移すかだが」
「王は、勇者と異世界の者と仲が良くなってきたようだ。彼らに感づかれると厄介だからな、奴らが出発して居なくなった後がいいだろう」
―――待て、何を話しているんだ……?
いや、わかってる。思いっきり脳内に「暗殺」とか「襲撃」という単語が飛び交っているからな。
「お前が実行してくれたら楽なんだがな、マグワイア」
「できるわけがないだろう。仮に次期王候補が俺だけだったとしても、誰にも許容されるはずがない」
「そこを、理屈をこねくり回して愚かな民衆を騙すのが楽しいんだろうが」
「ハイアットとエルランジェはどうする」
「それは―――」
その時、俺の魔石の一つが光った。
桃色の魔石だ。確か、「帰還の準備を開始せよ」。
って、それより、今は。
「今...天井が、光らなかったか」
「―――誰か居るのか!?」
……やっっべぇ!
部屋の中に緊張が走るのと同時に、イズナが俺の腕を掴んで引っ張った。そしてそのまま移動を始める。
直前まで俺たちが居た場所に、下から放たれた風魔法が直撃した。
天井板に、バリバリと穴が開いていく。
人化を解いて、大人しくイズナの手の中に収まる。
人間形態のままじゃ、お荷物だ。いや、既にお荷物になってしまったが。
彼は足音を隠すことなく、脱出最優先で天井裏を駆け抜ける。
相手も部屋を飛び出して追ってきたようで、天井の足音を目掛けての魔法攻撃が放たれ続けている。
「ベニッピー君、今転移できる!?」
「できるが、転移で消えたら正体がバレるかもしれない!」
「っ、そうだね。その方が不味い」
コダ爺みたいに、地面に潜って移動ができたらよかったんだが。
...そうだ。
「―――姿を見られずに、逃げ切れればいいんだな?」
「そ、そうだけど...?」
「なら大丈夫だ! 任せろ」
地面は無理でも、上という手があるじゃないか。
俺も風魔法を使い、さらに天井に大穴を開けた。
バキバキ、メキャメキャ! と裂ける屋根から、真っすぐ上に向かって飛び上がる。
魔法でイズナも飛ばしながら。
とにかく、一瞬でも速く上空に行き、追手の視界から逃れる。
そして今度こそ転移しようとしたところで、彼に止められた。
「待って。レイラ達を迎えに行く前に、一言でもケヴィンさんに、今聞いたことを知らせた方がいい!」
「それもそうだな」
それくらいの余裕はある。まだ「準備せよ」だからな。
転移をやめて、そのままカウラ城に飛び込んだ。
ベニッピー達が城に向かった後。
秘密の隠し部屋で話をしていた3人―― ラフキンの者二人とマグワイアは、支部の建物の外で空を見上げていた。
素早く逃げられた。
あの速度で飛ばれたら、自分たちには追い付けないだろう。
そう思って、一旦追跡を断念していたのだが。
眺めていた空から、流星のように城へ飛び込む影を見る。
「―――見えたか?」
「ああ。城の間者だったか…」
「お前、かなりマズい事になったんじゃないか?」
そう問われ、マグワイアは薄っすらと笑みを浮かべた。
「遅かれ早かれ、こうなっていたさ。今のも証拠が無いから、問題ないとすら言える。
それに、不味いのはそちらも同じだろう。少なくとも計画の存在が知られてしまった」
「...そうだな。向こうが油断するまで、当分は延期か」
その返しに、彼はわざとらしく肩を竦めた。
「まどろっこしい事だな。
―――その必要は無い。機会さえあれば、いつにでも」
金魚の年齢→人間換算
1歳→16歳
2歳→24歳
3歳→30歳
4歳→35歳
程度です。
但しベニッピーの場合は不老なので、精神年齢になります。




