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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
38/92

38話 謎

 ベルタと別れ、俺たちは今、また外を歩いている。


 うぬぬ。

 エーギル城で侵攻に関する情報を集めようと思っていたのに、出てきてしまった。というか、出るしかなかったのだが。

 塔を破壊してもお咎めなしで済んだのだから、流石にそれ以上城に留まったら不自然だ。


 前にもあったなぁ、不本意ながらも情報を集められずに出発したこと。

 ...そうか、こっちに来て直ぐの事か。


 ま、以前と違ってそこまで重要な事ではないか。

 情報収集はもともとベルタがやっていたことだし、俺たちは、そのついでの軽い気持ちだったのだから。



 エーギルはリフィン群島の北端に位置するので、またすぐに船旅だ。

 この後は「プアパ島」を一度経由したら、もう魔大陸である。


 サトリの芭蕉扇アクシデントで、かなり時間が短縮できたな。

 ...そういえば。


「サトリ、芭蕉扇に流した魔力、あれはどこから出したんだ?」


 彼女の魔力量は多いが、あの時はそれ以上の量を使っていたように感じたのだ。

 サトリが、ついにバレたか! というような表情をする。


「最近、魔力タンクが出来たのよね!

 通常なら外に放出し続ける分を溜め込んでおいて、好きな時に出せるのよ」

「なんだその反則級の能力は」


 え、ズルくない? 俺も欲しいわ。いいなー。


「エマームで限界まで溜め込み続けたからかしらね?

 それから他にも...」

「まだ何かあるのか」

「...わからないわ。まだ完全には発現してないのよ。それに多分、使い道は無いと思うし...」


 パタパタと扇で自分を煽ぎながら、うーん、と眉を寄せて唸っている。

 何かあるんだな。何を言っているのか全くわからないが。

 ま、使うときが来るといいな。



「そういや、ケヴィン。

 勇者ってやっぱり、剣と盾、鎧と兜を装備した正義感溢れる爽やか系の人物なのか?」


 日本のテレビに映っていた「勇者」は、大体皆そんな感じだった。

 こちらの勇者もそうなのかと思って問いかけると、


「そんなことは無い。「勇者」はあくまでもランク7冒険者の中での最高称号だからな。

 それぞれのスタイルにあった装備や性格をしている。

 魔大陸で待っているのは、二人居るのだが...」


 そこで彼は一旦言葉を切り、変な顔で考えている。



「一人は、軽装備で影が薄い。

 もう一人は重装備だが、武器は持っていない。

 二人とも、正義感は...どうだろうな...」


 俺の脳裏に、白装束の幽霊と動く重鎧の魔物(リビングアーマー)が浮かぶ。


「なぁ、それって人なのか...?」

「……そうだが?」


 何を言っているんだこいつは、という目でケヴィンがこちらを見ている。

 

 あーー、よかった。

 ほら、前に「この世界の者だと神は殺せない可能性を考えた」とか言っていたから、幽霊や魔物でも試してみたのかと考えてしまったのだ。

 魚や妖怪でも冒険者になれるしな。





 島の最北端で船に乗り、途中で海の魔物に遭遇することもなく、プアパ島に到着した。

 この島は、住人の格好が派手過ぎる。アマビエが狂喜乱舞しそうだ。

 

 しかし、トラブルが無いと快適だな。


 そういえばまだ、ガルからのトラブル連絡は無い。

 一日2回くらい、定期的に「現在平和」の青色魔石がちゃんと光っている。


 すぐに再侵攻しない理由は何だろう。

 俺を警戒しているのか?

 だとしても、城が失われた今がチャンスなのは変わらない。


 ―――考えたくは無いが、おそらく確実にガルを討ち取るために、念入りに準備でもしているのだろうな。

 絶対に引っかかる罠とか?

 仮に違ったとしても...サークレットのスイッチはオフにしっぱなしだな。気が重い……。




「ベニ坊。ワシの杖を鑑定してくれんかの?」


 唐突にコダ爺が言った。


「なんかのぅ...最近、杖がモゾモゾするんじゃよ。

 ワシの(まこと)を見抜く能力は、基本的に生物にのみ発揮されるからの。自分ではわからないのじゃ」


 そう言って、俺の前に杖を出す。

 よし。モゾモゾの原因を突き止めてやろうじゃないか。


 鑑定!


【 ワシの杖 】

  

  素材:ガオケレナ

  特性:成長する

  現状:名前を変えてほしがっている

  能力:使用すると、対象者の理性を取り戻させる。

  

  命名者:コダマ(ノーム)



「成長する杖らしいぞ。現在の名前「ワシの杖」が気に入らないようだな」

「なにぃ。「ワシの杖」が不服と申すか!」

「そりゃそうだろうよ...」


 むぅ、と唸ったコダ爺は杖をしげしげと眺めると、にぱっと笑った。


「決めてやったぞい。

 こやつの名前は「マダコ」じゃ!」


 なんという安直な名付け(ネーミング)

 ウラリーとはまた別ベクトルのセンスだ。

 これがアルゴスの上位精霊……(あなど)れん...。



 コダマが名前を叫んだ瞬間、杖の先端から、ポン! と双葉が生えた。

 そして、葉っぱも叫ぶ。


「誰がマダコじゃ!

 (わらわ)は圧倒的にミズダコ派。真蛸(まだこ)は食べ甲斐が無い!」


「.........。」


 

 もはやどこからツッコめばいいのかわからん。

 もういっそ、何も見なかった、聞かなかった事に...。


「うっ...!

 い、いきなり叫んでしもたから体力が一気に削られて...っ!

 もう、寝る……」


「.........。」


 杖は沈黙した。

 双葉も、シュッ! と杖の中に消えていく。


 うん、何も無かった。

 今のは集団幻覚だった。そうに違いない。

 現に3人とも、まだポカンとしているからな。




 よくわからない事は先送りにして、旅を続ける。

 そろそろ、魔大陸に渡る前に詳細な計画を決めておかないとな。


 ということで、ケヴィンから魔族に関する話を聞く。


「主に魔族が住む魔大陸の中央に、魔皇帝の城がある。そして各領を統治する魔王城が、全部で10程点在している。

 おれが所属しているのは大陸南端のカウラ城。カウラの現王「サイラス」は穏やかな人格者で、領民からの人気も高い」

「お前に召喚プロジェクトを任せた人物か?」

「そうだ。だが彼が、世界の異変を止める為に神を殺めるなどという発想を、自分で思いつくとは考えにくい。

 どこからか吹き込まれたに違いない。...誰にでも優しいからな、あの人は...」


 彼は、やや困ったような微笑みを浮かべた。珍しい。

 本当に、慕われている王様のようだ。


「魔皇帝のことは知っているのか?」

「少しな。あの方は...おれが知る人物の中で、一番底知れない。

 悪い方ではないが、嗅ぎまわるのなら気をつけろ。絶対にバレるだろうから」

 

 あ、そう。

 じゃあやめておこう。安全第一だからな。


「おれは大陸に着いたら、おまえたちから離れるかもしれない。

 だから今のうちに、知りたいことは聞いておけ」

「じゃあ...今できるだけ、助言をくれ」


 知りたい事すら、まだわからないからな。


 ケヴィンはしばらく考え込むと、顔を上げてこちらを見た。

 

「コダマ爺さんは、基本は居ない者。サトリは、普通の天族として振舞う。

 そしてお前は、何も考えずに心のままに行動しろ。

 何か企んでいると思われるのが、一番不味い」

「了解」

 

 

 本能的に動くのは得意だ。

 なにせ、魚だからな。




 そして最後の船旅も無事に終え、ついに俺たちは魔大陸に上陸した。


 俺が召喚された場所。

 よく考えたら、海鳥さん、相当の距離をハイスピードで飛んでたんだな...。

 あの時はありがとうございました。


 この地を踏んだからもう、いつ龍宮城に転移しても、また戻ってくることができる。

 

 ふぅぅぅ―――。

 長かったぁーー...。


 

 船を降りて辺りを見回すと、見たことの無い魔物が海岸にウロウロしている。

 灰茶色のずんぐりむっくりした、可愛いやつらだ。

 人々は、全く気にしていない。


「なんだ? あいつら」

「ウォンバタスだ。魔物だが無害なので、放置されている。

 この大陸ではそういうケースの種族が多いぞ」


 へぇ。

 ここは魔力濃度が濃いようだから、普通の動物が魔物化したりするのだろうか。


「こっちだ」


 ケヴィンの案内に従ってついていく。

 平坦な街中を抜け、急に現れた崖を回って登ると、巨大な城が現れた。

 隣には、これまた大きい研究施設のような建物も付属している。



「ああぁぁ!!」

「な、なによ!?」


 唐突に叫んだ俺に、皆がビクッとする。


「俺、最初にここに居たんなら、始めから転移してこられたんじゃ!?」


 だが、コダ爺が首を傾げた。


「それは無理じゃったと思うのぅ。一度居たことのある場所とはいえ、本人が具体的な位置を把握していなければ、転移は不可能じゃろう」

「そ、そうか。なら...無駄足にならずに済んで良かった」

「いきなり叫ばないでよ...」


 サトリにブツブツ言われながら、王城の門をくぐった。

 衛兵がケヴィンを見て敬礼する。

 軽く(ねぎら)いの言葉を掛けながらスタスタ歩いていく彼に遅れないよう、くっついていく。


 

 正面扉を通り、少し進んだところで一人の男が近づいてきた。

 彼は、ケヴィンに親し気に笑いかける。


「よ、久しぶりだなケヴィン。すっげー遅かったじゃねーか」

「ああ。色々あったからな」

「今会えてよかった。お前の友達の召喚師長から伝言を預かってるぜ」


 そう言って男がケヴィンに渡したのは、シンプルな封筒だった。


「お前たちが王に報告を済ませる前に会えたら渡してくれ、報告後になってしまったら捨ててくれって頼まれてたんだ」

「...彼女は今どこに?」

「仕事を終えて、一旦国に帰ったって聞いたな」


 ウラリーからの言伝(ことづて)って何だろうな。

 王との謁見前に読めって事なんだろうが。


「...わかった。ありがとな」

「応。じゃあまた後で」


 手を振って去っていく男を見送り、ケヴィンはその場で封筒を開けた。

 ざっと目を通して、眉を寄せる。


「どうした?」


 彼は難しい顔で手紙を見せてきた。

 中身の紙には一言。



 『アルゴスに寄ったことを、報告しないでください』

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