38話 謎
ベルタと別れ、俺たちは今、また外を歩いている。
うぬぬ。
エーギル城で侵攻に関する情報を集めようと思っていたのに、出てきてしまった。というか、出るしかなかったのだが。
塔を破壊してもお咎めなしで済んだのだから、流石にそれ以上城に留まったら不自然だ。
前にもあったなぁ、不本意ながらも情報を集められずに出発したこと。
...そうか、こっちに来て直ぐの事か。
ま、以前と違ってそこまで重要な事ではないか。
情報収集はもともとベルタがやっていたことだし、俺たちは、そのついでの軽い気持ちだったのだから。
エーギルはリフィン群島の北端に位置するので、またすぐに船旅だ。
この後は「プアパ島」を一度経由したら、もう魔大陸である。
サトリの芭蕉扇アクシデントで、かなり時間が短縮できたな。
...そういえば。
「サトリ、芭蕉扇に流した魔力、あれはどこから出したんだ?」
彼女の魔力量は多いが、あの時はそれ以上の量を使っていたように感じたのだ。
サトリが、ついにバレたか! というような表情をする。
「最近、魔力タンクが出来たのよね!
通常なら外に放出し続ける分を溜め込んでおいて、好きな時に出せるのよ」
「なんだその反則級の能力は」
え、ズルくない? 俺も欲しいわ。いいなー。
「エマームで限界まで溜め込み続けたからかしらね?
それから他にも...」
「まだ何かあるのか」
「...わからないわ。まだ完全には発現してないのよ。それに多分、使い道は無いと思うし...」
パタパタと扇で自分を煽ぎながら、うーん、と眉を寄せて唸っている。
何かあるんだな。何を言っているのか全くわからないが。
ま、使うときが来るといいな。
「そういや、ケヴィン。
勇者ってやっぱり、剣と盾、鎧と兜を装備した正義感溢れる爽やか系の人物なのか?」
日本のテレビに映っていた「勇者」は、大体皆そんな感じだった。
こちらの勇者もそうなのかと思って問いかけると、
「そんなことは無い。「勇者」はあくまでもランク7冒険者の中での最高称号だからな。
それぞれのスタイルにあった装備や性格をしている。
魔大陸で待っているのは、二人居るのだが...」
そこで彼は一旦言葉を切り、変な顔で考えている。
「一人は、軽装備で影が薄い。
もう一人は重装備だが、武器は持っていない。
二人とも、正義感は...どうだろうな...」
俺の脳裏に、白装束の幽霊と動く重鎧の魔物が浮かぶ。
「なぁ、それって人なのか...?」
「……そうだが?」
何を言っているんだこいつは、という目でケヴィンがこちらを見ている。
あーー、よかった。
ほら、前に「この世界の者だと神は殺せない可能性を考えた」とか言っていたから、幽霊や魔物でも試してみたのかと考えてしまったのだ。
魚や妖怪でも冒険者になれるしな。
島の最北端で船に乗り、途中で海の魔物に遭遇することもなく、プアパ島に到着した。
この島は、住人の格好が派手過ぎる。アマビエが狂喜乱舞しそうだ。
しかし、トラブルが無いと快適だな。
そういえばまだ、ガルからのトラブル連絡は無い。
一日2回くらい、定期的に「現在平和」の青色魔石がちゃんと光っている。
すぐに再侵攻しない理由は何だろう。
俺を警戒しているのか?
だとしても、城が失われた今がチャンスなのは変わらない。
―――考えたくは無いが、おそらく確実にガルを討ち取るために、念入りに準備でもしているのだろうな。
絶対に引っかかる罠とか?
仮に違ったとしても...サークレットのスイッチはオフにしっぱなしだな。気が重い……。
「ベニ坊。ワシの杖を鑑定してくれんかの?」
唐突にコダ爺が言った。
「なんかのぅ...最近、杖がモゾモゾするんじゃよ。
ワシの真を見抜く能力は、基本的に生物にのみ発揮されるからの。自分ではわからないのじゃ」
そう言って、俺の前に杖を出す。
よし。モゾモゾの原因を突き止めてやろうじゃないか。
鑑定!
【 ワシの杖 】
素材:ガオケレナ
特性:成長する
現状:名前を変えてほしがっている
能力:使用すると、対象者の理性を取り戻させる。
命名者:コダマ(ノーム)
「成長する杖らしいぞ。現在の名前「ワシの杖」が気に入らないようだな」
「なにぃ。「ワシの杖」が不服と申すか!」
「そりゃそうだろうよ...」
むぅ、と唸ったコダ爺は杖をしげしげと眺めると、にぱっと笑った。
「決めてやったぞい。
こやつの名前は「マダコ」じゃ!」
なんという安直な名付け!
ウラリーとはまた別ベクトルのセンスだ。
これがアルゴスの上位精霊……侮れん...。
コダマが名前を叫んだ瞬間、杖の先端から、ポン! と双葉が生えた。
そして、葉っぱも叫ぶ。
「誰がマダコじゃ!
妾は圧倒的にミズダコ派。真蛸は食べ甲斐が無い!」
「.........。」
もはやどこからツッコめばいいのかわからん。
もういっそ、何も見なかった、聞かなかった事に...。
「うっ...!
い、いきなり叫んでしもたから体力が一気に削られて...っ!
もう、寝る……」
「.........。」
杖は沈黙した。
双葉も、シュッ! と杖の中に消えていく。
うん、何も無かった。
今のは集団幻覚だった。そうに違いない。
現に3人とも、まだポカンとしているからな。
よくわからない事は先送りにして、旅を続ける。
そろそろ、魔大陸に渡る前に詳細な計画を決めておかないとな。
ということで、ケヴィンから魔族に関する話を聞く。
「主に魔族が住む魔大陸の中央に、魔皇帝の城がある。そして各領を統治する魔王城が、全部で10程点在している。
おれが所属しているのは大陸南端のカウラ城。カウラの現王「サイラス」は穏やかな人格者で、領民からの人気も高い」
「お前に召喚プロジェクトを任せた人物か?」
「そうだ。だが彼が、世界の異変を止める為に神を殺めるなどという発想を、自分で思いつくとは考えにくい。
どこからか吹き込まれたに違いない。...誰にでも優しいからな、あの人は...」
彼は、やや困ったような微笑みを浮かべた。珍しい。
本当に、慕われている王様のようだ。
「魔皇帝のことは知っているのか?」
「少しな。あの方は...おれが知る人物の中で、一番底知れない。
悪い方ではないが、嗅ぎまわるのなら気をつけろ。絶対にバレるだろうから」
あ、そう。
じゃあやめておこう。安全第一だからな。
「おれは大陸に着いたら、おまえたちから離れるかもしれない。
だから今のうちに、知りたいことは聞いておけ」
「じゃあ...今できるだけ、助言をくれ」
知りたい事すら、まだわからないからな。
ケヴィンはしばらく考え込むと、顔を上げてこちらを見た。
「コダマ爺さんは、基本は居ない者。サトリは、普通の天族として振舞う。
そしてお前は、何も考えずに心のままに行動しろ。
何か企んでいると思われるのが、一番不味い」
「了解」
本能的に動くのは得意だ。
なにせ、魚だからな。
そして最後の船旅も無事に終え、ついに俺たちは魔大陸に上陸した。
俺が召喚された場所。
よく考えたら、海鳥さん、相当の距離をハイスピードで飛んでたんだな...。
あの時はありがとうございました。
この地を踏んだからもう、いつ龍宮城に転移しても、また戻ってくることができる。
ふぅぅぅ―――。
長かったぁーー...。
船を降りて辺りを見回すと、見たことの無い魔物が海岸にウロウロしている。
灰茶色のずんぐりむっくりした、可愛いやつらだ。
人々は、全く気にしていない。
「なんだ? あいつら」
「ウォンバタスだ。魔物だが無害なので、放置されている。
この大陸ではそういうケースの種族が多いぞ」
へぇ。
ここは魔力濃度が濃いようだから、普通の動物が魔物化したりするのだろうか。
「こっちだ」
ケヴィンの案内に従ってついていく。
平坦な街中を抜け、急に現れた崖を回って登ると、巨大な城が現れた。
隣には、これまた大きい研究施設のような建物も付属している。
「ああぁぁ!!」
「な、なによ!?」
唐突に叫んだ俺に、皆がビクッとする。
「俺、最初にここに居たんなら、始めから転移してこられたんじゃ!?」
だが、コダ爺が首を傾げた。
「それは無理じゃったと思うのぅ。一度居たことのある場所とはいえ、本人が具体的な位置を把握していなければ、転移は不可能じゃろう」
「そ、そうか。なら...無駄足にならずに済んで良かった」
「いきなり叫ばないでよ...」
サトリにブツブツ言われながら、王城の門をくぐった。
衛兵がケヴィンを見て敬礼する。
軽く労いの言葉を掛けながらスタスタ歩いていく彼に遅れないよう、くっついていく。
正面扉を通り、少し進んだところで一人の男が近づいてきた。
彼は、ケヴィンに親し気に笑いかける。
「よ、久しぶりだなケヴィン。すっげー遅かったじゃねーか」
「ああ。色々あったからな」
「今会えてよかった。お前の友達の召喚師長から伝言を預かってるぜ」
そう言って男がケヴィンに渡したのは、シンプルな封筒だった。
「お前たちが王に報告を済ませる前に会えたら渡してくれ、報告後になってしまったら捨ててくれって頼まれてたんだ」
「...彼女は今どこに?」
「仕事を終えて、一旦国に帰ったって聞いたな」
ウラリーからの言伝って何だろうな。
王との謁見前に読めって事なんだろうが。
「...わかった。ありがとな」
「応。じゃあまた後で」
手を振って去っていく男を見送り、ケヴィンはその場で封筒を開けた。
ざっと目を通して、眉を寄せる。
「どうした?」
彼は難しい顔で手紙を見せてきた。
中身の紙には一言。
『アルゴスに寄ったことを、報告しないでください』




