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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
39/92

39話 カウラ

「ど、どういう事だ?」

「ワシの存在を隠せということかのぅ?」

「いや...上位精霊を確実に連れてこられたかどうか、ウラリーは知らない。

 だから、その前段階の...神の周辺の異常に感づいている事自体を隠匿せよ、という事だろう」

「でも私たちは、悪魔が陰で動いていて魔大陸にまで居るかもしれないのを知っているけれど、彼女は知らないはずよ?

 つまり...ウラリーはいつどうやってか知らないけど、ここカウラにまで怪しい奴の手が伸びている事に気付いたのね...?」


 相手を警戒させないための伝言か。

 だが...。


「じゃあさ、ウラリーが帰還した際には、俺たちがアルゴスに向かった事を報告していないって事だよな?

 いつ、気付いたんだ。速すぎないか...?」

「それに、ワシらが伝言を受け取れなかった場合は、彼女の報告と差異が生じるのぅ。

 さすれば、彼女は怪しまれてしまうじゃろう。

 その危険を冒してまで、何故このような...」


 俺たちは城内の廊下で固まってしまったが、すっと突っ立っているわけにもいかない。

 とりあえず歩き出し、報告の際には一()ず彼女の言う通りにすることにした。


 2階、3階とエスカレーター(流石(さすが)魔王城!)を上り、ごっつい扉を重々しく開かれた先に進んむ。


 

 大広間の奥には、ニコニコしたおじいちゃんが居た。

 居心地の良さそうな木の椅子に座り、ヒョイヒョイと手招いている。


 扉まではあんなに仰々(ぎょうぎょう)しかったのに、この空間は暖かみのある絨毯が敷かれ、クリーム色の壁紙に、大きな風景画が掛かっている。


 促されるままに俺たちは木製の長テーブルにつく。

 こちらを見渡して、うむうむと頷いた彼は、歓迎するように両手を広げた。


「よう来てくださった、異世界から呼び寄せてしまった(かた)よ。

 儂の名はサイラス。そなたが、ベニッピー殿かの?」


「ああ」

「まずは、こちらの勝手な都合で召喚してしまった事をお詫びする。

 申し訳なかった。存分に文句を言っていただいて構わない」


 そう言って頭を下げた彼を、俺は手で制す。


「いや、事情は聞いているから。それに俺は、元の世界にそこまで未練はないからな。

 謝る必要は無いんだ」


「そうか...では、お礼を申し上げる。

 こちらがやろうとしている事に、協力してくださると聞いた」


 もう一度、王は頭を下げた。

 今度は俺も止めない。


「いいんだ。ここでやりたい事とか無いからな。

 目的も無く生きていくのはどうなんだって意見も存在するが、俺はヒトじゃない。

 嫌じゃなければ、流されるままに生きていく。それが金魚だ」


 王は少しだけ驚いたように瞬きして、微笑んだ。


「ありがとう。貴方が来てくださって、本当に良かった」



 それからサイラス王はケヴィンを労い、なぜかサトリとも仲良くなると、俺たちは大広間を退出した。


「なかなか落ち着きのあるおじいちゃんだったわね。コダマも見習えば?」

「おぬしの方が見習え!」



 ふと、ケヴィンが足を止めて振り返る。


「おれは、この後おまえたちを「勇者」に引き合わせたら、しばらく別行動になる。

 ...ウラリーの件が非常に気になるからな。仕事と同時に、それを密かに探ってみる」

「そうね、それがいいわ」

「わかった。こっちも諜報を頑張るよ」


 2階に下りて廊下を歩き、奥の方の部屋の前に到着した。

 ケヴィンが扉をノックする。


「失礼。入るぞ」


 ドアを開けて中に入り、部屋を見渡すが、誰も居ない。


「なぁ、ここに二人の冒険者が居るんだろ?」

「ああ。連絡がいっているから、この部屋で待っているはずなんだが...」


 首を捻りながら室内を見渡し、何となく上に目を向けると...。

 

 いた。


 

 一人が天井に張り付き、その傍に小さな全身鎧(プレートアーマー)が浮かんでいる。


「......。」

「......。」


 互いに何も言えない。

 誰かこの空気を何とかして。



 すると、全身鎧が動き、おもむろに天井の人物の背中を蹴り上げた。

 堪らず、落ちてくる男。


「...。」

「...。」


 いや、何か言えよ!

 なんで黙ってるんだよ!!


 と思ったら、男が背中をさすりながら会釈した。


「どうも......。」


「それだけかい!」


 あ、思わず声に出してツッコんでしまった。


 ふわりと鎧が降りてきた。


「アンタが変な事やってるから、思いっきり引かれたあるよ。

 この空気をさっさとなんとかするある、元凶!」


 まさかの、鎧の中から少女の声が!

 しかも、「あるっ()」!


 若い男の方が、軽く頭を下げた。


「すんませんした。人見知りなんすよ、僕。

 緊張しちゃって、思わず天井に...」


 思わず天井にって言葉、初めて聞いたぜ...。


 

 気を取り直して挨拶をする。


「初めまして、ベニッピーだ。異世界から来た。よろしくな。

 あんたらが「勇者」か?」

「サトリよ。ベニッピーの友達。よろしくね」


 男は立ち上がって服のホコリを払い、鎧の方も兜をとった。


「イズナ・ハリットです。勇者ではないです」

「レイラ・コーニングある! コイツはこんな事言ってるけど、世間一般的には勇者あるよ。

 よろしくある」


 なるほどな。

 影の薄い軽装備と、重装備ってこういう事か。

 

 イズナの方は、黒髪青目のまるっきり日本の忍者スタイルだ。年齢は20歳くらいだろう。

 兜を上げたレイラの方は、金髪碧眼の美少女だった。身長が低いから幼く見えるが、年齢不詳だ。


 ケヴィンが苦笑している。


「イズナ、レイラ。おれは暫く離れるから、ここから先は彼らを頼む」

「わかった、任せるあるね!」

「了解っす(何をどうすりゃいいんだろ...)」


「それから、ベニッピー、サトリ、コダマ爺さん(・・・・・・)

 彼らは招集された側だから、隠さなくて大丈夫だ」


 その言葉に、俺とサトリは人化を解き、コダ爺は姿を現した。


 

 ――― さすがに、仰天されてしまった。

 特にイズナ。

 一瞬で部屋の奥まで移動している。


「ワシは居ない事になっとるから、表向きは見えていないフリをしとくれ」

「お...驚いたある。魚と、狼で、上位精霊まで居たあるか...。

 了解あるね」

「......!」


 ケヴィンはこちらの様子を面白そうに眺めると、手をあげた。


「では、おれはそろそろ行く。世話になったな」


「こっちこそ、かなり世話になった。また今度な」

「誰も見ていない時に、一人で突っ走っちゃダメよー」

「ふぉふぉ、次に相まみえる時まで精進せよ」


 俺たちも手を振って、ケヴィンは去っていった。

 仕事が溜まってるだろうなー。大変だなー。


「そういや、お前らは人間なのか?」


 二人に聞く。

 レイラの方は、違いそうな気がするな。


「僕はエルフです」

「ワタシは炭鉱族(ドワーフ)ある。ちっちゃいけど、もう19歳あるよ!」


 どっちも人間じゃなかったか。


「そうか。俺は妖精の金魚だ。ちなみにまだ1歳」

「わたしは狼の妖怪よ。年齢は...二人よりは上ね」

「ワシはノームのコダマじゃ。歳は忘れてもうたわい!」


 実に、種族のバラエティが豊かだな。

 こうやって異種族が集まって同じ言語で話しているのを見るのは結構おもしろい。

 


 この後、さらに軽く自己紹介をした。


 俺たちは一応神を倒すために招集された面子(メンツ)だから、戦闘時の役割分担の確認だ。


 イズナは、忍者。

 戦闘形態が、ザ・ニンジャ スタイルだった。

 手裏剣とか、小太刀の二刀流とか、回避重視とか、隠密の術とか。


 レイラは、魔法使い。

 全て魔法で攻撃・防御を行い、魔術で軽量化した全身鎧と巨大な盾を持って戦うらしい。

 武器は持たない。



「物理系が鎧の重装備で、魔法系がローブとかの軽装備だと思ってたぜ...」


「実際、そういう人は多いあるよ。

 でも、魔法が不得意な物理タイプは鎧の重さを軽減できないし、なんなら防具ナシで攻撃受けても結構へっちゃらある。

 逆に魔法タイプが強敵の攻撃食らうと、一撃で倒されるあるね。

 だから冒険者のランクが上がると、みんな大体こうなってくるある」

「なるほどな...」


 聞けば聞くほど、合理的だ。


「そっちの戦闘分担はどうなっているあるか?」


 げ。こっちか。俺たちは...


「行き当たりばったり?」

「...そうね」

「...そうじゃな」


 

 3人で縮こまる。

 おい、俺はともかく二人は年上の余裕を見せてくれよ。

 そうしないと...


「ダメあるね!」

「このままじゃ終わるっすね」


 

 ううぅぅぅ。

 ほらぁ、こうなった...。


「戦闘時の味方の連携は、何よりも大事ある。足を引っ張らない為にも、とことん確認しておくあるよ」

「今まではどうやって敵と戦ってたんすか?」


「一人ずつ小出しにして、ダメだったら次、って...。

 同時に戦うときも、各自バラバラに...」

「それでよくやってこれたあるね...」

「なまじ各自の実力があると、あるんすよねぇ…そういうコト」


 耳が痛てぇ!

 ケヴィン、お前が早々と去った理由がわかった気がするぜ。


「とにかく3人共、自分が出来ることを速やかに述べるある」

「はい!」

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