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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
36/92

36話 バナナ

 今日も空が青いな。見ているだけで楽しくなってくる。

 青いといえば...そうだ。


「あるぅ日ぃ。海のぉ中ぁ。ドラゴン(蒼い海龍)にぃ。出ぇ会ーったぁ」


「またベニッピーさんが酔っちゃったわ」

「水掛けるか?」

「いや、おもしろい酔い方だからそのままにしておこう」

「でもいつ海に飛び込むかわかりませんよ?」

「水の用意だけはしておきましょう」


 甲板に寝転んで空を見上げて歌っていると、船の乗客たちが覗き込んできた。

 俺、酔ってなんかいないよ?


  

 すると、どこからかサトリに乗ったコダ爺が現れて、ガオケレナの枝...を削って完成させた杖を振りかざした。

 杖の先端から溢れた柔らかい光が、俺を包み込む。

 

 

 光が収まった時、俺は覚醒していた。

 ハイ、さっきは酔っていました。すいません。


「ふぉ。どうじゃ、ワシの杖の威力は!」

「はいはい、ありがとな。凄いよーって、もう何回目だよこれ言うの」

「やっぱり、ガオケレナの無駄遣いな気がするわ...」


 コダ爺の枝は、「使用すると対象者の理性を取り戻す」杖へと進化した。

 今のような状況では非常に重宝する。

 でも一番力を発揮するのは、酔っ払いに絡まれた時だろうな。


 酒場の店主が見たら、喉から手が出るほど欲しがりそうだ。


「無駄遣いとはなんじゃ。おぬしだったらどうしていたのじゃ」

「そうねぇ...相手の理性を奪う能力がいいわ」

「そんな賭け事みたいな効果で一体何をする気じゃ!」


 どっちもどっちだな。

 後者の場合は、外交官とかが欲しがりそうだ。



 乗客たちは、俺が突然正気に戻っても驚いたりはしない。

 透明な魔法使いの仲間がいると説明してあるからだ。

 サトリも、いつの間にかちゃっかり人化するようになっている。


 そして俺たち二人(+1人)の乗船料は、結局タダにしてもらえた。

 いぇい。



 

 そんなこんなで残り数日の船旅を、楽しく終えた。

 他のお客さんや船員とも仲良くなって、心のエネルギーが充填された感じだ。

 

 たまにはのんびりするのもいいよな。

 近いうちに確実にエーギルが攻めてくるんだから、それまでは心を安らかに、ストレスを溜めずにいた方が良いだろう。


 うん。力を抜こう。




 船着き場で船を降り、大きく伸びをする。

 やっぱり揺れない地面は良い。

 まだ床が動いている感覚が消えないがな。


 ここはリフィン群島の南端。

 ケヴィンは一度通った場所だが、俺とコダ爺、サトリにとっては初めてだ。

 3人共、思わずキョロキョロしてしまう。


 ザ・南国といったところか。

 強烈な日射しの中、人々は皆、薄い半袖の服を着ている。

 何の素材だろう。綿じゃないな。


「コダ爺、ここの人たちの服は何でできてるんだ?」


 気になったので聞いてみた。

 物知り爺さんは人々を一瞥すると、事も無げに答えてくれる。


「あれは主にバナナの葉じゃ。パイナップルも入っておるの」

「まじか。通気性が良さそうだな」

「...現地の服に着替えようかしら」


 サトリがじっと、通りの服飾店を見据えている。


 暑さに弱い彼女は今、船の土産物店で購入した日傘を差したうえで、さらに俺の涼しい結界で守られている。

 

「結界があるからあまり変わらないと思うぞ。なんなら着物の方が、身八つ口(みやつぐち)がある分快適かもしれない」

「確かにそうね。ケヴィンは暑くないの?」

「気温が何度だろうと、火の中にいるよりはマシだろう」


 ダラダラと汗をかきながら、ケヴィンが謎理論を展開している。

 つまり暑いんだな。いいからコート脱げよ。



 彼にもヒンヤリ結界を張ってやりながら、移動を開始した。

 

 リフィン群島は大小様々な島で構成されており、エーギルが存在するのは北方の大きな島だ。

 それまでは陸路と短い海路を繰り返すのだが ―――。



 数日後。


「あー、もう見飽きたわバナナ!」

「この前はバナナ服が着たいって言ってたのに」

「こんなに沢山生えているのなら、そりゃあ衣食住全部バナナにもなるわよね!」

「家は普通じゃろ...」


 俺たちは今、エーギルまで最短距離で行くために、大きな街道沿いではなくバナナの森を突っ切っている。

 前後左右をバナナの樹で囲まれて、たまに出現する魔物も毒々しい色のバナナ型。

 そいつらが「バーナナーッ!」とか言いながらバナナの皮を投げつけてくるのだから、サトリの気持ちも非常にわかる。


 粛々と足を進めていると、樹の影から何かが飛び出してきた。


「バァーナナァーーッッ!!」


「また出た! 飛んでくる皮に気をつけろ!」

「もう嫌! 他にも何か言葉覚えなさいよ!」

「あっ...サトリ、足元!」

「え?」


 彼女が踏み出した先の足元には、バナナの皮が落ちていた。

 なんなくそれを避け...た先の地面にも、落ちていた。

 踏んずけてしまい、ズルッと滑る。


「きゃ...え!?」


 なんと、滑った足をのせてバランスを取ろうとした場所にも、落ちていた。

 

 つまり。サトリの周辺にだけ、バナナの皮が集中的に落ちていたのだ。


 滑っては踏ん張ろうとしてまた滑って...を何度か繰り返した結果。


「きゃああぁぁぁーーーっ!!!」



 サトリは、物凄く勢いがついて、どこかに飛んで行ってしまった。





「えぇ...嘘だろ?」

「バナナの皮で滑るだけならともかく、飛んでいったぞ...」

「あやつだけ、ギャグの世界に生きておるのか...?」


 残された俺たちはしばし呆然とした後、慌てて彼女を探し始めた。





 サトリは、バナナの森のどこかに着地していた。

 さっきはあまりにビックリして、途中で翼で飛ぶことも考え付かなかった。


 ベニッピーから離れたことで、暑さを和らげる結界も解けてしまった。

 早く戻ろうと、飛び上がろうとしたところで、何かの気配を感じて振り返る。



 一人の男がこちらを見ていた。

 神話に出てくる神が着ていそうな、白い布の服を纏っている。ただしその素材はバナナだろう。

 そして、彼が寄りかかっている樹はバナナではなかった。

 とてもよく似ているが、葉の形や作りが少し違う。別の種類の木だ。


「こんにちは、お嬢さん。貴女が探しているのは、この銀の(おうぎ)かな?」


 男は、銀色に光る扇を広げて見せ、パタパタと煽ぐ。

 サトリは首を振った。


「いえ、違うわ」


「それじゃあ、この金の扇かな?」


 今度は金色の扇を見せ、ヒラヒラと振る。


「違うわ。この暑い中、とっても魅力的に見えるけれど。

 私の落とし物じゃないわ」


「では...この、葉っぱの扇を探しているのかい?」


 また別の扇を取り出して見せる。

 バナナか、男が居る木の葉か...巨大な葉をくり抜いて作った、軽そうな扇だ。

 その品からは、とてつもない魔力を感じる。


 だが。


「私が探そうと思っていたのは、仲間よ。

 確かに扇は欲しいけれど、今は暑いなんて言っている場合じゃないわ」


 サトリがきっぱりと言うと、謎の男は微笑んだ。


「そうか。君は正直だね。それに、欲深くもない。

 この3つの扇は、貴女に譲ろう。君は、持ち主として相応(ふさわ)しい」

 

 男はそう言うと、扇をサトリに渡し、忽然と姿を消してしまった。



「なんだったのかしら...」


 男の正体は、最後までサトリにも読めなかった。





「いやじゃ。そっちには行きとうない」

「なんでだよ。たぶん、何かがあるって事だろ?」

「ちょっと嫌な何かが居る気がするのじゃぁ」


 何故かごねるコダ爺と問答をしていると、その問題の方角からサトリが飛んで戻ってきた。

 葉っぱと、キラキラした扇?を手に持っている。


「ただいま。戻ったわよ」

「おかえりー。何だそれ?」

「変な人に貰ったのよ」


 サトリは得意げに扇を見せた。

 少女に3枚も扇を与えるとか、どんな変人だよ。


 と突っ込んでいると、コダ爺がカッと目を開いた。


芭蕉扇(ばしょうせん)じゃ...!」


 バショーセン?


「バショウの葉でできておる、伝説の扇じゃ。一振りで大風を巻き起こすと言われておる。

 過去に一度世に出たが、長らく行方不明になっておったという」

「それはおれも聞いたことがあるな。如意棒と同じく、使い手の魔力量に応じて威力が変化するという」


 コダ爺とケヴィンが説明してくれた。

 

「強風を起こして、何をするんだ?」

「雲を吹っ飛ばしたり、台風を作ったりするらしいぞ」

「...あんまり使えないな」

「普通の軽い扇として使えるなら、それで十分よ」


 サトリは満足そうに、芭蕉扇でパタパタと自分を煽いでいる。

 重たい金銀の扇は俺に押し付けられてしまった。

 収納にしまって...永遠に存在を忘れそうだな。



「雨が降ったら、雨雲を消し飛ばしてあげるわ」

「そりゃ有難いな。練習に、今何か煽いでみたらどうだ?」

「地面を煽げば、飛んで移動ができそうだな...」

「いいわね! ちょっとやってみましょう」


 ケヴィンがボソッと口にした提案に、サトリがのった。

 

 本当にやるの?

 お前、サトリに焼かれたことをもう忘れたのか...?

 彼女は魔力量は増える一方だが、それを扱う技術はまだあまり戻っていない。

 絶対ロクな事にならないって...。


 一抹の不安があったが、コダ爺まで乗り気である。

 仕方がないので、金魚になってサトリの頭に乗っかる。コダ爺はケヴィンの肩だ。

 最後にサトリがケヴィンの腕を掴み、もう片方の手で持った芭蕉扇を地面に向けて一振りする。


 

 彼女の莫大な魔力の一端が、葉っぱの扇にゆるゆると流れ込んでいくのを見た時、その時点で止めればよかったのだ。

 だが、今それを言ってももう遅い。



 俺たちが飛び上がるのと同時に地面がはじけ飛び、クレーターが出現する。

 そして、こちらは――――――。


 

 飛ぶ、なんて速度じゃない。

 やばい、速すぎる。眼下の景色が流星のごとく変化していく。

 命を置き去りにしそう。いや、魂を残していく…と言えるかな。

 

 ケヴィンなんて一瞬で意識を持っていかれている。



「ちょ、ちょちょ、スト...っ、ストプ...ッ!!」

「ど、どうやって!?」

「進行方向を…煽ぐのじゃ! 今度はそうっと!」

「わかったわ。―――あっ...し、城が!!」


 サトリがもう一度扇を振ろうとした先には、海の浅瀬に建つ白亜の巨城が見えた。

 

 この速度を緩められる威力の風をぶつけたら、おそらく城に甚大な被害が出る。

 さすがにそれはできないよな。


 彼女にためらう暇は無いのに、躊躇うしかなかった。

 だから。


 

 とにかく、俺は最大限強力な物理防御結界を展開する。

 そして勢いはそのままに、俺たちは一つの塔にぶち当たって、ボキッと折って破壊してしまった。



 敵国・エーギルの中心の城を。

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