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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
35/92

35話 セイレーン

 ベニッピーが新技を使って暴れまわっていた頃。

 ケヴィンも、岩礁の反対側でセイレーン達と戦っていた。


 足場の悪い岩場だが、時々翼を使ってバランスを取り、安定した動きを見せている。


「おまえら全員にこの剣一本ずつは無理だが、一太刀ずつならくれてやるよ」


 据わっているケヴィンの目に恐怖を覚えたのか、後退し始めるセイレーン。

 

 だが彼がそんな敵を逃すはずもなく、剣を振るう度に着実に一体一体切り伏せていく。

 一応セイレーンは飛べるのだが、彼も飛べるので、逃げるのは実質不可能なのである。


「どうした、この程度か? ボスは居ないのか」


 セイレーンの水攻撃も全て軽くいなしながら、ケヴィンが挑発する。

 その様子を遠くから見ていたサトリがぼやく。


「言っちゃったわ。出てくるんじゃない?」

「いや。セイレーンの群れにボスは存在しなかったと思うがのぅ?」


 コダマの言葉は正しい。彼女たちにボスは居ない。

 だが。


 突然、バラバラに逃げていたセイレーン達が、一斉にケヴィンを振り向いた。

 

「なんだ?」


 一瞬戸惑った彼を目がけ、セイレーンが同時に襲い掛かる。

 ケヴィンは咄嗟に翼で上へ飛んだが、辺り一面にいた敵に囲まれてしまった。


「急にどうしたのかしらね。この前と違って、特にヘマはしてないのに」

「あやつら、ケヴィンの奴を喰うつもりのようじゃな」

「セイレーンって肉食だったかしら?」

「食事ではない。相手を強い男だと認めると、吸血して自分たちを強化する習性があるのじゃよ」

「怖いわね。でもベニッピーは無視されてるわよ?」

「不思議じゃな」


 船の欄干の上に腰かけ、サトリはセイレーン団子の中心に居るであろうケヴィンに手を振った。


「ケヴィンー。血を吸われないように気を付けてねー」

「...くそっ、もう吸われてるぞ...っ、邪魔だ、離れろっ!」


 既に餌食になっていたようだ。

 セイレーンは一切の攻撃と防御・回避を止め、彼の吸血のみに専念しているらしい。

 バタバタと切り捨てられながらも、まだ数多くまとわりついている。


「ケヴィンったら剣士としては相当強いのに、どうしてこう残念なことになっちゃうのかしらね」

「詰めが甘いのじゃろうて。まぁ、経験不足という事じゃな」

「1歳のベニッピーと一緒にいるせいで、彼もまだ生まれて二十数年だってこと忘れてたわ」

「ふぉふぉっ。若人(わこうど)の成長は見ていて楽しいのぅ!」


 春の()の当たる縁側でお茶を啜るじーさんとばーさんのような会話をするコダマとサトリ。

 現実には、夜の海で座礁しかけている船の甲板の上だが。

 

 堪らず、ケヴィンからヘルプの要請がくる。


「コダマ爺さん! 何とかしてくれ!」

「よかろう。貴重な経験はつめたかの?」

「ああ。 もう油断して囲まれたりしない」

「素直でよろしい。サトリ、行ってやれ」

「呼ばれたあんたが行きなさいよ!」


 サトリに掴まれて岩礁に向かって投げられたコダマは、くるりと一回転して岩場に着地した。

 削りかけのガオケレナの枝をトンと地面に突くと、付近の岩がボコボコと壁から剥がれ、宙に浮く。


「ベニ坊の真似じゃ。岩壁の破片をくれてやるぞい!」


 セイレーン団子に枝の先を向けると、岩の破片は弾丸のように飛び、セイレーン達の翼を貫いた。

 しかし。


「イダダダダ! 爺さん、何てことをしてくれる!」


 飛行能力を失ったセイレーン達が、下に落ちまいと、ケヴィンに嚙みついたり爪を立てている力を強くする。

 一気に重量が増し、彼も飛んでいられなくなったようで、岩礁に落下した。


「すまんのぅ。ワシも経験不足だったようじゃ。まだまだ精進の余地が残っておるという事じゃな!」

「くそっ...サトリ!」

「はいはい。二人とも、全く人の事言えないんだから...。

 焼き払うから、回復かけ続けておいてねー」


 そう言うなり、サトリは船に乗ったまま手のひらをケヴィン達に向け、盛大な炎を放った。

 正に、腕が火炎放射器である。

 

「ギィエエエェェェェェーーーッッ!!」


 耳をつんざく断末魔の叫び声を上げるセイレーン団子。

 ケヴィンの悲鳴も交じっていたような気もするが、気のせいだろう。


 やがて、ブスブスと黒焦げで煙を上げるセイレーンの死体の間から、ケヴィンが這い出してきた。

 所々、焦げている。軽傷以上、重傷未満と言ったところか。


「...まあ、許容範囲ね」

「おぬしも精進の余地ありじゃの」

「......。(助けてもらった事に感謝をしているが、同時に同じくらい文句を言いたい)」





 ケヴィン達が3人掛かりでセイレーンを倒していた時。

 俺は徐々に酔いが醒め、冷静になっていた。

 

 4枚の羽根を震わせ、4体の敵を同時に低周波攻撃で倒せるくらいには新技に慣れた。

 もう十分だろうと思い、セイレーンに問いかける。


「お前ら、いつもはこの岩礁に居ないんだろう?

 どうしてここへ来たんだ?」


 心を覗いたら、(こんな所来なきゃよかった!)(化け物に遭遇するなんて!)

 みたいな事を考えていたのだ。


「...アマビエが、留守にしていたからヨ。普段はアイツのナワバリで、狩りはできないカラ」


 なるほど。あのピンクのおっさん(アマビエ)が抑止力だったのか。

 

「アマビエはもう戻ってきたから、早く帰った方がいいぞ」

「...わかっタ。アイツがいなくても、オマエみたいなのが現れる。もうコナイ」


 かなり数を減らしてしまったセイレーン達はそう言うと、次々と暗い夜空に飛び立って姿を消した。

 

 ――― ふう。



 船に戻ると、丁度向こう側の二人も戻ってきたところだった。

 起きだして外に出てきていたお客さんたちと、正気に返った船員たちがこちらを見ている。


 ...あ、いけね。

 人化している上に、髪が赤くてトンボの羽が生えている姿を見られてしまった。

 ()妖精に進化した時に、自動的に放出し続ける魔力を抑え込む術を身に着けたから、特に怖がられたりはしていないが。

 

 人外だという事と同時に、無賃乗船していることもバレてしまったよな。

 お魚だから許して~ってお願いするか。


 ポンと人化を解く。


「俺、魚だからタダ乗り許し...」


「ジ、ジャスパーだ!」

「本当だ! 実在したんだ」

「探していたあの人と一緒にいるわ。 見つかったのね」


 ...なぜそんなに有名なんだ、ジャスパー。


「俺は、確かに「ジャスパー」だが...名前はベニッピーだ」


 リョウタ様につけてもらった名前だ。

 正しく呼んでもらわなくては。


 すると人々から、ワッと反応が返ってきた。

 夜中だというのに、飛んだり跳ねたり、テンション高く喜んでいる。

 そんなに助かって嬉しかったのか。


「ありがとう、ベニッピーさん! 死なずに済んだよ!」

「そっちの兄ちゃんと嬢ちゃんもな! 凄かった!」

「ここでセイレーンと出くわしてしまうとは、想定外でした。

 あなた方のお陰で、お客様が全員無事でした。

 お礼を申し上げます!」


 

 正面から礼を言われると照れるな。

 今回は人も船にも被害が無かったし、後味も悪くない。


 ――― 何かあった時に、その場の全員を助けられると、こんなに清々しい気分になるんだな。


 

 この世界に来たばかりの時は、そんなに人間に興味が無かった。

 リョウタ様が人間だから、他の生き物より多少思い入れがあったくらいだ。

 むしろ、自然を破壊する狡猾な種族。すぐに差別をする臆病な生き物だというイメージですらあったのだが。


 こちらに来て、もう数ヶ月経つ。

 人がどのように暮らしているのかも、知ったから。


 この世界の人は...無条件で守るに値するのかもしれない。



 エマームでは――― 実は、人間を助ける気は無かった。

 まずは避難が間に合わない哀れな家畜。次に、何の罪も無い子供。そのついでに、大人も助けられればよかったのだ。


 だが、そう思っていたくせに、いざ切り捨てる時。目の前で人が死んでいく時に、胸が痛んだ。

 それも、どんどん痛みが酷くなって。

 

 俺にとっての人化とは、ただ便利だからするだけのものだ。

 人が好きだからその姿に近づこう、などと思ってするものではない。

 

 そう、なのだが。


 

 もう一度、人々の前で人化してみる。

 髪の色を変えず、背中の羽も隠さずに。


 そんな俺を見て、おぉぉとどよめく人たち。

 彼らの目に嫌悪や差別の色が無いことを確認して、初めて俺は笑みを浮かべた。


「どういたしまして。皆無事で良かったよ」


 ケヴィンとサトリも満足そうにしている。


「大したことはしてないわ」

「自分が戦いたかったから、セイレーンを倒しただけだ。礼はいらん」

「...ワシ、結局姿を見せなくてよかったかも...」


 若干1名、ボソッと呟いている者もいるが。



 俺だって、今回セイレーンと戦ったのは、ちょっとカチンときたところで酔った勢いに任せただけだ。

 しかし、次にまた同じような事があったら。

 

 

 何の理由がなくても、率先して人を助けてもいいかもしれない。

 

 そう思った。

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