33話 封印開放
ちょっと気になったことがあるので聞いてみる。
「なぁ、その化粧箱モドキってのが、なんか気になるんだが...。
その部分の過去を視てもいいか?」
「ワシも、記憶を覗いてみたいのぅ」
「えぇっ、そんな事ができるの~!? ヤダぁ、すっごぉい♡
いいわよン♪」
目をキラキラさせたアマビエに快く了承をもらえたので、コダ爺と二人で視てみる。
アマビエがその場面を思い浮かべてくれたようで、はっきりと映像が視えた。
ちなみに、俺には第三者視点で情景が見えるのだが、コダ爺には本人の視界に映ったものだけが見えるらしい。
――― アマビエが、目を閉じて鼻歌を歌いながら仰向けで海面を漂っている。
ポカポカと陽射しに暖められ、とても気持ちが良さそうだ。
そこに、波にもまれながら緑色の箱がゆっくりと近づいていく。
アマビエの頭にコツンと当たって、気付く。
不思議そうな表情で箱を手に取り首を傾げた後、目を輝かせて海岸に向かって泳ぎだす。
波打ち際で、待ちきれないように躊躇うことなく箱を開けた。
途端、砂浜に置かれた箱からモクモクと黒い煙が吹きだす。
焦った顔のアマビエが急いで蓋を閉めたが、何やら不穏な空気が漂っているのが感じられた ―――
...うん。なんというか、実に想像通りだった。
そして、推測通りでもあった。
「アマビエ。その化粧箱モドキとよく似た色違いの箱を見たことがある。
玉手箱っていうんだが...そっちには、飲んだ者を超強化させる水が入っているらしい」
「あっやしいわねぇ、本当にそうなのかしらぁ?
浴びちゃったら即死とかじゃないのぉ?」
...さすがに、そこまで危険な箱を置いとくか?
いや、でも、わざと敵に狙わせて口にさせたら効果的だな。
「コダ爺。今やったみたいに、ガルに魔力を届けて会話するのは可能だと思うか?」
無性に気になってきた。
ていうか、もし会話が可能だったら、この重い魔石軍団は不要になるな。
だが、コダ爺は首を振った。
「無理じゃと思うぞ。妖怪の方が特殊なのじゃ。
逆にベニ坊、おぬしに向かって魔力線が届いても、受け取って会話できるかの?」
「...できる気がしないな」
なるほど。確かに、無理だ。
妖怪すごすぎる。
「...そうだ。すぐに飛んできてくれたが、傷心の友達は放ってきて大丈夫だったのか?」
「大丈夫よん! もう回復したし♪ 「バハムート解放しろとか、どんだけぇ~」って愚痴を聞いてただけだからん♡」
まさかの、こいつの友人の上位精霊がバハムートの封印を解いただと...!?
うっそぉぉん。
......やべ、釣られた。
「よければ、詳しく聞かせてくれないか?」
「もっちろん! ...エーッとね、アチシのお友達の、水の上位精霊エレロちゃん。
アガリアって悪魔に命令されてぇ、フォルネウスって悪魔に協力させられてぇ~、「レムリーの大岩」をどかしてバハムートを開放しちゃったの!
あんな怪物を野に放っちゃったことにショックを受けて泣いてたけど、だんだん腹が立ってきたみたいで回復してくれたわ~」
うぉ、知らない単語が4つも出てきた。
友達が「エレロ」ちゃん。
その子に命令したのが、悪魔「アガリア」。
協力させられたのは、悪魔「フォルネウス」。
バハムートを封印していた「レムリーの大岩」。
...メモしたい。手帳が欲しい。
「どうして、エレロ…ちゃんは、悪魔アガリアに命令されたんだ?」
「なんか昔ぃ、アガリアに騙されてうっかり従う契約しちゃったらしいのよ~!
普段は放置されてるんだけどネ、たまぁ~に無茶な命令されるんですって!」
なにか考え込んでいたケヴィンが聞いた。
「レムリーの大岩をどかしたということは...バハムートは、あの有名な巨岩の下に封じられていたのか」
「そうよ~。近くの海に住む者なら、みぃんな知ってたことダワ。
お船が邪魔そうに避けてくから、できるならどかしてあげたかったケドねぇ~。
そうもいかなかったのよん!」
海上に突き出るほど大きな岩なのか。
...ガルたちはどうやって封印したんだろうな。
サトリが不思議そうな顔をしている。
「バハムート本人が、岩をどかす際に地震を起こしたと思ったんだけど...?」
「封印を半分くらいまで解いたら、自力で海底のプレートごと粉砕して出てきたらしいわぁ。
もぅ、信じらんないワよねぇ~! エレロちゃん、殺されちゃうかと思ったってぇ」
そんなにヤバい奴だったのかよ。
絶対に戦いたくないな。
戦うことになってもガルに丸投げしよう。
「悪魔フォルネウスってのは?」
「半透明の、巨人のオバケですってぇ。それ以上は、エレロちゃんにもよくわからなかったそうヨ~」
「不気味だな...」
それにしても、世界各地で本格的に悪魔がひっそりと活動しているな。
急いだほうがいいかもしれない。
「色々情報くれてありがとな。助かった。
船も通常に戻っただろうし、そろそろ行くよ」
別れの挨拶をすると、アマビエはクネクネしながら手を振って投げキッスをしてきた。
「ウゥン、こっちこそ、疫病のコト伝えてくれて助かったわぁ~♡
またいらっしゃ~~い♪!!」
港に戻ると、旅客船が出航の準備を進めていた。
他のお客さんたちにせっつかれて、急ピッチで作業が進んでいる。
俺たちもリフィン群島行きの乗船券を買い(ケヴィン一人分)、船の準備ができるまで街を散策することにした。
出航までに各自で船に乗り込む、現地集合スタイルである。
ケヴィンは武具の手入れ用品の店へ、コダ爺は近隣の林へそれぞれ向かうらしい。
サトリは服が買いたいというので、俺もついていく事にした。
子供の疫病が収まり始めたことで、街の人たちの表情は明るい。
アマビエに感謝する声も、ちらほら聞こえる。
活気が戻りはじめた街の商店街を、キョロキョロしながら二人で連れ立って歩く。
ロルカと街の雰囲気が似ているな。
土産物を販売している露店が多い。
「サトリ、どんな服が欲しいんだ? 今着てるヤツじゃだめなのか」
「これは私の妖力で具現化してるから、厳密には服じゃないの!
せっかく人化してるんだから、実体のある布の服を身につけなくちゃ」
謎のこだわりがあるようだ。
ちなみに今着ているのは、簡素なワンピースとサンダルである。
確かに、少し物足りないかもしれないな。
「あ。あれなんか似合いそうじゃないか?」
そう言って俺が指さしたのは、チャイナドレスのようなシュッとしたロングワンピースだ。
脇にスリットが入っていて動きやすそう。
しかしサトリは眉をひそめた。
「あれを着ると、オジサンの視線が10倍くらい増えそうだから嫌よ」
「そ、そうなのか」
未来予知もできるのか。さすが妖怪だな。
「ベニッピーが着ているような、身体のラインが出ないゆったりとした服がいいわね」
「うーん。でも、あまり地上で見かけないよな...」
「そうなのよね。次に海底に行った時は、絶対に着物を手に入れるわ」
拳を握って決意している。
そんなに服の種類って重要なのか。
...! 思い出した。
「サトリ。俺、12歳くらいの女の子用の着物、持ってたわ」
「え!?」
そう。一度、コイツに年齢を吸い取られた状態で龍宮城に帰還した時。
少しサイズを小さくした着物を持って行ったんだ。ウラシア大陸でなら、多少変わった服でも大丈夫だから、海底服を持っていこうって。
ずっと男物を着ていたから、女の子用(薄桃色)も収納にしまったままだったのを忘れていた。
「もっと早く思い出してよ!」
「すまんすまん」
服装問題は解決した。
時間に余裕をもって船に乗り込む(こっそりと海上を飛んで)と、すぐにケヴィンと遭遇した。
相変わらずの仏頂面だが、目的の物が手に入ったのか、どこか満足げである。
「コダ爺は?」
「まだ見ていないな」
林で何をやっているんだろうな。
ケヴィンの船室に行ってしばらく待ち、出航の時間になったが、コダ爺が来ない。
もう、「ブオォォーーッ」って汽笛が鳴って、船がゆっくりと動き出したんだが。
「どこで何をやっているんだ、あの爺さん」
「林で昼寝でもしてるんじゃない?」
「ありえるな。ちょっと行ってくる」
船に乗り込んでさえいれば、この船室にやってくるはずだ。
来ないということは、多分まだ乗っていない。
船内を飛び出して、街はずれの林に向かった。
サークレットのスイッチをオフにすると、(凄い上位精霊が来てる!)(昼寝してるよ!)(どこの方だろう) と木々の声が聞こえてきた。
やっぱり昼寝してたか。
寝坊したなんてバレたら、上位精霊の威厳が失墜するぞ。
木から得られる情報を頼りに進むと、あっさり見つけた。
ひときわ高い木の天辺で、鼻提灯を作って昼寝している。
「おい、コダ爺。もう船が出航しちまったぞ」
「むにゅ...すぴぃ.........ファッッッ!?」
起きた。
まだ寝ぼけている爺さんを引っ張って無事に船に戻り、ようやく俺たちは、パレンシアを出て別の国に向かうことができた。
ベニッピー(赤、黒髪)の服装
・白い着物、赤い袴、下駄、大量の魔石を繋いだ紐を肩から斜め掛け
サトリ(白髪)の服装
・白い着物、薄桃色の袴、足袋、草履
コダマ爺(薄緑髪)の服装
・茶色のローブ、緑の三角帽子、とんがり木靴
ケヴィン(銀髪)の服装
・黒い服、白いコート、皮のブーツ、腰のポーチ




