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金魚戦記  作者: 悠布
2章 家書万金
32/92

32話 アマビエ

 ガンガン旅をすること10日。

 俺たちは、ロルカの東北東にあるシュキウ島を横断していた。パレンシア最北端の島である。

 この島の端に着いたら、敵国エーギルが存在するリフィン群島まで船旅だ。


 この辺りは草原が広がるばかりで、時々小さな街があるくらいだ。

 街道を通る人もほとんど居ない。

 だから、俺は本来の姿の金魚に、サトリは狼に戻り、コダ爺は変わらず不可視の状態にある。

 つまり、子犬を連れたケヴィンの一人旅に見える。


 それ故だろうか。時折魔物が嬉しそうに襲ってくるのは。

 長い角の生えた大きなネズミが、この草原の覇権を握っているようだ。

 もうネズミばっかり見る。


「おまえたち。誰か一人でも人の姿が増えれば、襲撃が減るとは思わないか?」

「いいじゃん、全部俺が退治してるんだし」

「近寄られるだけでも気疲れするではないか」

「キャーン」

「おまえは何言ってるかわからないから、一番人化して欲しいのだが」


 ケヴィンはブツブツ言いながらも、俺とコダ爺を肩に乗せて歩いている。


 魔物が姿を現す度に、俺が棒術の練習も兼ねて退治している。練習というか、身体に慣らすためだな。

 最初は金魚のまま、魔法で棒を操ろうとしたのだが、ヘクターさんから受け継いだ技術を発揮するには人化すべきだとすぐに気づいた。

 それ以降は、魔力感知に魔物が引っかかる度にその都度人化して、如意棒を振り回している。


「だいぶ扱いが上手くなってきたの。ちゃんと最後まで棒を握れとるではないか」


 コダ爺がニヤニヤと笑っている。

 

 実は初めの頃は、握力...というか体力が技量についていけなくて、棒が手からすっぽ抜けたり、足元の石ころに躓いてコケたりと散々だったのだ。

 まあ、転ぶ前に如意棒が勝手に支えてくれたのだが。


 練習の甲斐あり、現在は強敵が出てきても棒一本で相手ができるかな?という程度には成長している。

 

 棒が新たな戦術の一つとして加わったことで、俺の基本的な対雑魚戦用スタイルも変化した。

 ①如意棒を敵の数に分裂させ、捕獲

 ②電流を流して動きを止める

 ③チャクラムor魔法で止めを刺す


 ...え、棒術使ってないって?

 いいんだよ、ザコ用スタイルって言ったろ!

 今はちゃんと練習してるってば。予定を述べただけだ。言ってみたかっただけ!


「何を独り言を言っているのだ。それより...見ろ。

 海が見えてきたぞ」


 ケヴィンが指さす方を見ると、草原がある断崖の下だろうか。

 まだ遥か遠くだが、確かに海らしき青い光が望めた。


「迂回して下に降りるのは面倒だな。崖際まで行ったら、下の街まで飛んで降りようぜ」

「クーン!」

「いいぞ。降りるだけなら楽だからな」

「ワシはサトリにつかまるかの」


 そうして、俺はそのまま、二人は翼を広げて崖から飛び出した。



 


「船が出て...いない?」


 出ましたよー、2回目。いや、出てないけどね、船。

 またかよ。まさかオライじゃないだろうな。


「はい。この辺りの船は現在、一日中総出でアマビエ様を探しているのです。

 見つかるまで、お客様方にこの街での逗留を強いることになってしまい、申し訳ありません」


 旅客船乗り場の職員が頭を下げた。

 とりあえずあいつ(オライ)は関係していなかったようだ。

 

「アマビエ様とは何だ?」

「疫病を鎮める力をもつ妖怪です。この地域では頻繁に、子供のみ罹患する疫病が流行るのです。

 その度に海に住むアマビエ様にお願いし、病を封じていただいていたのですが...

 何週間探しても、まだ見つからず...。おそらく、もうすぐ発見されるでしょうから、もう少しのご辛抱をお願いします」


 普段簡単に見つかるものが見つからない時は、どれだけ探してもダメな場合が多いと思うんだが。

 でも、探すしかないよなぁ。


「どこに行けば、出ている船がある?」

「西の方の地域からは出ております」


 

 乗り場を出て、相談を開始する。


「ウラシアに渡った時と違い、今度は長距離だ。西へ回るしかないだろう」

「自分たちで船を作って渡る手もあるんじゃね?」

「嫌よ、それこそクラーケンにでも遭遇したらどうするの」

「アマビエを見つけるのじゃ。それが一番手っ取り早い」


 思わず、3人でコダ爺を見る。


「どうやって?」

「精霊に探してもらうのじゃ。

 ワシはベニ坊と霊友になったことで、植物や地だけではのうて水の下位精霊も召喚できるようになったのじゃぞい」


 得意げにふんぞり返る爺さん。

 マジかよ。めっちゃ有能じゃないか。


「それでいこう! もう解決したも同然だな」

「ふぉふぉっ。任せよ」



 

 さっそく海に向かい、有能爺さんを泡で包んで潜る。

 ケヴィンとサトリは海岸で待機だ。


 コダ爺が目を閉じて、何やら精霊パワーを海中に放出する。

 少しして、キラキラ光る下位精霊たちが集まってきた。小さなクラゲのような形の者が多い。


「おまえたち、わざわざ集まってもらってすまんのぉ。

 どこかで妖怪アマビエを見とらんか? 何かが普段と違うようなのじゃが」


 ノリが軽いな。実にフレンドリーだ。

 精霊たちの瞬きが一段と強まる。


「...ほぅ? ほほーぅ、ほう。 なるほどのぅ。

 ベニ坊。アマビエは、遠くに住む傷心の友達を慰めに行っているようじゃ」

「なんだって?」

「アマビエは、友人である水の上位精霊のところによく遊びに行くらしいの。

 今回訪れたら、何やら激しくショックを受けていたようで、まだ帰らずに宥めているらしいぞい」


 とりあえず無事ではあったのか。

 良かった、と言うべきか?


「とにかく、一度戻ってきて貰いたいよな。

 俺たちで呼びに行くか?」

「そうじゃの。じゃが...あまりに遠いぞ。

 なにせ魔大陸よりも距離が離れておるところに居るようじゃからの」


 遠すぎだろ!

 西から出ている船探した方が早いわ!


「でも、ちぃと気になるの。

 ふむ...声を届けるだけなら出来るかもしれん。

 ベニ坊、やってみよ」

「どうやって?」


 コダ爺にやり方を聞いた。


 まず、周りの水の下位精霊からアマビエの居場所のイメージを受け取る。

 次に、そこに向かって魔力を一筋、高速で水中を流れる電流のように伸ばす。

 もしかしたら、アマビエが糸電話のように捕まえてくれるかもしれないらしい。


「そんなこと、出来るか?」

「やってみねばわからぬな」


 それもそうだ。

 物凄い魔力消費量になるだろうが、やってみようではないか。


 精霊たちに場所のイメージを伝えてもらい、見当をつけて魔力を放つ。

 途中、何匹もの魚を感電させてしまった感触がする。うー、ごめんよ。


 島と島の間の海峡を抜け、ゴリゴリと魔力が削られていった頃。

 バチッ! と大物に当たった気がした。 サメかな?


(ハァ~イ、アチシに呼びかけるのは、一体だぁれ??)


 ...。

 なんか伝わってきたが...、まさかコレがアマビエなのか?


(俺はベニッピーだ。 これは妖怪アマビエに向けた通信なんだが...あんたがそうか?)

(そうよん♪ なにコレ、すっごい遠くから繋がってるじゃな~い!

 アチシのために、大変な思いをしてくれてぇん♪ ベニちゃん、何の用かはわからないけど、サ、ン、キュッ♡)


 切断していいかな? いいよな?

 なんで俺、野太い声と会話してるんだっけ...?


 思わず接続を切ろうとしたが、コダ爺にストップをかけられて我に返る。


(傷ついた友達を慰めてるところなんだってな。

 そんな中、邪魔しちまって悪いが...シュキウ島の人たちが、あんたを探してるぞ。

 また疫病が流行っているらしい)

(うっそぉん! 前回鎮めてから、まだそんなに時間経ってないのにぃ!

 ...ベニちゃん、ありがとねん、教えてくれて! 今すぐ戻るわ! チュッ♡)


 通信が切れた。

 長く伸びた魔力の糸を手放そうとすると...離れない。

 というか、魔力の先端を手繰り寄せて、ナニカが猛スピードで迫ってくる...!!


 

 本能的な恐怖で軽くパニックを起こしかけていると、あっという間にソレ(・・)が出現した。


 どんだけ速いんだよ!

 え、なに、妖怪だから? にしても、速すぎね!?


 遥か遠くから猛進して現れたのは、2mを超す大型人魚だ。

 華やかな服を着た、ピンク髪ロン毛のおっさんだった。


 ()が魔力の先を掴んで急接近してきた勢いの反動で、ゴムのように反対側へ吹っ飛ぶ俺。

 その俺を手の中に収めて、高らかに叫ぶ。


「呼ばれてぇ~、泳いでぇ~、ジャジャジャジャ~~ン!

 アマビエ到着よん!」





 俺とコダ爺が言葉を失っている間に、「ちょっと行ってくるわねぇ~」と言ってどこかに消えてしまったアマビエ。

 とりあえず、海岸で待っている二人のところに戻る。

 砂でできた謎の生き物のオブジェが完成している。


「アマビエは見つかったのか?」

「...ああ。たぶん今、仕事をしに行ってる。そのうち戻ってくると思う...」

「どんな感じの妖怪だったの? わたし、自分以外の妖怪見たことないんだけど」

「サトリとは似ていなかったのぅ。まぁ、見ればわかるじゃろ...ブフォッ」


 

 海辺で、砂の城をつくって待つこと十数分。

 爽やかな汗をかいたアマビエが戻ってきた。

 なぜか俺の頭を撫でてくる。


「お待たせぇ~! あ~、いい汗かいちゃったわぁ、ウフッ!」

「何してきたんだ...?」

「疫病退散の巫女舞(みこまい)よ! ワカメと髪を振り乱して踊るの♪

 これでまた、しばらくは大丈夫なはずよん!」

「そ、そうか」


 もういいや、ツッコむと疲れる。すべてを受け入れよう。


 

 アマビエは俺たちを面白そうに見回すと、サトリに目を留めた。


「魔族に、精霊に、妖精に、妖怪ぃ~~! バラエティ豊かんねぇん♡

 アチシ以外の妖怪なんて、初めて見たわぁ♪ アマビエよ、よろしくネン!」

「サトリよ。よろしくね。

 あなたはどうして、人間のために病を鎮める役目をやっているの?」

「それはね、昔、綺麗な箱が流れてきたのよ~。てっきり化粧箱だと思ってぇ、ワクワクして海岸で開いたら...

 なんか不穏な煙が出てきちゃったのよん! そしてすぐに、街で疫病が流行り始めたってワケぇ!」


 頭を抱えて大袈裟に天を仰ぐアマビエ。

 まさかの、自分の行いの尻ぬぐいだったか...。


「でネ、慌ててノリで踊ってみたら、一時的にだけど収まって♡

 それ以来、人間に呼びかけられる度に、ワカメを持ってダンスしに行くのよぉ~♪」


 どうして即興のダンスが効くんだよ。

 本当、妖怪ってなんでもアリなんだな。

もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが。


シュキウ→九州地方 

ウラシア大陸→ユーラシア大陸 です。


魔大陸→オーストラリア大陸

パレンシア→日本列島+樺太

龍宮城→八丈島海底付近

エーギル→フィリピン南部付近


東西南北がおかしいですね。

...ハイ。世界地図を上下逆にしただけです。

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