28話 襲撃
今回の旅の目的である、「アルゴスの精霊に話をつける」は達成された。
あとは戻って、神の元へレッツゴーのはずだったが...そこで俺は、非常に重要な事に初めて思い当たった。
「ケヴィン。確認したい。俺の役割って何だっけ?」
確か...最初は、普通に神様を殺めてみる手筈だったな(言葉にすると恐れ多いな)。異変を止めるために。
でも、ガルによるとそれは多分不可能(これはケヴィンにはまだ内緒)。
神様を苦しめている(?)悪い奴が居るはずだという推測の元、コダ爺を連れていくわけで。
俺は、龍宮城の情報収集員でもあるから、同行させてもらうのは有難いくらいだが...
コダ爺によって悪いヤツの正体が暴かれ、やっぱ神様殺さない!むしろ助けるぞ!悪い奴をやっつけろ!って展開になった時に、誰が何をするのか。
というか、そもそも誰が行くのか。
「敵がおらず、神が自然に病んでしまっていた、とコダマ爺さんが見抜いた場合。
おまえに、神を殺してくれと頼むことになる」
「ああ」
「敵がおり、神も敵側に染まっていて、それを爺さんが見抜いた場合。
敵と神の両方に、俺たち...数人で、戦いを挑むことになる。できれば、おまえにも協力してほしい」
「わかった」
「敵がおり、正常な神を苦しめている、と見抜いた場合。
敵を破り、神を救うのが最善だが...神の救出が最優先になる」
「なるほど」
すべきことはわかった。
「誰と行くんだ?」
「最初に、神の元に向かってシールドに弾かれた者たちだ。ランク7の冒険者の中でも、特に優れた者たちで「勇者」と呼ばれている」
やっぱり存在したか、「勇者」!
「シールドの対処班の進捗状況は不明だが、以前からかなり時間も経った。何かしらの成果は出ていることだろう。
一度カウラの魔王城に戻り、作戦を練る」
「...俺さ、役に立つのかな? ぶっちゃけ、神ってどれくらい強いんだ?」
今一番気になっているのはそこである。
よく考えたらさ。仮にも「神」を殺めるとか...攻撃するだけならともかく、普通無理じゃないか?
怖気づいたとかじゃないんだが。実力不足でパシーンと跳ね返されたりしそう。
「神が正常に動けるのならば、この世界でトップクラスの実力を持つ。
そしてヒトの中でのトップクラスが勇者だ。おまえは、彼らに準じる力を持っている。圧倒的経験不足だがな」
水虎の毒をあっさりくらった奴に言われたくないんだが?
「ちなみに、俺も行くからな」
...すっごい心配になってきた。
精霊たちに別れを告げ、俺はケヴィン、リディ、サトリ、コダ爺を連れてロルカの街へ転移した。
リディはこれから、故郷に顔を見せに帰るらしい。義務があるんだと。
「じゃあなリディ。そのうちまた、一緒に旅しようぜ」
「ああ。その為にも生きて戻って来い。
ケヴィンが突っ走りそうになったら、張り倒してやれ」
「ははっ、そうだな。...止められるといいな」
「敵わない相手には慎重だぞ俺は」
揺れる大荷物が見えなくなるまで見送り、ケヴィンを振り返る。
「じゃあ、ちょっと報告に行ってくるから」
「わかった。前と同じ白桔梗亭で待っている」
「了解。できるだけ早く戻るな」
サトリとコダ爺を泡に包んで海に潜る。
転移で戻らないのは、折角だから城下町の景色も見せてあげようと思ってな。
ちなみにこの泡は、内部の酸素濃度を一定に保つ機能を付与した俺のサブ結界である。
妖怪や精霊に通常の呼吸が必要かは知らんが。
...しかし客観的に見ると、海の中を進む金魚と仔狼と小人爺さんって、凄い絵面だな。異世界感満載だ。
そういえば、俺の見た目は14歳くらいに成長していたらしい。
もう少し欲しかったが、贅沢は言わん。コダマお爺様ありがたや。
そんなことをつらつら考えながら泳いでいたが、ふと異変に気付いた。
魚たちが、慌ただしく逃げている。
何から逃げているんだ?
思念を受信すると、(龍宮城が!)(遠くへ!)(巻き込まれないうちに!)
と、避難しているようだ。
......。
何かあったんだ。
「サトリ、コダ爺! 急ぐぞ!」
「キャン!」
「応」
俺は、全速力で泳ぎつつ、魔法で泡を牽引した。
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龍宮城に着くと、城が...攻め込まれていた。
見覚えの無い兵装の海洋兵士たちが、城門を破壊し、城下町を蹂躙し、城に入り込んでいる。
当然この国の兵士たちも応戦しているが、俄然不利な状況のようだ。
住民たちは、女性や子供まで槍や盾を手にして戦っている。
しかしプロの兵士には敵わない。至る所で敗れ、倒れ伏し、泣き叫んでいる。
...いつからだ? いつ、攻め込まれた!?
こいつらはどこの誰だ、敵対している国の連中か!?
...ガルや、ヘクターさんは。
1秒も無駄にはできない。
周囲の敵と味方の思考から、状況を把握しつつ高速で泳ぎ続ける。
...思った通りだった。ベルタが潜入している、敵国。最近力を増したというあの国。
やはりか。
俺が近くを通ると、なぜか敵が避けてくれる。都合がいい。
本当は、目に映る味方全ての元に、今すぐ駆けつけて助太刀したい。
遠くの方に、穴の開いた盾を構えてべそをかきながらも弟妹を守る女の子が見える。
だが。王をとられたら、この国は終わりだから。心を無にして、今は見捨てる。
謝らないよ。ごめんな。
...またか。
エマームでも、間に合わなかった。1秒の差で、数人の命が零れた。
でもあれは自然災害で、知らない村だった。
咄嗟に最善の対応がとれなかったことを反省したが、それだけだ。
今は違う。
ここは、この世界での俺の家。知っている者たち。
壊すのは、意志をもってそれを為す生き物。
ゆるさないよ?
怒りが募るにつれ、魔力が漏れ出ていく。
体内で、苛烈な渦を巻いているようだ。
無尽蔵かと思えるほど、絶えることなく湧いてくるモノ。
怒りなのか魔力なのかわからん。どうでもいいな。
ようやく城に到着し、壊された門を抜けると、辺りは凄惨な有り様だった。
建物内だから海水の通りが悪い。そのせいで、水が赤く色づいている。
倒れて床に沈んだ兵士が、呻きながらも声をかけてきた。
「ベニ、ピー様...宰、相の元、へ...」
「わかった。執務室か?」
「おそら、く...」
兵士の生命の残り火が、どんどん小さくなっていった。
嫌な予感がする。
もう滅茶苦茶嫌な予感しかしない。
廊下ですれ違う敵兵士を水流で吹っ飛ばしつつ、執務室に急ぐ。
途中、動いている味方の兵士は誰もいなかった。
岩の扉は開けっ放しだった。
飛び込んですぐに周りを見渡す。
突然現れた小さな魚に、部屋の中に居た敵兵たちは警戒して武器を構える。
...ガルが居ない。人化して小さくなっているのか?
ヘクターさんは?......居た。
ボロボロになりながら、見たことの無い戦闘形態で、部屋の中心に一人で立っている。
敵兵に囲まれながら。
「ヘクターさん...」
「お帰りなさい、ベニッピーさん。情けない姿を見せてしまいましたね。
ガルトニクス様は無事ですよ。安心してください」
「...ただいま」
平然と言うヘクターさんに、何を言ったらいいのか全くわからない。
ガルが無事だと知ることが出来たのは良いのだが。
「彼らは、龍宮城にある宝「玉手箱」を狙って攻めてきたようです。
まったく...もう奪えたでしょうに、さっさと帰ればいいものを。
ガルトニクス様が見つかるまで、居座るつもりのようで」
鉄の棒をヴン!と音を立てて一振りして、彼は吐き捨てる。
今の水圧だけで、敵兵が1歩後ろに押し流された。
「ヘクターさん、俺...」
俺は、何をしたらいい?
まだ呆然としながらも、とにかく彼に回復魔法をかけようと一歩踏み出した、その時に。
「あーーはっはっはぁっ、すっごいわかりやすかった~、玉手箱!
屋根裏の隠し部屋の中央に、ドーンと置いちゃってさぁ!」
耳に刺さる不快な高い笑い声とともに、光る長い物が降ってきた。
それは...ヘクターさんを背後から貫き、地面に刺さって止まる。
え?
今のは、槍?
それが、ヘクターさんに...なんで?
「ん? まだ生きていたのかコイツは。...それに兵が300人以上やられたぞ。
ただの海洋生物の変異体じゃないな、おまえは」
続いて聞こえた低い女の声が、遠くで鳴っている風の音のように耳を素通りしていく。
身体を貫いた銀の槍を掴み、支えにして立っていたヘクターがゆっくりと倒れていく。
それを目にした瞬間、全身の感覚が急速に研ぎ澄まされていくのを感じた。
周囲の動きがのろまに見え、音が間延びする。
溢れ出ていた魔力も、ピタリと収束した。
ここで起こった全ての事が視える。
こいつらが来て、ガルとヘクターさんが何をしたのか...全て、わかった。
夢中でヘクターさんの元に泳ぎ、全力で回復魔法をかける。
なのに、傷が塞がらない。どうして。なぜ。
確かに癒しの魔力を渡しているのに、全然吸わない。手ごたえが無い。
「もう、手遅れのようです。体力を、使い過ぎてしまいましたから」
ヘクターさんが、俺に微笑みかけた。
そんなこと言わないでくれよ。その体力を戻すためにやってんだから。
「ヘクターさん、もう少し待ってくれ。今、治す。
...如意棒を土産に持って帰ってきたんだ。 それ使って、こんな...やつ、ら...っ」
そうだ。回復魔法を使える俺が今、帰ってきたんだ。
伝説の武具を、棒術使いのヘクターさんの元に。運良くも。
だからさ、手遅れだなんて、絶対に、そんな事には。
如意棒と聞いて、少し驚いたような顔をした彼は、なぜか嬉しそうにこちらに手を伸ばす。
慌てて人化して彼の手を取った俺に、何かが流れ...伝わってきた。
手の力が抜けていく。
しかし、彼は満足そうに笑みを浮かべる。
「...貴方に、お会い…できて、光栄でした。
ガルト…ニクス様を、頼みます。 ベニッピー、さ......」
ヘクターは、身体の端から光の粒子へと変質し、音もなく消えていった。
あとに残された銀の槍と鉄の棒、ボロボロになった宰相の服を一瞥する。
そして、俺は爆発した。




