27話 精霊
精霊たちが、何やら言い合っている。
「ワシじゃ!ワシが一番最初に現れたんじゃ!」
「いーや違うね。おれっちが爺さんの速さに負けるか」
「アタシを連れてって!うふっ」
「やめろよ気色悪い、鏡を見せたろか」
「私は知識に長けております。是非とも私を」
「おみゃーは体力ゼロだがや!途中で倒れっぞ!」
「まったく。プリチィな妾に決まっておるじゃろえ」
「ささ、まずは皆さまこちらの岩の上にお掛けください」
「何を無視して抜け駆けしようとしてるのよ!」
突如出現した20体以上の上位精霊に、さすがに俺たちは誰も言葉が出ない。
全員、身長は15㎝もないだろう。そろって緑の三角帽子を被っている。
しばらく待てば決着がつくかと思い待ったが、むしろ言い合いはエスカレートして人数も増えていく。
「あのー」
そっと声を掛けると、ピタリと静かになり、一斉にこちらを向いた。
「お腹が空いてきましたし...食事にしようと思うのですが...
一緒にいかがですか?」
精霊軍団は、同時に深く頷いた。
食事中は口も閉じるし、腹が満ちれば気も静まる。
そう思って誘ったのだが、結果的には成功だった。
総勢50名以上による大宴会である。ただし場所は取らない。
サトリが鼻先でキノコを回し、精霊たちが手を叩いて喜んでいる。
リディの鞄から次々と出てくる奇妙な物に食いついている者も多い。
そんな様子を横目で眺めながら、比較的落ち着いている精霊数体と俺は話をしていた。
「...なるほどな。ならば、力のある者が向かうべきだろうな」
俺の話を聞いていた精霊の一人...仮名Aが重々しく頷いた。
「神をもどうこう出来る強力な奴が相手だと、力の弱い同胞には荷が重いじゃろうて」
仮名Bも同意する。
「全員に、簡単に真実が見抜けるわけじゃないのか」
「この樹海の中ならば、上位精霊同士にほとんど力の差はありません。
ですが、外に出て力を使うとなると、経験と力量がものをいいます」
仮名Cが説明してくれた。
「そうなのか。...そういや、ガオケレナの枝って貴重なものなのか?」
ガルが気軽に手渡してきた時、特に説明は受けなかった。
「貴重ですとも! そもそもガオケレナとは、この世に2本だけ存在する世界樹の1本です。
海の中に生えていると聞きますが、詳しい場所はわかっておりません」
「へぇ。流れてでもきたのかな」
海鳥が集めてきたのかもしれないな。魔力品倉庫に、木の枝があったような気もする。
「それで、誰が行くかだが...」
Aが話を戻すと、BとCも黙った。
「話を聞く限り、神を嵌めた連中は何か恐ろしい事を企んでいるようだ。
オレは...精霊王だ。皆を束ね、この樹海を守らなければならない」
Aは精霊王だったのか。なら連れていくわけにはいかないな。
「私は...外の世界や神の存在に凄く興味があります。是非とも私を...と言いたいところなのですが。
まだ年若く、経験が足りません。...失敗はできないのでしょう? 」
Cが悔しそうに俯く。
「爺さん、行ってきてくれ。他の皆には、オレが決めたと言っておく」
AがBに声を掛けた。
一緒に行くのはこの爺さんになったか。
...そういえば、何気に最初に出現してたな。
「ええのか? 枝はワシが貰っちゃうぞい?」
「ええい、クソッ! さっさと行っちまえ! 認めたくないが、まだ爺さんが一番強いだろうが!」
「あなたが戻ってこられる頃には、きっと誰かに実力が抜かされていますよ...私とか」
「まったく、最近の若いモンは手ごたえが無いのぅ!」
仲が良いのか悪いのか。
意外とあっさり決まったな。
「よろしくな、爺さん」
「爺さんとはなんじゃ! いや、爺ぃじゃが」
そうだろうよ。そう呼ばれてたし。
「名前で呼べぃ!」
「なら、名前教えてくれよ」
「好きに呼んどくれ」
「んー? じゃ...木霊じぃだな。そのままだが」
サイズ感といい出現の仕方といい、あの屋久島をモデルにしたアニメの白い奴らと似てるんだよ。
色は違うけど。
すると、爺さん...コダマじぃはニヤリと笑った。
「かかったな」
「へ?」
何がだ、と思ったのも束の間、以前サトリに名前を付けた時と同じような感覚が...!!
「しまった! 嵌めやがったな!」
「ふぉっふぉっふぉっ。後の祭りじゃあ!」
ずっと黙って見ていたケヴィンが呆れた顔をしている。
また縮んだのか!?まてよ、前と同じくらい縮んだら...見た目10歳きっちまうぞ!?
「ケヴィン!」
「...俺には今も魚に見えているからわからぬ」
「そうだった!」
立ち上がって確認する。
今着ているのは、着物に似ている海底服だ。ゆったりした造りだから、服で確認するのは無理か...?
いや。むしろ、裾が...上がってる?......上がっている!!
「コダマじぃ!」
「何じゃ」
「ありがとな!! 俺に年齢くれて!」
「うぃんうぃんの関係というやつじゃな」
ほんの少し若返ったように見える爺さんは、AとC...精霊王と若者の方を向いてフッと笑った。
「ほれほれ。追い越すのが大変になってしまったようじゃのう?」
「反則だ!ふざけんな!」
「異議を申し立てます!」
ガオケレナの枝を杖に、ぴょいぴょいと岩や樹の根の上を跳ね回って逃げるコダマじぃと追いかける二人を見て確信した。
仲が良いのだと。
二人から逃げ切って満足げなコダマじぃを捕まえて、目の前の岩に座らせる。
「さて。うっかり俺たちは霊友になってしまったわけだが。
それに当たって、確認しておくことがある」
「そうじゃな。ワシの能力の開示じゃろう? 良いともよいとも」
流石に話が早いな、爺さん。
前はコレをやらなかったから、今俺は、恥ずかしい名前のサークレットを着けているのだ。
「ワシらは「ノーム」という精霊じゃな。地中を自由に移動できる。
アルゴスのノームじゃから、真実を見抜く力もあるぞい」
「そうか。俺に備わっている過剰意思受信能力と重複しそうだな...
じぃの方の能力も強化されただろうな」
「名前で呼べぃ、ベニ坊」
「へいへい」
コダ爺と呼んでやろうか。呼んでやろ。
「地や植物の魔法が得意じゃ。下位・中位精霊の召喚もできる。
やろうと思えば人間サイズへ巨大化も可能じゃな」
「すごいな、コダ爺。精霊召喚って、どういう時に使うんだ?」
「荒れ地を緑で埋め尽くせる!」
「おおぉぉぉ」
コダ爺がふと、尻尾でキノコ回しをしているサトリを見た。
「あれはベニ坊のもう一人の霊友じゃな。力を取り戻している最中のようじゃの。
もう少しで人化できるようになるぞい」
「え、まじで!?」
今日一番の衝撃だわ。レライエ以上の。
...そうだ、もう既に忘れかけてたぜ。
「レライエって奴が来てただろ?何かわかるか?」
「本気で今の所属先を変えたがっておったな。淡泊なところもあるが、おそらく根は良いヤツじゃな」
いま、かなり大事な情報を得た気がする。
覚えておいてやろう。
「ベニ坊。自分を鑑定してみろ」
「自分を?」
「やった事が無いのか。おもしろいものが見れるじゃろう。ふぉふぉっ」
この爺さんの言うおもしろいものだ。
心の準備をしてから臨もう。
深呼吸して、自分に「鑑定」を使ってみた。
【ベニッピー・ジャスパー(妖精)】
年齢:1歳(不老)
性別:男
種族:金魚
追記:異世界生まれ
そうか...俺は妖精になってしまったのか...
いや、それよりも。
「コダ爺、なんか俺、不老らしいんだが」
「不思議じゃの。...ちと、よく見せてみぃ」
俺の瞳を覗き込むコダ爺。頭がモゾモゾする。
これは...記憶を見られている、のか?
「おぉ。不老の花を食っとるではないか」
「えぇ!? そんな変な物食べたか...?」
「この世界に来てすぐじゃな」
...思い出した。確かに、腹が減って銀色の花、食べたわ。
あれがそうだったのか。
「ほほっ、珍しいものを食いおったの。アレには身体を丈夫にし、傷の治りを早める効能もある。
ラッキーじゃったな」
「お...おう。それよかコダ爺、記憶が読めるんだな」
「たった今出来るようになったのじゃ」
どや顔でふんぞり返る爺さん。ぎっくり腰にならないか心配である。
だが待てよ。霊友になることで、互いの能力を受け渡し、出来ることが増える。
なら、サトリは?
翼が生えたり尾が増えたり炎を吐いたりするのは、俺の能力と関係ないはずだ。多分、順調に力を取り戻しつつあるだけ。
もうすぐ可能という人化もその一つだろう。
...ま、そのうちわかるかな。




