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金魚戦記  作者: 悠布
1章 騰蛟起鳳
24/92

24話 水虎

 かなりの距離を進んだだろうか。

 竹藪の密度がさらに上がり、俺でも進むのが大変になった頃、濃厚な水の匂いを感じた。

 

 突然視界が開け、緑の湖が出現する。

 誰だよ、池って言ったのは。でかすぎて普通に波が立ってるぞ。

 

 何故か魔力をがっつり含んでいる湖を見て、この辺の強い水虎の本拠地だと確信する。


 魔力のせいだろうが、()の繁殖が凄い。

 これでは魚なんて生息できないだろう。絡みついたり、夜間に酸欠になってしまう。


 そのまま泳ぐのは嫌だったので、結界を張って湖に飛び込んだ。

 俺に続いて、いつの間にか20匹近くにまで増えていた水虎軍団も、次々に飛び込む。

 


 ...拠点に着いたはいいが、さてどうするか。

 水泳教室の先生でもしている気分になりながら考える。 

 

 もう周囲に竹はないので魔法で一気に殲滅してもいいのだが、湖底に巣でもあるのかもしれないな。

 一通り探索してからにしよう。



 そう思って、視界を遮る藻を押しのけて湖底に沿って進む。

 ふと背後を見ると、水虎軍はさらに3倍ほどに膨れ上がっていた。

 ...まぁ、めちゃくちゃ騒がしかったから想像はしていたが。


 鬱陶しいからさっさと倒すかと、振り向いた時だった。

 視界の端に、キラリと光るものが映った。

 

 なんだ?

 魚の鱗...じゃないよな。今まで1匹も見なかった。

 なんとなく気になって、そこまで泳ぐ。


 

 すると、岩の上に1本の棒が載っていた。

 両端が金色の、赤い棒だ。

 さっきの光は、この棒の端が僅かな太陽光を反射したもののようだった。


 赤い棒は...なんと、魔力を吸い寄せている。

 この湖の魔力濃度の原因、水虎の強さの元凶はコイツだった。

 このままにしては置けない。


 そういえば、リディが「変なものを見つけたら、全て拾っておけ。危険かどうかは二の次だ」

 って教えてくれたな。先輩冒険者の助言に従おうではないか。


 


 棒に触れて、収納にしまった瞬間だった。


 身体が、急上昇した。


 いや違う、周囲の水ごと...水虎軍団ごと全て、上昇している。

 なんだ!?


 驚いている間に、地上を過ぎて、竹林の少し上くらいまで来てしまった。

 緑の水の向こうに、呆然とこちらを見ているサトリが透けて見える。


 あまりのことに、思考が停止したまま数舜が過ぎ...

 

 

 突如、湖の水が解散、いや散開?放散?した。

 空中に浮かんだ湖水の塊だったものが小さな水の粒にばらけ、蜘蛛の子を散らすように逃げて...というか消えていく。


 俺はそのまま空中に留まったが、水虎たちはバラバラと落下していく。

 湖だった窪地に転がり落ち、パニックになって叫んでいる。


 俺も一緒にパニックになっていいかな?

 混ぜて?


 

 という半分冗談はさておき、とりあえず窪地に降りる。

 サトリは二人の方に連絡に向かってくれたようだ。


 ...ノープランで降りちゃったよ。どうするよ。

 とにかく、気がふれたように騒いでいる水虎を黙らせるかと、大規模の風魔法を発動させようとした時。


 凄い勢いでこちらに向かってくる気配を察知する。

 たぶん、ここのボスだろうな。


 周りの水虎は後回しにし、ボスを迎え撃つべく構える。

 5枚のチャクラムをボスが来る方角の竹藪の出口に待機させ、姿を見せた瞬間に同時に攻撃するつもりだ。


 

 少しして、10歳くらいの緑の子供が竹藪から飛び出してきた。

 俺を見定め、

 (そいつを返せ! かーーえーーせぇぇぇーーっ!!)


 猛ダッシュで向かって来ようとする。こわ...


 

 ボスの注意が俺に向いた瞬間、4枚のチャクラムが一斉に襲い掛かり、さらに一瞬遅れて1枚のチャクラムを動かした。

 

 だが、キン!と音を立てて全て弾かれる。

 皮膚が硬すぎたのだ。

 

 ボスはそんなものには目もくれず、両手の爪を弾丸のように飛ばしてきた。

 俺の結界に全て防がれるが、続いて髪を針のように飛ばしてくる。


 当然、髪針も結界を貫通することはできないのだが、めげずに攻撃を続けている。

 飛ばしたそばから爪も髪も再生しているようだ。


 こちらも、攻撃を受けてばかりではない。

 チャクラムが弾かれた瞬間、ボスの足元の地面を凹ませ、態勢を崩したヤツの背後から尖った地面の槍を突き刺したり。

 大きな炎の球体で包んでみたり。

 感電させたり、周囲の酸素を奪ったり、大気を圧縮してみたり...と色々試してみたのだが。


 耐久力が高すぎる。

 身体に穴が開いても黒焦げになっても息が出来なくなってもへこたれない。

 炎攻撃を受けた際には、頭の皿から水を吹きだしてバリアにしていたし。

 傷ついても、徐々に治ってしまう。

 

 

 どうしたものかと悩んでいた時、サトリの案内でリディ、少し遅れてケヴィンが到着した。

 すぐに状況を察し、俺の元に来たので結界内部に招き入れる。

 落ち着きを取り戻し始めていた水虎軍団も、それを見てボスの背後に整列した。


「なかなか面白いことになっているな。何があった?」

「湖底に沈んでいた赤い棒を取り上げたら、湖水が消えた」

「なるほど。拠点は潰せたから戻ってもいいのだが、ボスだけは倒した方がいいな。

 ...だがあの様子からして、生半可な攻撃は通じない、か」


 湖が蒸発したと聞いても、平然としているケヴィン。

 リディはそれよりもボスの回復能力に興味を引かれているようだ。

 

「そんなに驚かないのな」

「おまえが最初に驚かせてくれたお陰でな。礼を言うぞ」


 ほんとに礼か?


「俺の剣が通じるか試してくる」


 そう言うや否や、ケヴィンは結界の外に走り出た。

 生半可がダメなら全力で行くってか?

 ケヴィンってこんな奴だったっけ...


 俺が愕然としていると、リディが


「あいつは普段こそ冷静で判断力もあるが。

 おもしろそうな敵を見つけると、後先考えずに向かっていく癖がある。

 絶対に敵わない相手には自重しているみたいだから、大丈夫だろう」


 とボソッと言った。


 孫○空か。

 リディが生き物(フリーク)で、ウラリーが魔法陣(フリーク)なら、ケヴィンも敵(フリーク)だったのかよ。

 

 どんな面白さが彼の心の琴線に触れるのかは知らないが、妙なスイッチが入った姿を見るのは今回が初めてであった。

 仕方がないので見物する。


 彼は飛んでくる爪や髪針を避けながら、ボスに打ちかかっていく。

 避けきれずに食らっているものも多いが、どうやら弱い回復魔法を発動させ続けているようで、全く気にしていない。

 

 ボスはケヴィンの初撃を両手を交差させて受け止める。

 ガギン!と妙な音がした。

 腕の半分ほどまで剣が食い込んでいる。


「ほう? やはり思った通り、硬いな」


 ケヴィンは楽しそうに笑うと、蹴りを放った。

 腕から剣が抜けたボスが、手下の水虎を巻き込みながら吹っ飛ぶ。


 今の一撃で不利を悟ったのだろう、ボスは威嚇しつつも後退を考え始めたようだ。

 彼に伝える。


「そいつ、撤退しようかと考えてるよー」

「わかった。逃がすかよ」


 なんか口調が少し変わってますよ、ケヴィンさん。

 彼は不敵に微笑むと、ボスに向かって足を踏み出した。



 ...の、だが。


「む?」


 急に、ケヴィンがぐらりと揺れ、立ち止まってしまった。

 それを見たボスが、


 (やっと効いてきた...)


 とニンマリしている。

 

 え、嘘だろ。

 まさかの、爪や髪に毒が含まれていることを想定していなかったってヤツか?

 回復魔法と同時に解毒魔法を使っていなかったとか、こっちも想定外なんだが。


 嬉々として彼に襲い掛かっていくボスを見やり、リディがため息をつく。


「あいつは...体で覚えるタイプでもある。

 今まで、毒を使う相手に遭遇しなかったんだろう」


 なんてこった。

 俺の脳内で、「頼れるお兄さんポジション」と書かれた飛行船に乗ったケヴィンが、パラシュートを開きながら高らかに笑って飛び降りていくイメージが展開される。

 

 いや、まだセーフだ。これから彼が起死回生の活躍を...

 と期待して待ったが。


 爪を振りかざして攻撃するボスと手下の水虎。

 彼らに囲まれたケヴィンは、剣で何匹か屠りつつも、全然思うように動けないようだ。

 流石にやられる気配は全くないが、地味に傷が増えていく。

 

 

 少しして、見かねたサトリに襟首の後ろをひっかけられ、宙を飛んで救出されてきたケヴィン。

 俺とリディに無言で見つめられ、ササっと服のほこりを払って咳払いをする。


「まぁ、なかなかやるようだな」

「やるようだな、じゃねーよ!

 お前が毒さえくらわなかったら、あと数撃で普通に倒せてただろうが!」

「うむ。反省した。もう同じ手は喰わぬ」

「いや、そうなんだけどね!?」


 俺の脳内イメージをどうしてくれるんだ。

 パラシュートに穴が開いていて結局サトリに咥えられたよお前。

 

 彼に解毒をかけながらツッコんでいると、リディが前に出た。


「次は私が行く」

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