23話 大陸
「船が出ていない?」
「はい...。近頃、よくクラーケンに船が襲われるのです。
そのため、近辺の海域の航行を全面的に停止しております」
「どこまで行けば大陸に渡れる?」
ケヴィンの問いに、渡航船乗り場の職員は首を振った。
「500㎞程北まで行けば、僅かに旅客船は出ております。しかし、それも安全ではないという噂です」
渡航船乗り場を出て、3人は顔を見合わせた。
ここは、パレンシアの中でもウラシア大陸と一番距離が近い港町である。
渡陸するため海岸沿いに出てきたところなのだが、ずっと内陸部を進んできたため、今までその情報が入ってこなかったのだ。
せっかくここまで来たのに、500㎞も戻るのは流石に辛い。
3人でしばし協議する。
「対岸までは10㎞くらいしかない。今こそ飛んで渡るか?」
「いや、そんな危険な海域の上空だ。飛んで渡ろうとする者を待ち構えている奴が居ないとも限らん」
「じゃあ俺が先に一人で渡ってみるよ。
そこで座標を覚えて戻るから、転移して大陸に渡ろう」
他に良い案も出なかったので、その作戦で行くことになった。
サトリを二人に預けて、上空100mくらいの高度を飛んでいく。
下には穏やかな海面が見える。
この高度ならば、仮に真下にクラーケンがいたとしても脚は届かないだろう。
半分くらいの距離を進んだ時、何かが飛んでくるのを察知した。
...こちらに対して敵意を持っているな。
間もなく上空に影が現れ、胴体が獣の猛禽類が急降下しながら猛然と掴みかかってくる。
(コロス...コロス...)
おかしい。虫や植物でもしっかり喋るのに、こいつは殆ど何も考えていない。
…ひょっとして、操られてでもいるのか? だとしたら...観察されているかもしれない。
早めに片付けよう。
魔物のタックルを躱し、指先から電流を飛ばして感電させる。
動きが止まったところでチャクラムを投げて首を刎ねた。
海面へ落下していく不気味な鳥を眺めながら、念のためそのまま数分待つ。
他にも何か来るかもしれないからな。
数分後。
結局、最初の1匹だけだったので、残りの距離をあっさり飛び終えた。
着陸し、二人+1匹が待つ海岸に転移する。
戻ると、ケヴィンに質問をされた。
「途中で何か来たな。あれは何だったのだ?」
「胴体が獣の、猛禽類の魔物だった。誰かに操られてたっぽいな。見られたかもしれない」
「...そうか。一応覚えておくとしよう」
そうして、俺たちはスムーズに大陸に渡ることができた。
ウラシア大陸は世界で一番大きな大陸である。様々な種族の、たくさんの国家を内包している。
さっきまで居たパレンシアは島国だからわかりやすかったが、こちらでは国と国との境目が分かりにくい。
ちなみに冒険者のシステムは世界共通らしい。便利なことである。
ここはパレンシアと比較すると街と街の間隔が長く、人口密度は小さく、魔物の数と凶暴さは上だ。
やはり大陸だな。
アルゴスのある東を目指し、歩いて歩いて依頼を受けて、宿屋に泊まって野宿して...
を何回も繰り返す。
俺の腕輪は黄緑になり、サトリの尻尾は2本になり、リディの荷物が更に増え、ケヴィンもついに冒険者登録をした。
それくらいの時間が経つと、当然のことながらジワジワと路銀も減ってくる。
故にそろそろ大きな依頼を受けて稼いでおきたい、と話していた頃だった。
立ち寄った街のギルドで、ある依頼を見つけたのは。
「水虎退治?」
魔物の種類だろうが、聞いたことがないな。
そう思って、知っていそうな二人を見上げると、ケヴィンが答えてくれる。
「ウラシア大陸にのみ生息する人型魔物だ。似たような魔物に、ゴブリンが居る。
もっとも、こちらの方が知能が低いが。」
詳しく聞くと、水虎とは、
・見た目は3、4歳程度の人間の子供。肌は緑のトラ縞、緑の髪、緑の白目を持つ。
・縄張りの中に入った生き物を見ると何にでも襲い掛かるが、街には滅多に出てこない。
・頭に水の入った皿を載せている。
だそうだ。
河童みたいだな。ていうか河童か?
「この大陸になら、至る所に生息している。普通は、ギルドに退治依頼を出すような強い魔物でもないはずなんだが。
ここでは、街からの常設依頼のようだな」
そう。
彼の言う通り、個人からの単発依頼ではなく、街が常時受け付けている依頼だった。
頭の皿2枚(つまり2匹退治)で金貨一枚の報酬だそうだ。
これ、いいんじゃね? と、3人で頷きあう。
依頼書をリディが受付に持っていく。
「この依頼を受けたい。
近くに、撤去不可能な水虎の巣でもあるのか?」
「承りました。
この街の北にある竹林に、大量の水虎が生息しておりまして。
通常の水虎よりも強く、度々街に出てきては人や家畜を襲うのです。
竹林内にある池を中心に生活しているようなのですが...竹藪に阻まれ、なかなか根本的な対処ができないのです」
「なるほど。もし私たちが拠点を潰すことが出来たなら、特別報酬を望めるか?」
受付の職員は、苦笑した。
「はい。一応、金貨500枚の追加報酬が用意されております。
...同じような事をおっしゃる冒険者の方々が、今まで何人もいらっしゃいましたが...
未だ、達成されてはおりません。くれぐれも、お気を付けください」
ギルドを出て、道端にて作戦会議を行った。
道行く人たちが、珍しそうに俺たちを見ている。
リディの大荷物か、ケヴィンのごつい剣か、俺の海底服か、サトリの翼か。一体何がレアなんだろうか。
「できれば拠点を潰そう。できなくても、可能な限り大量の皿を持っていこう」
「おう。まずは竹林に入って、池を探すか?」
「いや...おまえたちはともかく、俺は竹藪の中ではまともに剣を振れないだろう。
ある程度中に入ったら、動けるだけの空間を作る。
ベニッピー、おまえは俺の元に水虎を引き連れてきてほしい。それなりの数をやった後、皆で池を探そう」
「じゃあ私はその間、お前のサポートと皿の回収を行う」
拠点を潰せるとは限らないので、最初は地道に通常依頼をこなす運びとなった。
街の北にある竹林に到着すると、あまりの大きさに一瞬言葉を失う。
もはや竹林ではなく竹森、いや竹帝国だ。
余りの竹密度に、リディも呆れた声を出す。
「これじゃあ私も全く動けないな。ベニッピーが居てよかった。
魚の姿だと耳当てを装着できないが大丈夫か?」
試しに耳当てを外してみる。
すると、
(池はあっちだよ)(水虎が近づいてきてる)(何本でも切り倒していい。あいつらを何とかして)
竹にお願いされた。
奴ら嫌われてんな...
「大丈夫そうだ。しかも竹はこちらの味方らしい。
いくらでも切り倒していいから、水虎をなんとかして欲しいそうだ」
そして、作戦が開始された。
二人が動ける空間を確保したのを見届けた俺は、本来の金魚の姿になって竹林内の徘徊をスタートする。
ちなみにサトリは連絡係だ。基本的には竹林の上空で待機している。
竹によると、もうすぐそこまで水虎がきているようだ。
幼い子供でも手が届きそうな高さをフヨフヨ移動していると、やがてガサッと藪をかき分けて2匹の水虎が姿を現した。
甲羅は背負っていないが、手に水かきがあるあたり、やはり河童に似ているな。
縄張りの侵入者を排除しようと、奇声を上げながら素早い動きで爪を振りかざす。
(マテ!マテ!)
(デテケ! ナワバリニ、ハイッテクルナ!)
って言ってるな。どっちだよ。
彼らが着いてこられる速度で逃げながら、あと2匹増えるのを待ち、ケヴィンたちの元に誘導した。
最初に彼に3匹があっさりと屠られ、それを見て逃げ出した1匹もリディに捕まった。
絶命した水虎からは、頭の皿がポロリと剥がれ落ちている。
「流石だな。何匹くらいなら同時に連れてきてもよさそうだ?」
「7,8匹だな。それ以上だと逃げられるかもしれん」
「了解だ。じゃ、どんどん連れてくるよ」
うろついては狩り場へと案内することを何度も繰り返す。
やがて、100枚近く皿が積みあがっただろうかという頃に、サトリが慌てた様子で降りてきた。
「キャン!キャーン!」
「え。まじか。大丈夫かなあいつら」
サトリの報告によると、
二人の元に、少し大きな子供の見た目をした水虎が現れたらしい。
そいつが現れると同時に、連れてきた大量の手下が統率の取れた動きで彼らを撹乱し始めたそうだ。
1匹1匹は弱くとも、先程までとはまるで違う動きに、狭い空間で苦戦しているという。
自分の背後を見る。
6匹の水虎が、「キエェェーッ」とか言いながら必死に着いてきている。
困ったな。
こいつらを今から狩り場に連れていく訳にはいかなくなった。
まずはどこかで俺が処分しないと。
生い茂る竹藪の中では、魔法やチャクラムの使用は難しい。サトリの炎攻撃もできない。
さてどうするかと逃げながら考えていると、
(池はこっち!)(ボスが動いた今のうちに)(早く、早く)
竹が教えてくれた。
彼らによると、ボスと呼ばれる大きい水虎が普段は常に池のほとりから離れなかったが、俺たちがあまりにも仲間を屠り続けていることでついに動いたらしい。
拠点とやらを一人でどうにかできる算段は全く無いままだが、とにかく竹の誘導の元、水虎を引き連れ池に向かった。




