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金魚戦記  作者: 悠布
1章 騰蛟起鳳
22/92

22話 受信

 高度を落としていくと、徐々に山の木々のざわめきが聞こえてきた。

 だがそれは、俺が意識しているからだろう。

 視界に入れつつも意識の対象を別のものに向けると、ぐっと静かになった。


 鳥の鳴き声も聞こえてくる。耳当ては防音ヘッドフォンではないので、音量自体はそのままだ。

 特にやかましいのが数羽、ずっと喋ってるな...

 やはり植物よりも、意思が強いんだろうな。それでもさっきよりは全然ましだ。


 下に降りるにつれ、生き物の数も増えてくる。

 大きなハチが目の前を横切った時には、「邪魔だ、人間が飛んでんじゃねぇよ!」と怒鳴られてしまった。

 思わず「うっせぇ、俺の勝手だろ!」と心の中で言い返すと、驚いて猛スピードで逃げていく。


 自然界から聞こえる声を減らそうと、見えてきた下の3人に意識を向けると、


(意外と耳当て似合ってるな...)(ごめんなさいごめんなさいヒィィ)(腹減った...)


 と聞こえてきて、再び頭を抱えてしまった。

 プライバシーも何もあったもんじゃない。俺の精神衛生上よろしくなさ過ぎる。


「ど、どうですかベニッピーさん?」

 (これ以上のものは今は用意できません、あまり効果が無かったらどうしよう!)

「お、おう。さっきよりは大夫マシになったよ。こんな短時間で作ってくれてありがとな。

 俺の油断が原因だから、お前は気に病まないでくれ」

「それを聞いて少し安心しました。...私の興味本位の悪癖が招いた事態です。

 本当に申しわけありません。なにか改善してほしい所はありますか?」

 (ちょっとでも効果あってよかった!もう次が無いように気をつけよう...

  今注文されても多分改善ほぼ不可能なのに言っちゃいましたよ!ああぁぁぁ)


 俺の今の気持ちがわかるだろうか。

 そう。

 実際に言われた事と内心で思っている事が、ごっちゃに聞こえてくるのだ。

 同時に、足元に生えた焼け残った雑草からも「踏んだり焼かれたりだよもう」とかいう感情が流れてきてややこしい。わかったよ、足どけるよ。


「会話をするとな...しなくてもなんだが...対象を意識するだけ、もしくは接触するだけで、心の声も同時に聞こえてくるのが厄介だな。

 でも今はこれ以上改良できないんだろう? 俺が頑張って修行するよ」


 ウラリーは顔を赤くして口を押さえた。


「それより、飯にしようぜ。俺も腹減った。

 ...そうだ、この耳当ては誰のものなんだ?」

「私のだ。あと予備に二つ持ってきているから気にするな」

 (私の空腹が見抜かれていた...)


 リディのだったか。

 旅に耳当て3つとは、何考えてんだろうこいつ。すごく助かったが。


「もらっちまって悪かったな。後で何か返すよ」

「別にいい。それより...いや、何でもない」


 何か恐ろしい心の声が聞こえてきそうだったので、空を見上げて咄嗟にやり過ごした。



 実際、意志の強い高等生物(人など)が視界に入っていても、俺の注意を向けさえしなければ「誰かが遠くで喋っているな」程度にしか気にならない。

 これだけの性能を持つ即席魔道具をあっさり作成してしまうウラリーはかなり凄いんじゃないだろうか。

 そのうちもっと高性能なものを作ってくれるらしいので、それまでは精神修行の丁度いい機会だと思って俺も頑張ろう。



 夜。寝る時間になり、またサトリを連れて岩山の洞穴に行く。

 睡眠時の金魚形態では耳当ては装着できないが、誰もいない静かな場所ならば何の問題も無い。

 収納から取り出した鳥かご(ベッド)クッション(マットレス)を設置して、ぐっすりと眠った。

 

 眠る前に考えた。今は良いが、常に生き物のいない環境で眠れるとも限らない。

 だが、クッションの下に耳当てと同じ魔法陣を挟んでしまえばいいんじゃね?

 明日、ウラリーにお願いしてみよう...。



 翌日。

 村人に見送られ、俺たちは村を後にした。


「ベニッピーさーん、また来てくれよー!

 次に来るときまでには、温泉を整備しとくからー!」

「おうサムソン。温泉もいいが、先に復興してくれよ」

「ありがとうございましたー!ケヴィンさん、ウラリーさん、リディさん!」

「フィトも達者でな。マロシュのぎっくり腰を支えてやれよ」

「治るまでは、狼が乗せてくれるみたいですー!」

「そ、そうか...」


 山を下りた後、俺、ケヴィン、リディはウラリーとも別れる。

 彼女は戻った後、すぐに俺の耳当て(ツー)を作ってくれるようだ。

 完成し次第、送ると言っていた。...どう送るんだろうか。


「ベニッピーさん。暫くもつとは思いますが、耳あての魔石の魔力が途切れたら、何でもいいので新しい魔石と交換してください」

「わかった。楽しみに待ってるが、急いで無理しないでくれ」

「ウラリー。ちゃんと街道だけを通って帰れ」

「あなたにだけは言われたくないですね、リディ」

「今のところ、アルゴスで目的を達成し次第戻る予定だと、伝えておいてくれ」

「了解です、ケヴィン。それではみなさん、気を付けて行ってきてください」


 手を振って、一人で歩き出した彼女を見送った。


「さて...それでは、俺たちも向かうとするか。ウラシア大陸に」


 

 こうして、俺たちは1匹+1頭+2人で出発した。

 龍宮城での会話を思い出しながら。



______________________________



「アルゴスの樹海?」


 俺の疑問に頷くガル。

 ヘクターさんが代わりに説明してくれた。


「この世界の太古の森の一つです。面積で言えば一番広大でしょう。

 世間ではこう言われています。「アルゴスでは、全ての偽りが意味を為さない」と」

 

 要約すると、


 ・アルゴスの樹海に暮らす精霊には、真実を見抜く力がある。

 ・樹海に入ると、四方八方から彼らに見られる。

 ・その影響で、嘘が付けなくなる、本性が出る、隠し事もうっかりポロッと口にしてしまいやすい、正体がバレる

  などの現象が起きる

 ・上位精霊となら会話が可能。森から出ても消滅することはない。

  誰か一人味方につけて、連れていく。


「でも、何でだ?」

「それについては、私から説明しよう」


 ガルによると、


 ・神の前に張られた透明なシールド、本来ならそんなものは存在しない。

 ・何らかの意図で、裏に居る者が張った可能性が高い。

 ・精霊にそのシールドと神を見せれば、真実がわかるはず。


 ということだ。


「詳しいな」

「リアルタイムの地上の出来事には疎いよ。なにせここは海底だ。

 でも、神とアルゴスは昔から変わらないものの一つだからね」



______________________________



 ちなみに、今いるパレンシアとアルゴスは、直線距離にして約5000㎞離れている。

 時速100㎞で飛び続けたとしても、50時間もかかる。

 俺一人ならば空を飛んでいけば早く着くが、一人で全てこなして安全に帰ってこられる気が全くしない。

 パレンシア国内でのみの調査任務ではないのだ。

 

 ケヴィンとリディがいるので、基本は通常の移動手段をとることになる。

 どうしても急がなければならない事態には、二人を魔法で飛ばす手筈となった。

 だが、空中飛行中に魔物とでも遭遇してしまえば、3人共まともには戦えないので、それは本当に非常手段だ。



「そういえば、冒険者登録したっきりまだ一度も依頼に行ってないな...。

 本業じゃないからいいんだけどさ。でもせめて、黒い腕輪からは抜け出したかったな」


 服の袖に隠れて見えないが、腕輪の存在を思い出してぽつりとそう零す。

 するとリディが、自分の腕輪を見せてきた。色は赤だ。


「ずっと移動し続けるのも大変だから、時々は現地のギルドに寄って依頼を受ける。

 お前を探しているときもそうしていた。

 私のランクは5だから、魔物討伐なんかも一緒にできるぞ」


 なんと。彼女はランク5の冒険者だったか。

 腕輪の色は、下から黒、水色、黄緑、桃、赤、銀、金の順だ。

 ...黒の仲間ばずれ感がすごいな。


 そこで俺はハッと重要なことに気付く。

 

「しまった。俺、16歳で登録してたんだった。

 ...なんとかイケるかな?」


 ケヴィンとリディは首をひねる。


「人間の16歳にしては幼くて変に思われるかもしれないが...普通に依頼を受ける分には問題なかろう」

「何か言われたら、新種だと言ってしまえばいい」

「新種の人間がそんな簡単に出現するのかこの世界は!?」


 だがまぁ、特にこのまま何もせずに済みそうで良かった。



 道中、単独で薬草採取依頼に行ったり、皆で魔物討伐に出向いたりした。

 

 その過程で、サトリが炎を吐けることも発覚する。

 アーミーデュビア(ゴキブリ軍団)(魔物)の群れに出くわした時、颯爽と飛び上がって炎攻撃で先制したのだ。

 小さな身体からは想像もできない程の盛大な炎のブレスにより、一発でほぼ全滅した。

 悪臭さえ残らず、静かに降る灰の雨の中、思わずサトリ様とお呼びしてしまった。


 魔物と動物の違いは、

 魔力が無いと生きていけない↔無くても生きていける

 あまり食事を摂らない↔ちゃんと食べる

 肉が不味い↔草食動物は美味い

 凶暴・好戦的↔そうでもない

 魔力量が多い↔あまり持たない

 

 などである。虫や植物、魚の魔物も存在する。


 

 俺はというと、ケヴィンとリディに鍛えられた。

 俺が弱くて死ぬと困るから強くなれ、との事だったが、絶対に二人とも面白がっていた。

 なにせ、


「剣をもって切りかかってくる相手から距離をとってどうする! やられる前にやれ!」

 (ベニッピーは遠距離型だ。近づかれるとどう動くか。考える暇を与えないようにしよう。クス)


「全く気配が殺せていない。それでは狩ってくださいと敵にお願いしているようなものだぞ」

 (上達が早いな。精神生命体の気配レベルにまでもっていけるかもしれない。鍛え甲斐がある。フフフ...)


 と心の声が聞こえてくるのだから。

 

 魔法使用不可能結界というのがあるそうで、知らぬ間に囚われて無力化される魔法使いは多いらしい。

 ちなみに先程のケヴィンの言葉は、この場合を想定して俺がチャクラムを手に持ち、盾として使いながら逃げ回っていた時のものである。

 大抵の結界は俺には意味を為さないだろうとも言われたが、何かあってからでは遅いからな。


 

 そうやって、旅をしながら地味に強くなっていった。



 腕輪の色が水色になり、生き物の意思も受信しにくくなった。

 そしてもうすぐウラシア大陸に渡れるという所まで来た時、問題が発生した。

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