21話 能力
どうせ正体を打ち明けるなら、サプライズにしようと道中考えた。
「俺がジャスパーに変身するのと、ジャスパーが俺に変身するの、どっちが驚くと思う?」
「ウー...クー...」
「非常に難しい問題だな」
「...キャン!」
「やっぱお前もそう思うか。よし、そうしよう!」
エマームで復興作業の手伝い中、休憩をしていたケヴィン、ウラリー、リディは、空からサトリが戻ってくるのを目にして立ち上がった。
「おかえりなさい、サトリさん!
ベニッピーさんは?遅れてくるのですか?」
ウラリーが飛んでいるサトリに声を掛けるが、彼女はなかなか降りてこない。
それでもゆっくりと降下した時、サトリの背中に何か赤い小さいものがくっついているのが見て取れた。
それは...3人が2ヶ月以上探し続けた者だった。
皆が我が目を疑い呆然としているのを察し、すかさず俺は飛び上がる。
「よぉ、戻ったぜ! 一日ぶりだな、ケヴィン、ウラリー、リディ!」
パッと人化し、そのまま空中でサトリと決めポーズをとった。
「......」
「......」
「......ぉぉぉぉぉ」
あれ、反応が薄い。びっくりさせ過ぎたかな?
一人だけ唸っているのがいるけど。
「べ、べ、べ、がジャ、ジャジャッジャッ」
「お、おい...悪かったよ。驚かし過ぎたな...」
俺は慌てて駆け寄った。
結論から言うと、一人は一瞬記憶が飛び、一人は呼吸停止で酸欠、一人は暫くベとジャしか言えなかった。
名誉の為、誰が何とは言わないが。
「...ということで。まずはウラシア大陸に渡ってもらいまーす」
晴れやかな仏頂面のケヴィンと、眠そうな目に戻ったリディと、俺を食い入るように見つめ続けているウラリーに説明を終えた。
ウラリーさんや、そんなに見てももう何も出やしないよ。
「事情は分かった。そういうことならば、再び神の元に行く前に、アルゴスの樹海に行くとしよう」
「さんきゅー。一緒に行くのは、ここにいる3人ってことでいいのかな?」
「俺は行く」
「私も行く」
「私は...死んでも死にきれないほど行きたいのですが、なんとも悔しい事に...召喚責任者なのです!ああぁぁぁ...
...っ、報告に戻らねばなりません...そして更なる対策を講じてまいります...」
そうか、ウラリーは召喚師長だったな。他にもやることが多いのだろう。
ケヴィンはいいのだろうか。
俺の不思議そうな視線を感じてか、彼が説明してくれた。
「俺はおまえを見つけ、その説得に成功し次第、そのままおまえの護衛に転ずる予定だった。だから問題ない。
リディは関係者ではないが、自由な冒険者だ。一緒に来てくれるなら心強い」
なるほど。彼女がいるなら、精霊の居場所を地元の動物に尋ねたりもできるのか。
確かにめちゃくちゃ心強いな。
「ところでベニッピーさん。召喚の場で貴方が使った能力付与の魔法陣、あれには様々な効果がついていたのですが、おそらく全てを把握できてはいないでしょう。
使わないと勿体無いので、今、習得してしまいませんか?」
それは有難い。
使えるのに使っていない能力があるのは知っていたが、それが何なのかはわからなかったのだ。
しばらくして。
俺は、収納魔法、鑑定魔法、転移魔法が新しく使えるようになった。
さらに、自然治癒能力向上、精神攻撃耐性、座標記憶能力が付いていた。
...物理攻撃耐性と、身体能力向上があるのは知ってたぜ。
本来あった物理技術とやらは、俺に手が無かったことで魔法技術に吸い取られたらしかった。
収納と鑑定は本当に便利だな。
荷物を持たなくてよくなったし、キノコなどの食材の毒の有無が簡単にわかる。
座標記憶も、一度行った場所にはもう迷わず辿り着けるし、そこに転移もできる。
そういえば、龍宮城とエマーム間の行き来も迷わなかったな。これのおかげだったのか。
「本来の使用対象者は人間でした。なので、人間用の分量の能力が含まれています。
普通に使うよりも、相当強力でしょう。例えば...ぐふふふふ」
怖いんだが。え、怖すぎるんだが。なんなの。
「さらに、私からプレゼントです!
もしあなたが喋れなかった場合を想定して、誰とでも話せるようになる魔法陣の開発に成功しました!
大変だったんですよ~、旅の途中、リディに協力してもらいながら川に潜って魚と睨めっこしたり...
つまり。使用者お魚限定の、特殊魔法陣です! どうぞ!」
「いや、気持ちは非常に有難く受け取るが、俺もう話せてるだろ」
「そんな悲しいことをおっしゃらずに! さあ! これが一番勿体無いとも言えるのです!」
本当に使っても大丈夫なのだろうか。
「逆に喋れなくなったりは...?」
「プラスはあっても、マイナスは有り得ません!そこだけは信用してくれて大丈夫です!」
仕方ない。俺の為に懸命に開発してくれたモノを断るのは流石に申し訳ないからな。
一体何と話せるようになるのかと実はかなりビビッているが、それを抑えて魔法陣のスクロールの上に乗る。
身体中を微弱な電流が駆け巡るような感覚がする。
うぅ、そうだった。これ不快なヤツだったわ。
次の瞬間。
俺は、頭を抱えて上空へ飛び上がった。
「サトリ! 俺に何が起きたかの、せ、説明を...頼んだぞ...」
たちまち天高く見えなくなったベニッピーを、呆然と眺める3人。
「おい、ウラリー...」
「え!? 一体何が! なぜ!?」
混乱しまくっている彼女に、サトリに事情を聞いたリディが説明する。
「サトリは、人の心が読める。それは、読もうと思って読むものだ。
ベニッピーはサトリと魂友になっていたらしい。つまり、彼女の能力の素養も受け取っていた。
ここまではいいか?」
「は、はい。理解しました」
「彼は、もう既に他者と会話が出来るようになっていた」
「は...はい。まさか...」
リディは頷く。
「そこに、お前の魔法陣の能力が更に追加された」
みるみるうちにウラリーの顔色が悪くなっていく。
「つまり――― 過剰な意思疎通能力が、開花したわけだ」
よろめくウラリー。
「そ、それで彼の今の状態は...」
「視覚、聴覚。すべての感覚で感知できる生き物の思考が、流れ込んできているらしい。
植物も含めてな」
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俺は、山岳地帯の上空で、天を仰いでいた。
ここまでくれば鳥の声も聞こえないし、上さえ見ていれば何も目に映らない。
しかし、参ったな...
ウラリーは何も悪くない。あったのは善意と興味だけだ。
むしろ、俺の方に原因があるとすらいえる。
サトリの能力の一端を受け取っていてもおかしくないことを知っていたのに、それに思い当たらず、完全に油断していた。
この先どうすっかな。
...意識した対象以外の思考を受け取らないように訓練するっきゃないか。
ゆっくりと下降を始めた時、サトリが飛んできた。
「サトリ~...お前も大変だったんだな...」
「ワフッ」
「はは、俺ほどじゃないか。下の3人は何か言ってたか?」
「キャン」
「ウラリーが悪いなんて全く思ってねぇのにな。俺が油断しただけだ。
...え。ウラリーが?」
なんと。彼女が、この能力を抑え込む魔道具の開発を始めたらしい。それも今。
旅先で、それも焼け落ちた村で、そんなことできるのか?
サトリが、通訳の為に下に戻っていく。
ありがたや...
地上では、ウラリーが小さな紙に懸命に魔法陣を書き込んでいた。
「能力奪取の魔法陣は大変難しく危険なため、少なくとも今この場では作成不可能です。
なので、この過剰意思疎通能力を抑える魔法陣を取り込んだ魔道具で、耐えていただくしか...
ううっ、申し訳ありませんでしたベニッピーさん...悪い私の癖です...」
ブツブツ呟きながら座った目で紙と格闘する彼女は、はたから見るとアブナイ人である。
そこに、サトリが戻ってくる。
「サトリさん、彼の様子はどうでしたか!?」
「...空で上を見ている分には、何も問題無い様子だと。
油断した自分が悪い、お前は悪くないと言っているそうだ」
「うぅー、雲も星も下を見ているというのに...
彼を雲の上の存在にするわけにはいきません...」
「上手い事言ってないで早くやれ」
「はいぃ!」
どうやら短時間で最低限の魔道具が完成するらしいので、そのまま上空で待つ。
暇だったので、チャクラムを飛ばしたり、風魔法でくるくる回転して遊ぶ。
数時間後、丁度空腹になってきた頃に、サトリが何かを咥えてやってきた。
モコモコした黒い耳当てだ。内側に縫った後がある。彼女のものか村人のものかは知らないが、譲ってくれた人に礼を言わなければな。
試しに、鑑定魔法でも使ってみるか。
【普通の耳当て・改】
魔道具。
内部に、動力源の魔石と、意思疎通能力抑制の魔法陣を有する。
魚類なら全員使用可能だが、実質ベニッピー・ジャスパー(半妖魚)専用。
作成者:ウラリー・ブラン(人間)
鑑定魔法を使ったら、情報が勝手に流れ込んできた。なるほど、こんな風にわかるのか。
......。
今、俺の名前に何かおかしなフレーズが入っていたような気もするが、まぁバグだろう。
そのうち消えるさ。
いざ、出陣!
耳当てを装着した俺は、意気込んで下界に降りていった。




