18話 白狼
ん?
確か、巨大な白い狼って話だったよな。
小さくね?
頭に?を浮かべる俺をよそに、ちび狼とリディはじっと見つめあっている。
ややして、リディが振り向いた。
「魔力がはじけた際に、自分の力も持っていかれたらしい。
見た目の大きさだけじゃなく、守護狼としての力も無くなってしまったようだ」
うすうす予想した通りだったー!
大きさというか、年齢を持っていかれたよなコレ。それにまだ、かなり魔力は残ってるぞ。
あ...、それを制御する力も失ったってとこかな。
「短期間では力は戻らない。この場所にいても当分の間は何もできないから、一緒に下に連れて行ってくれだって」
「連れてくのは構わないが。下に降りてどうすんだ?
しばらくは一人で住処に戻ってこられなくなるぞ?」
俺もじっと、ちび狼を見つめた。
大人しく、家で回復を待っていたらどうだ?と。
「おまえにくっついていくそうだ」
「なんだと!?」
「断ったら、おまえの正体をバラすらしい。まぁ、これは冗談だとも言っているが」
こいつ、チビになったくせに、なんたる脅迫を。本当は俺の方が小さいが。
しかし流石に守護神と言われるだけのことはある。少なくとも、俺が人間じゃないことは見抜かれているのか。
...ほんとに冗談か?
「わかったよ。別に犬は嫌いじゃないからな。
俺が寝ている間の番犬でもやってくれ」
「次に犬呼ばわりしたら、本気でバラすと言っているぞ」
「すみませんでした」
そうして俺は、ちび狼を抱え、リディを背負って、岩棚から飛び立った。
「そういや、こいつ名前はなんていうんだ?」
「特に無いらしい。名付けてくれだって」
「ふむ...考えとくよ」
村の跡に降り立つと、わらわらと人が寄ってきた。
「山神様はどうなっていた!?」
「ご無事でしたか!?」
食い気味に詰め寄られ、俺は白狼を持った腕を突き出した。
「はい。こいつが山神だ。放出の反動で縮んじまったようだ。
力が戻るまでの間、俺に着いていきたいみたいだから、しばらく預かろうと思う...いいか?」
「なんと。山神様がこのようなお姿を...愛らしい」
「俺たち村人が、山神様のご意思を尊重しないわけないだろ。どうかよろしく頼むよ」
すんなりと受け入れられた。
白狼を拝んでいる人、なぜか手をワキワキさせている人、何かに目覚めたように突っ立っていっる人など反応は様々である。
「そういえば兄ちゃん、まだ名前を聞いていなかったな。
恩人の名前だ。教えてくれねえか?」
「ベニッピーだ。一応冒険者だ」
「ありがとう。ベニッピーさん。改めてお礼を言わせていただくよ。
あなたがこの村にギリギリ到着したから、ケヴィンさんたちの知らせとあわさって、これだけの人数が助かった」
村人は、一斉に頭を下げた。
「どういたしまして」
「ベニッピーさんも、ルンベックとガート間の通過地点としてこの村に立ち寄ったのか?」
は、そうだった。ケヴィンやウラリーも聞いているから、慎重に答えねば。
「いや、俺はそこのケヴィンさんたちを追ってきていた。ロルカの街の宿屋で、ルンベックに向かったと聞いてな」
「俺たちをか。それはまた何故?」
「ジャスパーという珍しい魚を探しているんだろう。それに興味がでてきてな。詳しく話を聞きたかったんだ」
「そうだったか。...では、後で話そう。まずは死者たちの弔いを、最後まで終わらせてしまわねば」
この後、百数十体の遺体を村人が一か所に集め、俺が魔法で穴を掘って埋めた。
原型を留めない遺体も結構あった。だが、ほとんどの人数がちゃんと発見されたらしい。
俺は何もしなくていいと言われたが、彼らの方が肉体的にも精神的にも疲れているのだから、やらせてもらった。
穴掘りだけなら、そんなに魔力食わないし。
その様子を、白狼はただひたすらに見つめていた。
夜になり、村人が休んでいる場所から少し離れた場所で、俺とケヴィン、ウラリー、リディは焚火とスープの鍋を囲んでいた。
俺の膝には白狼が丸まっている。
暖かい季節で良かった。これで冬だったら、火砕流から逃れても寒さで死んでしまっていただろう。
「昼間のうちに、3人で話した。おまえに、どこまでジャスパーのことを教えるかを」
「ジャスパーは、その存在が大変重要なのです。私たちは、彼にしかできないことをやってもらえないか頼むため、探していました」
「ベニッピー。おまえは、ジャスパーのことをどこまで知りたい?
...興味本位では知らない方がいい内容なのだ」
俺は、3人の目を真っ直ぐに見た。
「できるなら、全て教えてくれ。絶対にお前たちの邪魔はしないと、この膝の神様に誓うから。
むしろ内容によっては、協力してもいいと思っている」
「わかった。ならば全て教えよう。最初に言っておくが、信じる信じないはおまえの勝手だ」
そうして語られたのは、この世界の異変の根本ともいえる事象についての話だった。
・1年前から、地脈が狂い、気候もおかしくなった
・それらを管理しているのは、交代制の役割「神」
・今まで、こんなことは起きなかった
うん。ここまでは知っていた。ガルに聞いたから。
・そこで、神の様子を見るため、また正しく機能してほしいと懇願するため、誰かが会いに行った
・神は玉座に居たが、目が虚ろだった。こちらの呼びかけにも答えなかった
・一旦戻り、数か月様子を見たが、異常は悪化の一途を辿った
「異常現象って、そんなにひどいのか?」
「ここらの、まだ比較的暖かい...赤道に近い地域は、そこまで酷くはない。
せいぜい今みたいな、地脈の狂いで山が噴火する程度だ。
問題は、高緯度の地域だ」
「北極と南極に近い、寒いところか」
「そうだ。地上の火山も海底火山も噴火し、魔物は凶暴化し、伝染病も流行っている。
嵐も地震が頻発し、寒さはより厳しくなり、晴れる日が少なくなった。
作物が育たなくなったことで、飢える者も増えている」
なんだそれ。めちゃくちゃ踏んだり蹴ったりだな。
・もう神を交代させるしかないとの結論になった
・しかし、そんな前例は無いし、誰も方法を知らない
・玉座の前には、透明なシールドが張ってある。破壊しようと試みたが、破れなかった
・ダメもとで、シールドは無視して神に切りかかろうとしたら、身体が動かなかった
「身体が、動かなかった?シールドには攻撃出来たのに?」
「ああ。攻撃対象の意識を「神」に向けたことが原因だとされた。
そこで、この世界で生まれた者ではない者に、代わりにやってもうことになったのだ」
できる保証など無いが、試そうとするしかなかったのだろう。
「そもそも、神って殺していいのか?神が死んだら、世界が滅んだりするかもしれないじゃないか」
「異常は広がり続けている。低緯度地域にも、じわじわと。ここで止まらねば、やがて多くの生物が絶滅することになるだろう。
ならば、多少その危険を孕んでいても、神を殺めるべきだということになったのだ」
「神通力?の継承とか、シールドの問題は?」
「シールドの方は、何とかするべく動いている者たちがいる。
神の能力の継承は...まったくわからない以上、後回しだ。
俺とウラリーは、魔大陸にて異世界の者を召喚するべく動いていた」
そんな大雑把でも動くあたり、本当に切羽詰まっているのだろうな。
「そこで召喚されて出てきたのが、ジャスパーだ。...この名前も、仮の呼称だが」
うん知ってるー。
「異世界の、優れた者という条件の召喚魔法陣は、成功しました。
別世界からの召喚魔法は、今までモノしか実験したことしかなかったのですが」
「俺たちは、人が出てくることを想定していた。小さな魚が呼び出されてくるなど…想定外だった。
だからといって言い訳にはならないが、そこで俺は失礼な態度をとってしまってな。
ジャスパーをその場に放置して、捨てるような姿を見せてしまった。
...彼に、最初から自我と知性があったなど、思いもせずに」
いやほんと、怖かったよお前。
「私は、既に発動させて待機していた能力付与の魔法陣を無駄にするのが勿体無いと思い、彼をそこに導いて去りました。
完全に、興味本位でしたが」
おう、あんときゃありがとよ。おかげで助かったぜ、召喚師長さん。
「しばらくして、ジャスパーが魔法陣に入ったことで凄まじく強大な力を手に入れたのが伝わってきた。
俺たちは急いで避難して...彼が、飛び出していくまでを観察していた」
確かに、最初は魔力ダダ洩れだったな俺。
「彼の行動を観察して初めて、かなりの知性があることを確信し、ジャスパーに希望を託せるかもしれないという結論に至った。
そしてすぐに追ったのだが...最初の目撃情報以来、未だに何の手がかりも無いのだ」
海鳥さんありがとう。どうやらあの時俺は、最善の行動がとれたらしいぞ。
しかし、こいつらも大概だな。魚に神を殺させようと、本気で動いていたとは。
...おもしろい。
「鳥に銜えられ、南の方に飛んでいったというから、ずっと南方の島々から地道に聞き込みをしていた。
動物たちにもかなり聞き込んだのだが、誰一人として見ていないという」
そりゃそうだ。海底に居たんだからよ。悪かったな。
「だが、リディによれば...そろそろ事態が動くかもしれないらしい」
やだリディさん怖い、なに君超能力者?
バレてないよな?
「そうか...話してくれてありがとな。謎が解けた。
なんで魚が空気中で生きていられるのか不思議に思っていたんだ。
追ってきた甲斐があったぜ」
「そういえば、おまえの種族はなんなんだ?あれだけの魔力量だ、人間じゃないんだろう。
魔族...ではないな。翼は無いが、天族なのか?」
やっべ...!
人間じゃないとバレた時の答え方、考えて無かった......!!




