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金魚戦記  作者: 悠布
1章 騰蛟起鳳
17/92

17話 噴火

 ケヴィンとリディは、狼に乗って沢沿いを駆けていた。

 流石に彼らの移動速度は人間とは比べ物にならないほど速い。

 流星のように木々が流れ去ってゆく。


 しばらくすると、木造の家が一軒見えた。そのすぐ先にももう一軒ある。

 二人は頷きあい、狼の背を軽く叩いて止まってもらう。


 素早く背から降り、それぞれ家に向かって走った。

 扉を叩いて声を掛ける。


「誰かいるか!緊急事態だ、開けてくれ!」

「...なんだい、どうした。誰か山で倒れたのか?」


 そう言いつつ、住人が扉を開けて出てくる。

 

「留守じゃなくて良かった。山神のお告げだ。火山が噴火する。

 信じないのは勝手だが、一刻も早く高いところへ避難しろ」


 それだけ言うと、ケヴィンは踵を返した。

 向こうの家に向かったリディも戻ってくる。


「お、おい待ってくれ。それは...いつ頃だ?」

「俺にもわからん。だが死にたくなければ急げ」

「...わ、わかった!」


 彼はすぐさま中に戻り、家族を引っ張って飛び出してきた。

 

「疑わないのか?」

「山神様は守護神だぜ?悪い奴はその使者なんか騙らないだろ」

「...そうか」




 マロシュとウラリーは、狼に騎乗したまま村を駆けまわっていた。


「急いで!何も持たなくていい!1歩でも高いところへ!」

「火山が噴火します!早く逃げてください!」


 必死に声を掛けるが、小さいとはいえ村である。家々は離れているし、そんな都合よく駆け上がれるような高台も無い。

 噴火と聞いて、村人たちは即座に家を飛び出したが、


「でも...どこへ!?」

「そんな...ここは川沿いで...」

「いや、きっとまだ時間はある!焦るな!」


 思い思いに叫びつつも、なかなか上手く避難は進まない。


 地震が起きたのは、そんな時だった。

 それだけならば、よくある事だった。しかし。


 身の毛もよだつような轟音と共に、火山が噴火した。

 やがて噴石が降り注ぎ始め、灰色の煙がモクモクと膨らむ。


「うそでしょ...山が...」

「逃げろー!!火砕流が向かってきてる!」

「キャーーーッ!!」

 

 もう、統制の取れた避難などできない。

 阿鼻叫喚の騒ぎの中、人々はバラバラに逃げ惑った。



____________________________



 俺が地上に降りて見たのは、迫りくる火砕流に対して、あまりにも無力な村と、その村人。

 傍には柵に囲まれた家畜たち。今柵の扉を開け放っても、もう間に合わないだろうな。

 

 母親が、小さな子供の手を引いて逃げている。

 転んだ老人を抱き起す、若い女性。

 狼に乗って叫びまわる、初老の男。


 できることなら、助けてあげたい。

 どうする、物理防御結界を張るか?...いや、村全体を覆うことが出来たとしても、強度を保てる自信は無い。

 火砕流に飲み込まれた状態で結界が解けたら、それこそ危ない。

 

 火砕流の流れを変えるか?...無理だ。溶岩だけならともかく、あれは煙と石だ。

 地形変化による流れの誘導も、風で吹き飛ばすこともできない。


 ...地形変化?

 そうだ、その手があったか。


「おい!俺は魔法が使える!死にたくなけりゃ、ここに集まれ!

 あと40秒で発動させる!」


 思い切り叫んだ。


 俺の存在に気づいた人々が、集まってくる。


「集まれー!」

「急げぇ!こっちだ!」


 口々に叫びながら、必死に俺の元に集まる。

 よくまぁこんな突然現れた怪しいヤツのいう事を信じるな。

 ...藁にも縋る思いというやつなのだろう。


 地面に手をついて、地中に魔力を流す。うん、この硬さならいけそうだ。


「今から試みる魔法は、俺も初めてだ。だから失敗する可能性もある。すまんな」

「何言ってんだ、旅の兄ちゃん。あんたがたった今ここに来なかったら、どのみち殆ど助かってない。

 だから死んだって文句なんか言わねぇよ」


 そう言ってくれるか。ならば俺も...少しは救われるかもしれない。


 こちらに向かって、まだ遠くから何人もの人が走ってくるのが見える。

 その彼らが、火砕流に飲み込まれていく。

 

 赤ん坊を背負った母親が、手を取り合った老夫婦が、兄弟と思しき少年たちが。

 足の遅い者、遠くにいた者から順に、煙に追いつかれる。

 壮年の男に背負われた老婆が自ら地面に落ち、振り返った男の背を押し出すのが見える。


 あと10秒しか待てない。

 ごめんな。


 

 そして10秒後。

 走る人々の僅か1歩分の距離の差が、彼らの生死を分けた。



 俺を中心に、半径30メートル程度の円形の地面が上昇する。

 円柱状に盛り上がった巨大な筒を、四方の地面から斜めに伸びた細い柱が支える。

 数秒後、さっきまでいた場所が高温の煙に飲み込まれた。


 視界の端に、地面の縁にぶら下がった人を助けようとした人が、誤って自分も一緒に落下するのが映った。

 赤ん坊と家畜がなき叫び、人々は呆然と言葉を失っている。


 その時、風向きが変わった。

 さっきまでは僅かだった細かい噴石が、大量に降り注いでくる。

 高温の石が高速で打ち付けてくるのだ。掠っただけでも大怪我である。


 物理結界を張るか?

 否、ダメだ。この地面の強度を維持している力を割くのは不味い。

 柱の強度を減らして結界を張っても全く問題無いかもしれないが、崩れない保証が無い以上そんなことはできない。

 どうする。


 その時、明るい声が聞こえた。

 同時に、誰かの結界が張られる。


「結界なら、私にお任せください!」


 ...ん?

 今の声聞いたことあるな。


 そっと振り返ると、たった今結界を張って人々を守ったのは「召喚師長」だった。なぜか狼に乗っている。


 いたのかアンタ!

 いや、俺が追ってきたケヴィンに同行していてもおかしくはないと思ってはいたけれど、まさかこんな逃げ場のない場所で遭遇した上にバッチリ姿を見られるとは。

 そのケヴィンはいないのか?...逃げ遅れたりしていないだろうな。別の場所で無事だといいんだが。

 

「兄ちゃん、ありがとな。いや…ありがとうございます。おかげで、こんなにも多くの村人が助かりました」

「ああ。...俺がもっと上手くできていれば、あと何人も助けられただろうに。

 無情に、何人も、目の前で取りこぼした。悪かったな...」


 ここの住人が何人いたのかは知らないが、助けられたのは150人もいないだろう。

 ...違うな、たった40秒でよくここまで集まってくれた。


「サムソン、あなたも無事でしたか。良かったです」

「ウラリーさん、あんたも無事で何よりだ。ケヴィンさんとリディさんは?」

「彼らは、村の外に暮らす人の方に行ったようです。万が一知らせるのが間に合わなくても、狼に乗っているので無事なはずです」

「そうか、なら良かった。本当にあんたたちとこの兄ちゃんが来てくれて助かったよ。ありがとう」

「いえ、私は…結局何もできなかったじゃないですか。間に合いませんでした」


 「召喚師長」ウラリーは、悲し気に俯いた。

 そんな彼女に俺は声を掛ける。


「あんたたちが、山が噴火する前から村人に知らせてまわっていたんだろう?だから全員が家の外にいたし、すぐに走ってこられた。

 それが無かったら、俺は誰も助けられなかったよ。噴火に遭遇するなんて思いもしなかったしな」

「...ありがとうございます。そう言われると、救われる気がします」


 彼女も俺と同じ気持ちだったか。


 地面の円柱が十分な強度を持っていることを確認して、魔力を注ぐのをやめる。かなり使い切ってしまったようだ。

 少しして噴石の雨も収まったので、ウラリーも結界を解除する。


 やがて時間をかけ、煙が薄まってくる。さらに風向きが変化し、ガスを吹き飛ばしていった。

 見えてきたのは、無残な姿で焼け落ち、灰色のすすを被った家々だった。まだチロチロと炎が残っている。

 そして地面タワーの元へと走り、辿り着けなかった者たちの遺体。


「地面はまだ熱いだろうが、もう下ろしても大丈夫だろうか」

「そうですね。もう、死ぬほどの危険は無いと思いますよ」


 いつまでも空中にいるわけにもいかないので、下ろすことにした。

 円柱の上部だけを切り離し、ゆっくりと空中を下降させる。その方が魔力消費が少なくて済むからな。

 

 地面を地面に着陸させたときには、俺の魔力はもう枯渇寸前だった。結構危なかったな。


「ちょっと休憩してくる。探さないでくれ」


 そう言いおいて、俺は一人、無事だった山の中へと消えた。



 

 2時間ほど睡眠休憩をとると、やや魔力が回復した。

 村に戻ると、人々が集まってくる。

 その中には、「ケヴィン」であろう男もいた。やっぱり顔が怖い。


「おまえが、地面を盛り上げて村人を助けたと聞いた。その中には俺の連れもいてな。礼を言う」

「どういたしまして。あんたたちも旅人なんだろう。災難だったな」

「いや、俺たちは(・・・・)全員助かった。僥倖だったというべきだろう」

「...そうだな」


 俺は、周囲の人たちをぐるりと見回した。


「教えてくれ。どうして、火山の噴火がわかったんだ?」





 そうして、俺は今回の事態の説明を受けた。


 地中の魔力の流れが変わったことで噴火しそうになっていた山を、山神と言われる特殊な狼が、自分の身に魔力を引き入れることで抑えていたこと。

 その眷属の狼も、魔力の一端を引き受け意識が朦朧としていたこと。

 彼らなりに、村人を安全圏へと逃がすため、ずっと追い払おうとしていたこと。

 その全てが、ケヴィン達一行のリディという女性が山神と話すことで解明されたこと。

 急いで知らせに走ったが、地震の影響でついに山神の力に限界が来て、間に合わなかったこと。


 なるほど。だから、馬ではなく狼に乗っている奴らがいたのか。


「その山神は今どうなったんだ?」

「わからない。すぐに行ける場所ではないのだ。俺たちを連れてきてくれた狼も、もうどこかへ行ってしまったしな」

「じゃあ、俺がちょっと飛んで様子を見てくるよ。そのリディさんを連れてな」


 人一人抱えて飛んでも、往復分の魔力はもつだろう。

 というか、俺が飛ぶ分には魔力消費が無いので、実質ゼロだ。

 ...あれ?本当は、上空での移動も、人化して荷物を抱えて飛んだ方が良かったのでは。

 よし、次からはそうしよう。


「わかった。よろしく頼む」


 本人の許可が出たので、彼女をヒョイと背負わせてもらう。軽いな。

 人前で飛ぶことになったが、あれだけの魔法を使った後だ。もう今更だよな。


「行ってくる」


 人々に見送られ、俺たちは空へと舞い上がった。



「右に見える岩山の頂上だ。そこにいる」

「やっぱりあそこか。もの凄い魔力放出量だった。

 あの反動を食らったら、ただじゃ済みそうにないな」

「見ていたのか?」

「ああ。今みたいに、空からな。驚いたよ」


 飛んだらすぐに目的地に着いてしまったが、これは徒歩だと時間がかかるだろうな。

 岩棚の上に降り立ち、リディの先導で洞穴に入る。

 すると前方に石の台があり...そこに。



 小さな白い狼が、ちょこんと座っていた。

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