14話 追跡
ギルドで教わった道順で、白桔梗亭へと向かう。
もっとゆっくり街を見て回りたかったが、今は急ぐしかない。
その宿は、俺たちがやってきた方面にあったようだ。
再び、賑やかな大通りを逆に進む。
「今朝とれたての新鮮な魚が、キンキンに冷えてるよー!」
「らっしゃーい!最近流行りのジャスパー飴だ、一つ銅貨10枚!」
「木彫りのジャスパーいらんかねー。子供のおもちゃに一つどうだーい」
先程は気づかなかったが、何やら耳慣れないものがこの街で流行っているらしい。
食べ物なのかおもちゃなのか、何なのだろうか。
声のする方へ寄ると、祭りのりんご飴みたいなものを売っている露店だった。
「なぁオヤジ、ジャスパー飴って何だ?りんご飴だろ?」
「おう、兄ちゃんは冒険者か。
ひと月くらい前にな、ジャスパーって名前の赤い魚を探してる連中が流れて来てよ。
そこらじゅうで聞きまわっててな。キャッチャーな設定だし、有名になったし、これは売れる!って、商品化したヤツが多いんだよ。俺を含めてな」
「そうか...ありがとな、一つもらうよ」
「毎度ありー!」
俺の事だった。
買ったばかりの菓子を見る。
細い木の枝に刺さった、真っ赤なリンゴ。小さな黒い豆が二つと、ヒレを模した赤いグミがくっついている。
共食いどころか自分を食べることに躊躇っていると、子供たちの声が聞こえた。
「ブーーン!空飛ぶジャスパーが通るぞー!」
「ワァーーッ、捕まえろーー!」
「僕の硬さをなめるなよ、虫網なんてかんたんに突き抜けるぞー!、えい、魔法こうげきー!」
「こっちだってジャスパー持ってるもん!魔法シールドー!」
木彫りの俺の人形で、小さな男の子たちが遊んでいる。
しかも結構詳しいようである。
なんということだろうか。やつら許すまじ。
地の果てまで追いかけて、てめぇらもマスコット化してやるよ。
決意した俺は、ジャスパー飴をかじりながら、商店街を抜けていった。
白桔梗亭は、冒険者向けの宿屋が並ぶ区画にあった。
白い外観が特徴的な、落ち着いた宿だ。ランクは中の上くらいだろうか。
入り口を通り、カウンターの女将に話しかける。
「ひと月近く前まで、ケヴィン・エルランジェという客が滞在していたはずだ。
次の行き先を知らないか?」
「ああ、あの流行りを広めていった人達ね。知ってるよ、ええと」
女将はカウンターの下をごそごそと探し、メモ用紙を取り出した。
「ルンベックだってさ」
「そうか、ありがとう。俺のような、後から探しに来る者を想定していたのか」
「ダメもとだって言っていたけどね。情報提供料だってチップももらったから、アンタからは要らないよ」
「おう。邪魔したな」
「次は泊まってっておくれー」
宿を出て、次の行き先の場所を脳裏に浮かべる。
ルンベックとは、ここから南西にある海岸沿いの地方都市だ。どうやって移動しよう。
本来の姿に戻って飛んでいくか、海を泳いでいくか、人の姿のまま向かうか。
しかし、速度を優先すると、その道中で何も情報を得られない。
彼ら+世界の異変に関する情報をとるか、すぐさま彼らに追いつくことを重視するか。
早く決断しなければならないのに、すぐに決められない。それは俺が金魚で、人じゃないからだろうか。
もし...ヘクターさんだったらどうするだろう。俺の師匠だったら。
彼の顔を思い浮かべると、同時に言葉も思い出した。
「迷ったら、自分の勘に従うことです。正解なんて、存在しませんから」
そうだった。ありがとうヘクターさん。
決めた。直ちに追いかることにする。空を飛んで。
海岸沿いの雑木林まで戻り、周囲を確認してから人化を解く。
体色を白に変化させ、ビー玉サイズに縮む。荷物を魔法で持ち上げ、そのまま一気に上空まで上昇した。
もし誰かが林の上を見ていたら、空高く舞い上がる荷物に仰天したに違いない。
「ルンベックは...あっちか」
十分な高度に到達し、大きさと色を元に戻す。
そして、一直線に目的地を目指した。
3時間ほど高速飛行を続けた頃、疲れてきたので一度地上に降りることにした。
眼下に小規模の町を見定め、町はずれの林の中へ降り立つ。
この辺りはロルカの街よりも空気中の魔力濃度が高いようだ。
食事をとるついでに軽く情報収集をするため、街の中心部へ歩を進める。
これだけ離れると、街の雰囲気も変わるものだな。ここも海岸沿いだが、山岳地帯が近づいてきたからだろうか。
通行人にギルドの場所を尋ね、まずはそこへ向かう。
着いた場所は、こじんまりとしたアットホームな雰囲気のギルドだった。一瞬、入るのを躊躇ってしまうくらいだ。
カウンターは...無いが、文机の向こうに職員さんが座っている。
「失礼。しばらく前に、ケヴィンという者が、空飛ぶ魚探しの依頼を出しませんでしたか?」
「ああ、来ましたよ。珍しかったから覚えてます。だいたい20日くらい前のことですね」
「そうですか、ありがとう。ところで、彼らが何かを流行らせてから去って行ったりとかは...?」
「着いたばかりでしょうに、よく知ってますね!あの方たちのおかげで、赤いベタを飼育するブームが来てますよ。
ジャスティスとかウィスパーといった名前をつける人が多いみたいですね」
なんだと...あのライバルの人気を上げていっただと。
「この町からルンベックまでの一般的なルートを教えてもらえますか?」
「もちろんですよ。ここザパスから南西に3日でガートの町、そこから険しい山岳地帯の道に入るので4、5日でエマームの村、そして...」
と、地図を見ながら詳しく教えてもらった。
そう、飛んでいるうちに気づいたのだが、徒歩での道筋を知っておいた方がいい。
大体今どのあたりに居る、以前に居ただろうというのは、把握しておくに越したことはないからである。
今、この町を彼らが通過した事実を知れたのは僥倖なのだ。
礼を言ってギルドを出て、すぐ隣にある食堂に入る。
おすすめを一つ頼むと、山菜うどんがでてきた。
「この辺は水が綺麗だからね、美味しいうどんができるんだよ」
「なるほど。それで魚をペットに飼えるんだな」
「最近のベタブームね。あたしゃメダカ派だから近頃は寂しいよ」
「メダカ好きは玄人だろ、胸張れよ」
「あんちゃん、分かってるねぇ!まけとくよ」
ありがたい。
食堂を出ると夕方になっていた。
目的地まではあと2時間ほどだ、このまま飛んでしまおう。
先程と同じ手順を踏み、上空を飛行する。
ルンベックに到着した頃にはもう真っ暗になっていた。
ギルドはまだ開いているはずなので、道を尋ねてさっさと向かう。
距離と移動時間を考えると、彼らはおそらく既にこの街を去っている計算になる。
そう考え、ザパスの町と同じようにギルドの受付で確認したのだが...
「来ていない?」
「はい。そのような依頼は、ありません」
「...この街で、赤い魚を探している人たちや、ジャスパーという名前を見聞きしたという情報は?」
「…ございませんね」
「そうですか...」
情報が集まるギルド、その職員が知らない、来ていないと言う。
ならば、本当にいない可能性が高い。
ザパスまでは普通に来ていた。そこからこの街にかけての間で何かあったのだろう。
単純にルート変更したのか、寄り道しながらゆっくり来ているのか、トラブルがあって足止めされているのか...
いくらでも可能性は浮かび上がるが、考えても仕方がない。
「...もう今日は疲れた。とりあえず寝よ」
ギルドの裏手に、丁度川があった。
流れの穏やかな一角を見つけると、荷物から小さな鳥かごを出す。
周囲で誰も見ていないことを確認してそっと人化を解く。
鳥かごに入って扉を閉め、荷物と一緒に川へダイブし、ブクブクと川底に沈んでいった。
ふと目を覚ます。3時間くらい寝ただろうか。疲れはバッチリ取れたぜ。
鳥かごと荷物を浮上させ、岸に上がって人化する。辺りはまだ暗い。
普通の冒険者に比べて宿代が浮く金魚の身は、実に助かるな。
地上で眠ってもいいのだが、人や動物に見つかりやすいし、本来俺は水中の生き物だから水の中の方が落ち着くのだ。
さてと。面倒だが、戻るしかないだろう。
一つ前の町に戻って、そこにもまだ来ていないようならまた一つ...と繰り返すのだ。
仮にバッタリ遭遇して姿を見られたとしても、俺だと悟られないように慎重に、な。




