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金魚戦記  作者: 悠布
1章 騰蛟起鳳
14/92

14話 追跡 

 ギルドで教わった道順で、白桔梗亭へと向かう。

 もっとゆっくり街を見て回りたかったが、今は急ぐしかない。


 その宿は、俺たちがやってきた方面にあったようだ。

 再び、賑やかな大通りを逆に進む。


「今朝とれたての新鮮な魚が、キンキンに冷えてるよー!」

「らっしゃーい!最近流行りのジャスパー飴だ、一つ銅貨10枚!」

「木彫りのジャスパーいらんかねー。子供のおもちゃに一つどうだーい」


 先程は気づかなかったが、何やら耳慣れないものがこの街で流行っているらしい。

 食べ物なのかおもちゃなのか、何なのだろうか。


 声のする方へ寄ると、祭りのりんご飴みたいなものを売っている露店だった。


「なぁオヤジ、ジャスパー飴って何だ?りんご飴だろ?」

「おう、兄ちゃんは冒険者か。

 ひと月くらい前にな、ジャスパーって名前の赤い魚を探してる連中が流れて来てよ。

 そこらじゅうで聞きまわっててな。キャッチャーな設定だし、有名になったし、これは売れる!って、商品化したヤツが多いんだよ。俺を含めてな」

「そうか...ありがとな、一つもらうよ」

「毎度ありー!」


 俺の事だった。


 買ったばかりの菓子を見る。

 細い木の枝に刺さった、真っ赤なリンゴ。小さな黒い豆が二つと、ヒレを模した赤いグミがくっついている。

 共食いどころか自分を食べることに躊躇っていると、子供たちの声が聞こえた。


「ブーーン!空飛ぶジャスパーが通るぞー!」

「ワァーーッ、捕まえろーー!」

「僕の硬さをなめるなよ、虫網なんてかんたんに突き抜けるぞー!、えい、魔法こうげきー!」

「こっちだってジャスパー持ってるもん!魔法シールドー!」


 木彫りの俺の人形で、小さな男の子たちが遊んでいる。

 しかも結構詳しいようである。


 なんということだろうか。やつら許すまじ。

 地の果てまで追いかけて、てめぇらもマスコット化してやるよ。


 決意した俺は、ジャスパー飴をかじりながら、商店街を抜けていった。




 

 白桔梗亭は、冒険者向けの宿屋が並ぶ区画にあった。

 白い外観が特徴的な、落ち着いた宿だ。ランクは中の上くらいだろうか。

 入り口を通り、カウンターの女将に話しかける。


「ひと月近く前まで、ケヴィン・エルランジェという客が滞在していたはずだ。

 次の行き先を知らないか?」

「ああ、あの流行りを広めていった人達ね。知ってるよ、ええと」


 女将はカウンターの下をごそごそと探し、メモ用紙を取り出した。


「ルンベックだってさ」

「そうか、ありがとう。俺のような、後から探しに来る者を想定していたのか」

「ダメもとだって言っていたけどね。情報提供料だってチップももらったから、アンタからは要らないよ」

「おう。邪魔したな」

「次は泊まってっておくれー」


 宿を出て、次の行き先の場所を脳裏に浮かべる。

 ルンベックとは、ここから南西にある海岸沿いの地方都市だ。どうやって移動しよう。

 本来の姿に戻って飛んでいくか、海を泳いでいくか、人の姿のまま向かうか。

 しかし、速度を優先すると、その道中で何も情報を得られない。


 彼ら+世界の異変に関する情報をとるか、すぐさま彼らに追いつくことを重視するか。


 早く決断しなければならないのに、すぐに決められない。それは俺が金魚で、人じゃないからだろうか。

 もし...ヘクターさんだったらどうするだろう。俺の師匠だったら。


 彼の顔を思い浮かべると、同時に言葉も思い出した。

 「迷ったら、自分の勘に従うことです。正解なんて、存在しませんから」


 そうだった。ありがとうヘクターさん。


 決めた。直ちに追いかることにする。空を飛んで。


 海岸沿いの雑木林まで戻り、周囲を確認してから人化を解く。

 体色を白に変化させ、ビー玉サイズに縮む。荷物を魔法で持ち上げ、そのまま一気に上空まで上昇した。

 もし誰かが林の上を見ていたら、空高く舞い上がる荷物に仰天したに違いない。


「ルンベックは...あっちか」


 十分な高度に到達し、大きさと色を元に戻す。

 そして、一直線に目的地を目指した。 

 

 


 3時間ほど高速飛行を続けた頃、疲れてきたので一度地上に降りることにした。

 眼下に小規模の町を見定め、町はずれの林の中へ降り立つ。

 この辺りはロルカの街よりも空気中の魔力濃度が高いようだ。


 食事をとるついでに軽く情報収集をするため、街の中心部へ歩を進める。

 これだけ離れると、街の雰囲気も変わるものだな。ここも海岸沿いだが、山岳地帯が近づいてきたからだろうか。


 通行人にギルドの場所を尋ね、まずはそこへ向かう。

 着いた場所は、こじんまりとしたアットホームな雰囲気のギルドだった。一瞬、入るのを躊躇ってしまうくらいだ。

 カウンターは...無いが、文机の向こうに職員さんが座っている。


「失礼。しばらく前に、ケヴィンという者が、空飛ぶ魚探しの依頼を出しませんでしたか?」

「ああ、来ましたよ。珍しかったから覚えてます。だいたい20日くらい前のことですね」

「そうですか、ありがとう。ところで、彼らが何かを流行らせてから去って行ったりとかは...?」

「着いたばかりでしょうに、よく知ってますね!あの方たちのおかげで、赤いベタを飼育するブームが来てますよ。

 ジャスティスとかウィスパーといった名前をつける人が多いみたいですね」


 なんだと...あのライバル(ベタ)の人気を上げていっただと。


「この町からルンベックまでの一般的なルートを教えてもらえますか?」

「もちろんですよ。ここザパスから南西に3日でガートの町、そこから険しい山岳地帯の道に入るので4、5日でエマームの村、そして...」


 と、地図を見ながら詳しく教えてもらった。


 そう、飛んでいるうちに気づいたのだが、徒歩での道筋を知っておいた方がいい。

 大体今どのあたりに居る、以前に居ただろうというのは、把握しておくに越したことはないからである。

 今、この町を彼らが通過した事実を知れたのは僥倖なのだ。


 礼を言ってギルドを出て、すぐ隣にある食堂に入る。

 おすすめを一つ頼むと、山菜うどんがでてきた。


「この辺は水が綺麗だからね、美味しいうどんができるんだよ」

「なるほど。それで魚をペットに飼えるんだな」

「最近のベタブームね。あたしゃメダカ派だから近頃は寂しいよ」

「メダカ好きは玄人だろ、胸張れよ」

「あんちゃん、分かってるねぇ!まけとくよ」


 ありがたい。


 

 食堂を出ると夕方になっていた。

 目的地まではあと2時間ほどだ、このまま飛んでしまおう。

 先程と同じ手順を踏み、上空を飛行する。


 

 ルンベックに到着した頃にはもう真っ暗になっていた。

 ギルドはまだ開いているはずなので、道を尋ねてさっさと向かう。

 

 距離と移動時間を考えると、彼らはおそらく既にこの街を去っている計算になる。

 そう考え、ザパスの町と同じようにギルドの受付で確認したのだが...


「来ていない?」

「はい。そのような依頼は、ありません」

「...この街で、赤い魚を探している人たちや、ジャスパーという名前を見聞きしたという情報は?」

「…ございませんね」

「そうですか...」

  

 情報が集まるギルド、その職員が知らない、来ていないと言う。

 ならば、本当にいない可能性が高い。


 ザパスまでは普通に来ていた。そこからこの街にかけての間で何かあったのだろう。

 単純にルート変更したのか、寄り道しながらゆっくり来ているのか、トラブルがあって足止めされているのか...

 いくらでも可能性は浮かび上がるが、考えても仕方がない。


「...もう今日は疲れた。とりあえず寝よ」


 ギルドの裏手に、丁度川があった。

 流れの穏やかな一角を見つけると、荷物から小さな鳥かご(ベッド)を出す。

 周囲で誰も見ていないことを確認してそっと人化を解く。

 鳥かごに入って扉を閉め、荷物と一緒に川へダイブし、ブクブクと川底に沈んでいった。


 

 

 ふと目を覚ます。3時間くらい寝ただろうか。疲れはバッチリ取れたぜ。

 鳥かごと荷物を浮上させ、岸に上がって人化する。辺りはまだ暗い。

 

 普通の冒険者に比べて宿代が浮く金魚の身は、実に助かるな。

 地上で眠ってもいいのだが、人や動物に見つかりやすいし、本来俺は水中の生き物だから水の中の方が落ち着くのだ。


 さてと。面倒だが、戻るしかないだろう。

 一つ前の町に戻って、そこにもまだ来ていないようならまた一つ...と繰り返すのだ。


 仮にバッタリ遭遇して姿を見られたとしても、俺だと悟られないように慎重に、な。

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