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ゴブリンなんて怖くない

 ゴブリンに引きずられている女性は、ピクリとも動かない。


 まさか……既に亡くなっており、ゴブリンが死体を連れ歩いて居る訳ではないでしょうね?ゴブリンは成人女性を拐い種の存続を図るが、人間を捕食はしないはずだ。



 ――――――あくまでしないはず………ですが。



 何らかの事象が原因で、突然変異種のゴブリンなどが産まれた場合は、その限りでは無いんですけどね。


 まずは引きずられている女性をゴブリン共から引き離さなきゃ。


 私は魔術の扱いには他の人よりも長けていると思う。けれど実践経験は乏しい。だから不安要素は勿論ある。


 エアーアローでゴブリン共を撃ち抜く事は簡単だが、あくまでそれは救出すべき対象が居ない場合に限る。もしも万が一、女性に当たってしまったらと考えると、私は直ぐにエアーアローを撃つ事が出来なかった。



 人1人の命って、この世界では元の世界よりも軽い。魔物や魔獣は一歩町を出れば、普通に闊歩してるし、自然災害なんかはしょっちゅう起こっているので、元の世界よりも簡単にこの世界の人々は亡くなってしまう。


 だからこそ、今ゴブリンに捕まっている女性を無事に助けたいのだ。この際多少の傷は構わない。生きてさえ要れば、私の魔術でどうにでもしてみせるっ!!

 だがしかし、死んでしまったら生き返れる事はほぼ不可能です。死者蘇生の魔術を使えるのは、例の光の属性魔術が使える者だけですので。



 捕らわれている女性が、殺されずに助かる事が出来る魔術かぁ………う~んう~ん………。

 私が脳をフル回転させて、女性を助けられる魔術を考えている間にも、ゴブリン共は「ギャーギャー」と叫んだり、石や木の枝などを私に向けて投げたりする威嚇を繰り返して居る。


 これ以上長く考えている時間は無いな。ふむ……。ここ数年、全く使用していなかったあの闇魔術を使用する事にしようか。

 あれならばまぁ、女性が死ぬことは無いでしょう…………きっと。


 おおっし!やったるでぇ………。


「グラビティ・マーシュ!!!」


 私の呪文の詠唱が終ると、グニョニョンとゴブリン共の足元の地面が歪み、ゆっくりズブズブという音を立てて奴らを地中へと飲み込み始めた。


「ガアアアア………」


「ウギャッ、ウギャッ!!?」


「ギヒィー!ギヒィー!!」


「ウゲゲッ……ウゲゲゲッ……ゲグゥー!!!」


「ギュフッ……ギギギ……グギューーー!」


 ゴブリン共は混乱した叫び声を上げながら、慌てて手にもっていた武器や掴んでいた女性を放して、自身が地面に吸い込まれるのを阻止しようとするも、ゴブリン共はそのままなすすべもなく、地中の奥深くへと飲み込まれて行った。



 はふっ……。久々に闇魔術を使ったからドキドキしちゃったけど、上手い具合にゴブリンが女性から手を放してくれて良かった……。放してくれてなかったら、ゴブリンの腕を切り落とさなければならなかったからね。



 私は気絶していて無闇に暴れなかったため、殆ど地中へ沈まなかった女性が、本当に無事か確かめるために、女性の胸に耳をあてて心音を確かめた。


 トックン……トックン……トックン……トックン……。


 微弱だがちゃんと心臓は鼓動しているようであった。どうやらただ単に気絶しているだけのようだ。


 ふぅ、良かった……生きてる。彼女が生きている事に対して私はホッと一息ついた。若い女性が目の前で亡くなったら、流石の私も寝覚めが悪いですからねぇ。



 一応先に回復魔術を、気絶している女性に掛けておくことにする。外傷は引きずられた時に出来たたであろう、擦り傷以外には特に目立った傷は無いみたいでしたが、身体の中に傷があったら素人の私には判別できないからね。


「ハイ・ヒール」


 ヒールよりもワンランク上の回復魔術を使用しておく。これで外傷のみならず、内傷も完治するはずだ。


 キラキラと光る粒子が女性を包み込む。


 よしよし。破れた服から覗いていた傷も無くなり、すっかり完治したようです。後は……そうですね、そろそろ目覚めて頂きますか。




「あの~?すいませ~ん!!もっしも~し?」


 私は女性の頬を、声を掛けながら軽く叩いてみる。


 うん?起きないな。呼吸も落ち着いてるし、気絶しているだけだと思うんだけどな?


 再度私は女性の頬を軽く叩いた。


「……っ……ううっ…………うううっ………うわあぁぁぁぁぁぉぁぁぁっ!!!」


「うぎゃっ!」


 危ねっ!気絶していた女性が、いきなり叫びながら起き上がって来たので、危うく私の頭と衝突する所だったよ。



「―――ぁぁぁぁぁぁぁ…………ゴホゴホッ…………えっ?ええっ?あ、あれっ?」


 叫ぶのを止めた女性は、辺りをキョロキョロ見回した後、焦点の合っていない目で私の方を見詰めながら、ボンヤリした表情でこう言った。


「あれっ?夢?」


 ――――――――――と。



 うんうん。分かるよ。ゴブリンに拐われそうになったら、夢オチだったと思いたいよね?

 しかし他にも拐われた人が居ないか、確認せねばなるまい。


 だから私は女性に現実を告げる事にする。


「残念ながら夢じゃ無いですよ。現在ここは………どこかの森の中で、貴女はゴブリンに引きずられていたんですが、他にご一緒の方は居なかったのでしょうか?」


「…………ゴブリン……ああっ!そうだっ!た……確かに私達はゴブリンに襲われて………はっ!ニーニャと、ルチルがっ……………」


 女性はそう言うと、青ざめてガタガタ震えはじめて仕舞いました。


 どうやら他に2人の連れがいらっしゃったみたいです。私は魔法の鞄から毛布を取り出すと、震える彼女の肩にそっと掛けてあげた。

 するとそれでやっと私をちゃんと認識出来たみたいで、視線が合うなり怪訝そうにこう聞いてきた。



「ええっと…………?貴女は……誰ですか?」





引き続き迷走中です。


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