産むなら飲むな、飲むなら産むな!
誤字脱字に注意せよっ!
そんなに長い時間は叩いてなかったのに、私の呼吸は、ぜ~ぜ~言ってます。
私って貧弱っ!
私が叩くのを止めたので、ヘスさんは私を抱き上げ、まだ騒いでいるおじさん達に、ペコリと頭を下げると、その場を後にした。
少し進むと等間隔にドアがあり、そこのドアのひとつを、ヘスさんは軽くノックした。
中から、アーウィンさんの声で、「闇っ!」と聞こえて来る。
ヘスさんはその声を無視してドアを開けた。
すると、中からアーウィンさんが不満そうに口を尖らせて、「おいっ!俺が闇って言ったら、ヘスは光って言えっていつも言ってんだろうがぁ~!」と、文句をブツブツ言っていたが、私の酷い格好を見ると、お腹を抱えて笑いだした。
「ぎゃははははっ!なんっ……何で飯屋に来て、そーなんだよっ!わははははははは」
まあ…そうですね。私もご飯を食べるために来たのに、全身スープまみれになるとは、思わなかったさ。人生何が起こるか分からない。
にしても、アーウィンさんは少々笑いすぎではなかろうか?
私が不満に思っていると、アーウィンさんの笑い声がピタリと止まった。
アーウィンさんの方を見ると、ミランダさんにまたもやアイアンクローをされていた。
「あらあら~?女の子の恥ずかしい姿を見て、いつまで笑ってるのかしら~?見ない振りもできないの?」
「痛い痛い痛いっ!ちょっと落ち着け。待てっ!止めっ!ぎゃぁぁぁぁぁぁ~!!」
アーウィンさんの頭部からミシミシと、頭蓋骨の軋む音がしている。
止めて上げなくて、良いのかな?
私がオロオロしていると、ヘスさんが私の頭を撫でながら、優しくこう言った。
「いつまでもその格好じゃ、風邪引いちゃうから、そこの衝立の裏で着替えて来なよ」
「あっ…はい。でもっ…アーウィンさん……大丈夫でしょうか?」
アーウィンさんは、ビクビクと身体を震わせながら、口から泡を吹いている。
「大丈夫だよ。あの二人は昔からああだし……。幼馴染みの僕が保証するから、ね?」
そっ……そうなのだろうか?まあヘスさんが私に嘘を付く筈も無いので、そうなのだろう。
私はヘスさんにお礼を言いつつ、衝立の後ろに行き、ドロドロになった服を着替えることにした。
魔法の鞄の中に手を突っ込みながら、服をイメージすると、中から数着の服が現れる。
う~ん。地味な服を選んできたつもりであったが、何か全然普通な服じゃ無かった。
私が持ってる中では地味だったのだが、いかんせん貴族の令嬢の持つ服なだけあって、仕立ての高そうな服しかない。
ギリギリ無難そうなのが、この丈が普通より少し長い紺色のフレアワンピース位ですかね?
ボトムがフンワリしていて、可愛いし……変じゃ無いよね?
私が着替え終わって衝立の後ろから出ると、いの一番にミランダさんが可愛いと抱き締めてくれた。
ヘスさんは驚いた表情で固まっていて、アーウィンさんは床にうつ伏せで倒れていた。
「あらあらあら~!可愛いわ~!それに、このワンピース……見た目は地味だけど生地が上等ね?やっぱり貴女のお家は貴族ですわね?」
流石は元貴族……ミランダさんには直ぐにばれてしまった。
色は紺で地味な筈だったのに、そっか生地かぁ。そこは気にして無かったよ。
「あうっ…その……あの……黙ってて下さいっ!」
「あら、うふふ。心配しなくても大丈夫よ。誰かに言ったりしないわ。でも後で、町娘の格好を一式買った方が、良さそうね?ご飯を食べたら、日用品も含めて買いに行きましょうか?」
「あっ…ありがとうございますっ!!」
私がお礼を言うと、楽しそうに微笑みながらメニューを渡してくれた。
「じゃあそうと決まれば、早くご飯を済ませてしまいましょうか?私のオススメは、この日替わりモリモリランチだけど、雪トカゲのスープも、このモリモリ亭の名物だからそっちでもいいわよ?」
メニューには名前だけではよく分からない料理名も載っていたので、そこら辺はスルーして、ミランダさんオススメのランチに決めた。
「う~ん……じゃあミランダさんのオススメの、日替わりモリモリランチにします」
雪トカゲのスープは中身がどんなのか見てるし、しかも頭から被ったりしたから、もう結構ですので。
「あらそう?じゃあ、私たち二人は決まりね。ヘスはどうするの?」
ミランダさんが固まったまま微動だにしないヘスさんに、声を掛けると、ヘスさんはゆっくりと動き始め、メニューの野菜のリゾットを指差した。
「そう、それにするの。相変わらずお肉は食べないのね?」
「………うん。まあね……」
「後は……そこで伸びてる奴だけど、イノッシの丸焼きと、お酒で良いわよね?いつもここではそれしか頼まないし……」
「そうだね……それで大丈夫だと思うよ……」
そう言うと、ミランダさんはテーブルに置いてあった呼び鈴をチリンと鳴らした。しかしそんな小さな鈴の音で、呼んだことが分かるのだろうか?
若干胡散臭さい気持ちで待っていると、ドアがノックされた。あっ!聞こえたんだっ!凄いな~。
コンコンッ……。
ミランダさんが返事をすると、可愛らしい女性がドアを開けて入ってきた。
「失礼しま~す!ご注文はお決まりですっ……か……きゃあっ!!」
女性は運悪く、床にうつ伏せで倒れていたアーウィンさんに躓いてしまい、そのまま勢いよく豪快に転んでしまったのであった。
「痛たたたた………ううっ…。お尻がっ……」
私も先程同じような事をしたので、他人事では無く、倒れた女性に手を貸すべく近づいた。
「大丈夫ですかっ!?立てますか?」
私がそう聞くと、女性は顔をしかめながら、言いづらそうに小さな声で「お尻が…ちょっと……」と、言って来たので、脊髄反射的に私は直ぐに治療魔法を掛けてあげた。
「ヒール………」
私の手から淡い光が放出され、女性を包み込み、暫くすると光が消えた。
光が消えると治療完了です。
「ふあっ……凄いっ!痛くないっ!痛くないよ~!ありがとう~。ああっ!でも、私……治療してもらっても……治療代金を払える程のお金……持ってない……どっどどど……どうしようっ!!」
最初女性は嬉しそうに立ち上がると、私にお礼を言ってくれたのだが、途中で急に慌て出した。
女性が何で慌ててるのか分からないので、ヘスさんに助けを求めるように理由を聞いてみる。
「えっと?何でこの人、こんなに慌ててるの?」
ヘスさんは、えっ?知らないの?みたいなギョッとした表情をした後、理由を教えてくれた。
「何でって……。魔法治療は高いんだよ。瞬時に治るのは凄いけど、その代金も高めになってるんだよ。でも仕方が無いんだけどね?使う方も普通の攻撃魔法とかよりも、治療魔法の方が倍くらい魔力を消費するからね、それが妥当なんだ」
「ええっ?そうだったの?しっ…知らなかった」
それを聞いて、私はオロオロしている女性に安心させるように、こう言った。
「大丈夫ですよ?お金なんか取りませんし、私が勝手に治療したんですから、気にしなくてもいいんです!それに……床に転がっていたのは、こちらの落ち度ですし?」
私のそんな発言に、私以外の全員が驚いた表情をした。
あれっ?何か空気変じゃね?
自分では変な事を言ったつもりは毛頭ないんですが、何かやらかしちゃいましたかね?
今度は私の方がオロオロしちゃいますよ。
そんな私の頭を優しくヘスさんが撫で、こう言ってくれました。
「うん。そこがリエラの良いところだね?治療魔法は大変だったろうに、シュナに気を使わせないようにする為に、そう言ってくれてありがとうね」
うん?いえ、別に大変でも何でも無いですけど?
えっ?普通は大変な事なの?あの程度の事で?
私が腑に落ちない顔で、考えていると、シュナと呼ばれた女性は私の手を付かんで、上下にブンブンとふった。
「本当にどうもありがとうっ!!こんな金にがめつくない治療師さんは初めてだよっ!こんなお礼しか出来ないけど、今日の貴女のご飯代は無料にするからねっ!」
「ええっ?そんな、悪いですよ!勝手にちょっと治しただけですし……」
「ううん!嬉しかったから!私の気持ちだしっ!ねっ!いいでしょう?」
う~ん。これはシュナさん、折れそうにも無いな。
「………分かりました。御馳走になります……」
結局私が折れたよ。
「よおしっ!では注文は何にしますか?」
「えっと……私とミランダさんが日替わりモリモリランチで、ヘスさんが野菜のリゾット、アーウィンさんはイノッシの丸焼きと、お酒で………」
お酒……私も飲みたいけど……くそっ!妊娠中でさえなければ……。
しかしここはグッと我慢だ。産んだら飲もう、浴びるほどな!
産むなら飲むな、飲むなら産むなって、言うしね?
えっ?言わない?
私がお酒を我慢しているとは、勿論知らないシュナさんは、オーダーを終えると、軽やかな足取りで部屋から出ていったのであった。
リエラは魔力量が異常なので、普通の魔法使いの感覚は全くわかりません。(魔術師だしね)
流石は魔術の大家出身ですな。
これからもぶっ飛んだ事をしそうです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
まだ性懲りもなく続くと思われますので、宜しくお願いします~。




