くるちいっ!お迎えが来る!!
私はまた会えた事に嬉しくなって、ワーワー騒いでいる3人に声を掛けようと、歩き出そうとした。
――――…そう、歩き出そうとしたのだ。
しかし残念な事に私の歩みを阻む物が、目の前に物凄い破壊音を立てながら落ちてくる。
ドゴンッ!!!
それは凶悪なオーラを発した……ギルド規約であった。
恐る恐る後ろを振り返ると、満面の笑みを浮かべたリズさんと目があった。
ゴクリ……。この分厚い規約…投げたんですか?こっ…恐い。
「リエラちゃん……。まだ説明が全部終わってませんよ?今、どちらへ行こうとしていらっしゃいましたか?」
ひぃっ!どこにも行きませんっ!!
思わず私は敬礼しながら、「イエス・マム!」ってやりそうになったわ。
ガタガタブルブル…。
「あわあわ…あわわ…。どこにも…いっ行きません!!ですので、説明の続きをお願いします」
危なかった。後数センチずれていたら、私の頭にギルド規約という名の凶器がめり込んでたよ。
こんな事で死んだら、間違いなくアンデッド化する自信がある!!
墓石に、少女リエラ…ギルド規約にて儚く死亡!とか彫られる事に……うわぁ…死ぬに死ねない。
当たるか当たらないかの絶妙な投てきでしたね?
リズさん、ナイスコントロール!
それにしても手足のようにギルド規約を扱っているのみると、元々リズさんの武器だった疑惑が出てきます。受付業務で触れているだけだとは考えにくいからね。
その凶悪な武器で、幾つもの修羅場を駆け巡ったのでしょうか?
想像してみると若干マヌケッぽいな。リズさんがキリッとしていらっしゃるから、余計に規約を持ってて戦う姿って……ギャップが……ぷぷぷ…。
どうやら私が勝手なことをグダグダ考えている間にも、リズさんの説明は始まっていた模様です。
やべっ……聞いてなかった……ぞ?
「――――……これにて簡単な説明は終了になります。では、何かご質問は御座いますか?」
ううっ…。言えない。最後の方の説明を聞いてませんでしたとは、口が裂けても言えない。
私はリズさんにお礼を言いつつ、そっとギルド規約に手を伸ばしたのであった。
「リズさん、有り難う御座います……。特に質問はありませんが、説明に無かった所を自分で確認したいので、規約をお借りしますね?」
そう言ってギルド規約を持ち上げようとするが、重くて持ち上がらない。
あうっ!何!?この重量は?
おっ…重いっ……。こんなに重い物をリズさんは、片手で微笑みながら投げたというのかっ!?
凄い……。リズさんには絶対逆らわないでおこう。
それにしても…この規約ちょっと臭う様な…?
何の臭いですかね?クンクン……。
「まぁ…リエラちゃんは勤勉ですね?後、リエラちゃんなら大丈夫だと思いますが、ひとつだけ言わせて下さい。ギルド規約は貴重なので、間違っても汚したり破いたりなどは致しませんよう、取り扱いには十分に注意してくださいね?」
「はい分かりました。……じゃあ……」
リズさんの言葉に返事をしつつも、ふと疑問が頭を過る。
『取り扱いには十分に注意してくださいね?』
リズさん……貴女、先程その貴重な物を投げてませんでしたか?
いや、よそう……。そこはきっと聞いたらダメなんだろうな。
命を大事にしたいので、黙して語らずを、実践しよう。
ギルド規約を黙ったまま魔法のカバンに落下させて収納すると、私は勢いよく立ち上がりギルド内を見回しヘスさん達をさがしたが、既に影も形も無かった。
私はションボリしながらギルドを出ようとしたら、突然ギルドの扉が勢いよく開いた。
ドバンッ!!
「痛っ!」
勢いよく開いた扉に、私の顔面にクリティカルヒットしおった。
いきなり誰だよ、痛いじゃないかっ!!
相手に文句を言ってやるっ!と、思いながら入ってきた人物に視線を向けると、アーウィンさんだった。
お互いに視線を逸らせないでいると、アーウィンさんの後ろから存在をこれでもかっ!?と、主張している大きな胸が……いや、ミランダさんが入って来る。
「ちょっと!アーウィン!何で扉の前で立ち止まってるのかしら?邪魔ですわ!!」
「お……おう…ミランダ!良いところに!アイツだっ!アイツが居たぞっ!!」
アーウィンさんはミランダさんのお陰で、硬直が解けたようでしきりに私を指で指して来る。
「アイツ………?」
ミランダさんが首を傾げながらこちらを見る。
私と目が合うや否や走りよってきて、その魅惑の谷間があるボディーで抱きしめられた。
「おぶっ……」
ううっ!苦しい!でも柔らかい…けど、苦しい!!
私がジタバタもがくが緩まない。ガッデム!!
このままでは窒息死してしまう!
誰かヘルプミー!!!
しかし周りからはこんな声しか聞こえない。
「あの娘……羨ましい…」
「ミランダの胸に抱かれて、あんなに喜んでいる…羨ましい……」
「ゴクリ……俺もお願いしたいぜぇ……羨ましい」
などである。
そんなん直ぐに代わったるわいっ!!って、言いたいのに、私の口からは、
「ぐえぇぇぇぇぇ…………………」
という声しかでない。絞め殺される鳥の断末魔みたいな声。
段々意識が朦朧としてきた私に流石に周りもざわつき始める。
お迎えてしょうか?女性の手が手招きしている幻覚が見える。
後少しでその手に触れようとした瞬間、息が出来るようになった。
「ぶはっ…ゲホゲホ…オエッ……ゲホゲホ……」
一気に入ってきた酸素に、また苦しめられます。
くるちいっ!!
誰かが背中を撫でてくれてます。何だかホッとする優しい手付きです。
「ゲホゲホ…ケホッ……ケホッ…ハァハァ…」
ゼ~ゼ~いっていた喉も段々と落ち着いてきました。ふぅ…ふぅ……ふぅ~~~。
落ち着いて来たので、背中を撫でてくれている人にお礼を言おうと振り向くと、そこに居たのはヘスさんでした。
物凄く心配気な表情をしています。早く安心させてあげねばなるまい?
「……ヘス……さ…ん………も、だいじょ…ぶ…ゲホゲホ……」
震える喉からそれだけ言うのがやっとでした。
ヘスさんは分かってくれたのか、強ばっていた顔にホッとした表情を浮かべると、再度背中を優しく撫でてくれたのでした。
ミランダのオッパイもある意味凶器。
ギルド規約といい、予期せぬものが危険を孕むものです。




