市場の攻防戦と、ダメ親父の(裏)ファインプレー
休日の朝。活気あふれる街の市場で、エプロン姿の俺、12歳のテオ は、八百屋の親父さんと熱い舌戦を繰り広げていた。
「親父さん、この『月光トマト』、裏側が少し傷んで魔力が抜けかけてる。それにこっちの『マンドラゴラの根』も、採取から3日は経ってるよね。まとめて買うから、銀貨2枚と銅貨5枚にまけてよ」
「ぐっ……相変わらず容赦ねぇな、テオ坊主! 錬金術師顔負けの目利きに、商人ギルドも真っ青の交渉術だ。12歳 でその腕前、末恐ろしいぜ……持っていきな!」
「ありがとう!」
俺はBランク相当の『錬金術(目利き)』と『交渉術』 をフル活用し、最上級の食材を底値で買い叩くことに成功した。
家事全般を取り仕切る 俺にとって、この程度のマルチタスクは朝飯前だ。
「テオー! 見てくれ、すごい掘り出し物を見つけたぞ!」
背後から呑気な声が聞こえ、振り返ると、我が家のダメ親父・ベルン が、満面の笑みで錆びついた一本の包丁を握りしめていた。
「……お父さん。またガラクタ商人から変なもの買わされたの?」
「失礼な! これは『伝説の料理人が使っていた、絶対に切れ味が落ちない包丁』だって言ってたぞ! 銅貨10枚もしたんだからな!」
俺は深くため息をついた。
怪しい儲け話にすぐ飛びつくダメ男。それが、世間が(そして俺たち家族が)認識している父さんの姿だ。
どう見てもただの赤錆だらけのナマクラで、とてもじゃないが野菜一つ切れそうにない。
「はいはい。とりあえず家に帰って、俺が研ぎ直してみるよ。まったく、お父さんは俺がいないとダメなんだから」
「はははっ、テオには敵わないなぁ」
父さんは愛嬌のあるタレ目をさらに下げて、俺の頭を撫でた。
(……ふふっ。テオのやつ、呆れた顔をしとるな)
俺、ベルン は、前を歩く息子の背中を見ながら密かに笑みをこぼした。
俺がひた隠しにしている国一の鑑定スキル『森羅万象の神眼』。その眼には、先ほど銅貨10枚で買い叩いた錆びた包丁の真の姿がハッキリと映し出されていた。
【料理神の宝丁:神話級アーティファクト。食材の旨味と魔力を極限まで引き出し、使用者の疲労をゼロにする。ただし、Bランク以上の鍛冶スキルを持つ者でないと本来の姿に修復できない】
俺がどれだけ神話級のアイテムを見つけてきても、それを使いこなせる者がいなければただのガラクタだ。
しかし、うちの「器用貧乏」 な天才息子なら、きっとこの包丁の真価を見事に引き出してくれるだろう。
森の奥にあるプール付きの実家 に帰り、俺は裏庭の工房にこもった。
「ふぅ……こんなもんかな」
Bランク相当の『鍛冶スキル』と『付与魔術』 を駆使し、父さんが買ってきた錆びた包丁を修復する。
研ぎ汁を洗い流した瞬間、包丁から眩い光が溢れ出した。刀身は鏡のように輝き、微かな魔力のオーラを纏っている。
「なんだこれ……!? 大根を切っただけで、細胞が一切潰れてない……!」
試し切りをした俺は、戦慄した。こんな恐ろしい包丁、王宮の料理長でも持っていないはずだ。
「おーいテオ、夕飯はまだかー? 姉ちゃんたちももうすぐギルドから帰ってくるぞー」
リビングから聞こえる父さんの呑気な声に、俺は首を傾げる。
「……お父さん、騙されてばっかりだけど、たまにとんでもない豪運を発揮するんだよな」
俺は苦笑しながらも、その神話級の包丁を使って、今日も家族のために極上の夕食を作るのだった。




