【シルヴィア視点】深森の魔女と、受け継がれる規格外
「……レオン。上空の使い魔たちからの索敵と、被害状況の解析が終わったわ。相変わらず、頭が痛くなる光景ね」
完全に放心状態で座り込むAランクの男たちを哀れな目で見下ろしながら、私はため息をついた。
私の名はシルヴィア。この国に3つしかないSランクパーティー『暁の特務陣』の参謀を務める魔術師だ。
上空を旋回する数十羽の使い魔の視覚を通して、森の惨状が脳内に流れ込んでくる。
地形ごと抉り取られたような傷跡と、粉々に砕け散ったオーガの残骸。
「全く……。冒険者の中で一番の魔力を持つと謳われる私の『絶炎魔術』でも、ここまでデタラメな地形破壊は起きないわよ。あの子たち、エレナの形見の出力をまた上げたわね」
私は呆れながら、ふと、かつてこの森で起きた出来事を思い出していた。
――あれはもう、十数年前のこと。
当時の私は、誰ともパーティーを組まず、森の奥深くで一人、魔術の研究に没頭していた。
圧倒的な魔力と知識を持っていた私は、凡人ばかりの街の冒険者たちを見下し、『深森の魔女』として恐れられていた。
そんな私の前に、土足でズカズカと踏み込んできたのが、若き日のSランク冒険者、エレナだった。
『おい魔女! こんな森の奥に引きこもってないで、街のギルドに来いよ! あんたのその索敵魔法、うちの討伐作戦にどうしても必要なんだ!』
『……帰れ、野蛮な剣士。私の高貴な魔術を、血生臭い魔物狩りに使う気はないわ。大体、私の方があなたよりずっと強いのだから』
私はエレナを一方的にライバル視していた。物理で全てを解決する彼女の粗野な戦い方が、理性を尊ぶ魔術師としてどうしても許せなかったのだ。
私は彼女を追い払うため、持てる最大の魔力で超級魔術を放った。山を一つ消し飛ばすほどの、絶対の自信作。
しかし、エレナは笑っていた。
『ははっ! いい魔力だ、合格!』
彼女はただ一振り、剣を振るった。それだけで私の超級魔術は「物理的に」両断され、霧散してしまったのだ。
『な、何よそれ……理不尽すぎる……!』
『あんた、魔力は凄いけど体力が全然ないな。顔色も真っ青だ。……よし、街で美味い肉を食わせてやる!』
『は? ちょっ、やめなさい、引きずらないで……っ!』
結局、私は彼女の底抜けの明るさと理不尽な暴力に引きずられるようにして街に戻り……気づけばギルドに居着いて、レオンたちと共に彼女の無茶苦茶な特訓を受ける羽目になっていた。
「……シルヴィア? おい、聞いてるか?」
「ええ、聞いているわよ、レオン」
回想から引き戻され、私は目の前のAランクの男たちに冷たい視線を向けた。
「あなたたち、本当に運が良かったわね。あの子たちが振るっていたあの異常な力は、常人には絶対に扱えない国宝級のアーティファクトによるものよ。本来なら、あの剣の柄を握っただけで魔力酔いで泡を吹き、あのガントレットをはめただけで腕が粉砕されるわ」
男たちが「ヒッ」と息を呑む。
「でも、あの子たちは平気な顔でそれを振り回している。……なぜだか分かる? あの規格外の魔力耐性と身体能力は、俺たちSランクが束になっても敵わない『伝説』……エレナから完全に遺伝しているからよ」
私は使い魔たちを帰還させながら、森の奥――双子たちが愛する家族が待つ家へ向かって嵐のように去っていった方向を見つめた。
かつて私を力ずくで日の当たる場所へ引っ張り出した、あの理不尽で眩しいエレナ。彼女が残した二人の娘たちは、あの頃の彼女にそっくりだった。
(それに……気のせいかしら。あの子たちの実家の方角から、時々、私以上の底知れない魔力の揺らぎを感じるのよね……ただの気のせいだといいけれど)
私は8歳のミラの存在など知る由もなく、小さく身震いをしてから「さあ、残りの後始末をパパッと終わらせるわよ!」と部隊に指示を出した。
エレナが愛したこの森の平和は、私たち大人がしっかり守らなければならないのだから。




