圧倒的無双と、Aランクの勘違い
森の奥深く。木々がなぎ倒され、地鳴りのような咆哮が響き渡る中、3人の男たちが泥だらけになって逃げ惑っていた。
ギルドで私たちを「Bランクの貧乏姉妹」と嘲笑っていた、見知らぬAランクパーティーの男たちだ。
「くそっ! ギルドの依頼書には、ただのオーガ討伐としか書かれてなかったぞ!」
「なんでこんな数がいるんだよ! しかも上位種まで混ざってやがる!」
彼らは不運だった。レオンのおじさんたちSランクパーティーが独自のネットワークでいち早く察知していた『オーガの狂暴化』に、何も知らずに巻き込まれてしまったのだ。
背後から迫る数十頭のオーガの群れ。ついに男たちの一人が木の根につまずいて転倒し、巨大な棍棒を振り上げたハイ・オーガの影が彼らを覆い尽くした。
「ひっ……!」
男たちが絶望に目を閉じた、その瞬間。
「シッ!」
鋭い呼気と共に、銀色の閃光が森を駆け抜けた。
轟音。そして、遅れてやってきた凄まじい衝撃波が、男たちの頭上の空間を『真っ二つ』に切り裂いた。
「……え?」
男たちが恐る恐る目を開けると、先ほどまで彼らを追い詰めていた巨大なハイ・オーガが、持っていた棍棒ごと綺麗な断面で両断され、ズシンと地に伏せるところだった。
「ふぅ。間一髪だったね。……あれ、お姉ちゃん、この人たち」
「あ、今日の朝ギルドにいたAランクのお兄さんたちだね」
木の上から軽やかに飛び降りてきたのは、小柄な双子の少女。使い込まれた長剣を提げた姉のリーゼと、鉄のガントレットをはめた妹のロッテだ。
「お、お前らは……Bランクの貧乏姉妹!? なんでこんなところに!」
男の一人が震える声で叫ぶ。
「なんでって、私たちはこのオーガの群れの討伐依頼で来たんだけど」
「ていうか、Aランクのお兄さんたちこそ、こんなところで何してるの? 一週間くらいドラゴンの巣に潜るんじゃなかったの?」
ロッテが無邪気に(そして一切の悪気なく)首を傾げると、男たちは顔を真っ赤にして口ごもった。
「グオオオオオッ!!」
同胞を倒され激昂した残りのオーガたちが、一斉に双子に向かって襲い掛かる。
「あ、危ない! 逃げろお前ら! その数はBランクがどうにかなる相手じゃ――」
「ロッテ、右の群れお願い! 私、左を片付けるから!」
「オッケー! テオの作ってくれるご飯に遅れないように、サクッと終わらせよっ!」
次の瞬間、Aランクの男たちは信じられない光景を目にすることになる。
リーゼが粗末に見える長剣を振るうたび、莫大な魔力が刃から溢れ出し、地形を変えるほどの剣圧となって数十体のオーガをまとめて吹き飛ばしていく。
ロッテが鉄のガントレットを構えて大地を蹴れば、その踏み込みだけで地面がクレーターのように陥没し、拳の風圧だけで分厚い魔物の装甲が紙屑のように弾け飛んだ。
それらは、常人には絶対に扱えない国宝級のアーティファクトが放つ規格外の破壊力だ。しかし、母から受け継いだ才能を持つ双子たちは、まるでただの棒切れを振り回すように軽々と魔物の群れを蹂躙していく。
「な、なんだよ、あれ……」
「あんなデタラメな強さ、俺たちAランクでも見たことねぇぞ……ッ!」
腰を抜かした男たちの前で、約50体いたオーガの群れは、わずか数分で全滅してしまった。
「よし、終わり! さっさと素材の回収しちゃお!」
「うんっ! 換金してお肉買わないとね!」
双子たちは男たちには目もくれず、手際よくオーガの角や魔石を回収していく。そして「お先でーす!」と元気に手を振り、愛する家族が待つ家へ向かって嵐のように去っていった。
数十分後。
撃ち漏らしの掃討と調査にやってきたレオン率いるSランクパーティー『暁の特務陣』は、オーガの死体の山に囲まれながら、完全に放心状態で座り込むAランクの男たちを発見した。
「……おや? あんたたち、見かけない顔だがAランクパーティーだな。こんなところで何をしている」
レオンが声をかけると、男たちはガタガタと震えながらレオンの胸倉にすがりついた。
「あ、あんたたちSランクだろ!? ギルドに、ギルドに報告してくれ! この森にはバケモノがいる! Bランクのフリをした、頭のおかしいバケモノ姉妹が……!!」
その言葉を聞いたレオンは、双子が残した戦闘の痕跡である地形ごと抉り取られたような傷跡や、粉々に砕け散ったオーガの残骸を見て、全てを察したように深くため息をついた。
「……あいつら、また加減を忘れやがったな。エレナ師匠の形見の威力をフルで引き出しやがって」
「え? あんた、あの姉妹を知ってるのか!?」
「ああ。あいつらは、俺たちSランクが束になっても敵わない『伝説』の娘たちだ」
レオンは哀れなAランク冒険者たちの肩をポンと叩き、ニヤリと笑った。
「命があっただけ拾い物だったな、あんたたち。これからは、ギルドで人を身なりやランクだけで判断しないことだ」
Aランクの男たちはその日、冒険者としてのプライドを完全に粉砕され、二度と双子に逆らうまいと固く心に誓うのだった。




