盤石なるSランクと、母の教え子たち
私たちがギルドの扉を開けようとした瞬間、外から入ってきた大集団と鉢合わせになった。
「おお、リーゼにロッテじゃないか。今日も精が出るな」
先頭を歩いていた、歴戦の傷跡が刻まれた大柄な男が気さくに声をかけてくる。
彼の名はレオン。数十名規模の巨大クランにして、この国に3つしかないSランクパーティー『暁の特務陣』を束ねるリーダーだ。
「レオンのおじさん、こんにちは! 今から森の奥のオーガ討伐?」
「ああ、そうだ。お前たちも行くのか?」
私たちはBランク冒険者として登録されているが、レオンのおじさんは私たちを一切見下したりしない。
それもそのはず。実はこの『暁の特務陣』の初期メンバーたちは皆、数年前に他界したSランク冒険者のお母さん、エレナに、昔みっちりと(それはもう地獄のように)しごき抜かれた弟子たちなのだ。
「オーガの狂暴化だろう? うちの斥候部隊と独自の魔法通信網で、昨日の夜には正確な規模と進軍ルートを割り出している。数は約50、厄介な上位種も3体混ざっているな」
レオンのおじさんが分厚い資料の束を叩く。
彼らSランクパーティーの真の強さは、個人の武力ではない。この圧倒的な人数と、国境を越える独自のネットワーク網、そして蓄積された膨大な知識量だ。
純粋な「単体での戦闘力」だけを比較すれば、お母さん譲りの才能を持つ私たち双子の方が少しだけ上かもしれない。だが、冒険者としての総合的な解決能力や、絶対に死人を出さない盤石な組織力において、彼らは間違いなく最高峰のSランクだった。
「お前たち2人だけでも、あのオーガの群れを全滅させるポテンシャルがあるのは分かっている。……だが、エレナ師匠の娘に万が一のことがあれば、俺たちはあの世で師匠に殺されちまうからな」
「あはは……お母さんの特訓、そんなにトラウマなの?」
「思い出すだけで胃が痛む。一週間、素手でワイバーンの巣に放り込まれた時の絶望感と言ったら……」
後ろに控えていたベテラン冒険者たちも、お母さんの名前が出た途端、一斉に青ざめてブルブルと震え出した。どれだけ無茶な鍛え方をしたんだ、お母さん。
「というわけでだ。今日の依頼、俺たちと一緒に来ないか? 前衛の突破力としては、お前たちの剣と拳は喉から手が出るほど欲しい。報酬も弾むぞ」
レオンのおじさんの提案に、ロッテと顔を見合わせる。
Sランクパーティーとの合同任務。普通なら喜んで飛びつく話だ。でも、私たちは申し訳なさそうに両手を合わせた。
「ごめんね、おじさん。私たち、大所帯での連携って苦手だし……」
「それに、早く終わらせて帰らないと、テオの作ってくれるご飯に間に合わなくなっちゃうから!」
私たちの答えに、レオンのおじさんは呆れたように、しかしどこか嬉しそうに豪快な笑い声を上げた。
「はっはっは! 違いねぇ、お前たちに集団行動は窮屈すぎるか! しかも理由が『家族の飯』とはな。……エレナ師匠も昔、討伐の途中で『旦那が特売の卵を買い間違えそうだから』って、俺たちを置いて帰っちまったことがあったっけな」
「「お母さん……(お父さん……)」」
私たち双子は、呆れを通り越して遠い目になった。ダメ親父のせいで、お母さんは昔からそんな感じだったらしい。
「よし、分かった。じゃあ俺たちは、お前たちが撃ち漏らした分の掃討と、森の被害状況の調査に回るとしよう。くれぐれも無茶はするなよ、リーゼ、ロッテ」
「うん! ありがとう、レオンのおじさん!」
私たちはSランクの大人たちに見送られながら、ギルドを後にした。
知識と組織力で戦う立派な大人たちの背中もかっこいいけれど、私たちは私たちのやり方で、今日の夕飯のために魔物を物理で粉砕するのだ。




