第二章:万能弟の日常と、胃袋を掴む魔法
僕の名前はテオ。12歳。
伝説のSランク冒険者だったお母さん(エレナ)と、HPが3しかないダメ親父のお父さん(ベルン)。そして、山を一振りでサイコロ切りにする16歳の双子の姉、宇宙に人工衛星を打ち上げる8歳の妹と一緒に暮らしている。
僕の仕事は、冒険者としてモンスターを倒すことではない。
この「歩く世界崩壊スイッチ」みたいな家族が、今日も元気に、そして無事に一日を過ごせるように家事全般をこなすことだ。
「……ふぅ。今日の朝ご飯は、焼きたてのパンと、魔王領から届いた新鮮なアバロ・トマトのスープにしようかな」
朝六時。僕はエプロンを締めると、厨房で完璧な魔力循環を開始する。
僕の魔力(MP75,000)は戦闘用ではない。火加減をコンマ一秒単位で調整し、野菜の旨味を極限まで引き出し、パン生地の醗酵を最適化するための「究極家事魔術」だ。
ドゴォォォォンッ!!
庭から、早朝トレーニング中の双子のお姉ちゃんたちが地面を爆破する音が聞こえてきた。
「ちょっとロッテ! 踏み込みが甘い! 剣圧で雲を切るつもりで打ち込んできて!」
「お姉ちゃんこそ! ガントレットの衝撃波で大気圏を揺らす勢いできてよ!」
朝から実質物理火力9万越えの応酬だ。ほっておくと浮遊島の庭が崩落して下界に落ちてしまう。
「お姉ちゃんたちー! 朝ご飯できたよー! 今日のパン、焼き立てだよー!」
僕が厨房の窓から叫ぶと、シュバッ!!と音がして、二人が音速を超えた速度で食卓に着席した。
「食べる!!」
「テオのご飯食べるー!」
どんなに強い魔物も、お姉ちゃんたちを止めることはできないけれど、僕の出来立てのパンなら一発で鎮圧できる。これが我が家の絶対ルールだ。
「やあ、テオ君。おはよう……」
あくびをしながらリビングに降りてきたのはお父さんだ。
「お父さん、おはよう。はい、お水。昨日もお酒飲みすぎてたでしょ」
「うう、持つべきものは気が利く息子だなあ……」
お父さんはHP3のくせに、昨日もギルドで怪しい骨董品を買おうとしてお姉ちゃんたちに叱られていた。でも、お父さんの『神眼』と凄まじい『運』がなければ、僕たちはきっと出会えていなかったし、お母さんとも巡り合えていなかった。ダメ親父だけど、やっぱり大好きな父親だ。
「……テオ、お腹空いた」
最後に、自作の魔導スマホを抱えたミラがトコトコと歩いてきた。
「はいはい、ミラちゃんにはホットミルクね。今日はどんな研究をしてたの?」
「魔王領との無料通話回線の帯域調整。あと、ヴェルフェンのおじさんの胃薬の定期注文」
「あはは、副団長さん、また胃を痛めてるんだね……後で僕特製のハーブティーも送っておくね」
朝食が終わると、僕の「サポート」の仕事が始まる。
今日はお姉ちゃんたちがギルドでAランク討伐の依頼を受けるらしいので、僕は特製の「お弁当」と、事前に魔力を練り込んだ「補助お守り」を渡す。
「はい、お姉ちゃん。お弁当は特大カルビサンドね。あと、このお守りには僕のバフ魔術を込めておいたから、万が一の時は割ってね」
「ありがとうテオ! 正直、テオのバフがかかると体のキレがいつもの3倍になるからすっごく助かるんだよね!」
「いってきまーす!」
元気に飛び出していく双子のお姉ちゃんたち。
僕のバフ(疑似Sランク支援)がかかったあのお姉ちゃんたちが本気を出したら、たぶんAランク魔物なんて息をする暇もなく消滅すると思うけれど……まあ、怪我をするよりはいいよね。
二人が出かけた後、僕は洗濯物を干しながら、ふと青空を見上げた。
お母さんが死んじゃってから、最初はすごく寂しかったし、不安だった。
でも、お父さんがいて、お姉ちゃんたちがいて、ミラがいて、みんなでご飯を食べて笑っていると、ここが世界で一番温かい場所に思える。
「さてと、今日のお夕飯は、お母さんが大好きだったハンバーグにしようかな」
12歳の万能主夫・テオの、忙しくて幸せな一日は、今日も美味しく、平和に過ぎていくのだった。




