万能少年の特訓と、間違った覚醒
「――テオ君。君の『完璧な魔力循環』と『予測能力』は、戦闘に使えば恐ろしい武器になる。今日は自衛のためにも、俺たちが少し手ほどきをしてあげよう」
晴れ渡る浮遊島の庭。
そこに集まったのは、王国副団長ヴェルフェンさん、総団長セリアさん、そして8歳の妹・ミラの三人だった。
お姉ちゃんたち(双子)が出撃している間、僕の「サポート能力向上と自衛」という名目で、豪華すぎる講師陣による特訓が始まることになったのだ。
「よろしくお願いします! 僕、料理以外で魔力を使うのってあんまり慣れてなくて……」
「大丈夫よ、テオ君! 力を抜いて、私やヴェルフェンさんの動きをじっくり見てね!」
セリアさんがニコリと笑う。
まずは第一関門、ヴェルフェンさんによる『基礎武術と魔力制御』だ。
「いいかテオ君。剣術の極意とは、無駄な魔力を一切削ぎ落とし、最短軌道で打つことだ。例えば……こうだ」
ヴェルフェンさんが木剣を振るう。素の物理ステータス38,000から繰り出される、完璧で洗練された一閃。残像すら残らない美しい軌道だ。
「……なるほど。お肉を均等に三等分する時の包丁の入れ方と同じですね」
「えっ? あ、まあ……概念的には近い……のか……?」
僕がエプロンから木製の包丁を取り出し、ヴェルフェンさんの動きを真似てサッと振ってみる。
僕の持つスキル『完璧な魔力循環』と、MP75,000の超高密度魔力が自動で連動した。
シュンッ!
「――っ!?」
ヴェルフェンさんの目が丸くなった。
僕が振った木包丁の先から、一切の魔力漏れ(ロス)がない、完全に研ぎ澄まされた透明な衝撃波が飛び出し、遠くの訓練用標的をミリ単位の精度で綺麗に三等分したのだ。
「えっ……? 今の、魔力効率100%の無駄なし斬撃……? 俺が20年かけて会得した領域なんだが……?」
「すごいですヴェルフェンさん! 包丁の刃筋を意識したら、お肉を切るみたいに空気が切れました!」
「う、うん……君の感覚はどうなっているんだ……?」
ヴェルフェンさんが早くも遠い目をし始めた。
続いて第二関門、セリアさんによる『対人・神速回避』。
「次は私ね! テオ君、私の打ち込みを避けてみて! 敏捷性の差は、魔力による『未来予測』で補うのよ!」
敏捷性99,999(カンスト)を誇る人類最強のセリアさんが、木剣を手に構える。
次の瞬間、彼女の姿が視界から完全に消えた。音すら置き去りにする神速の踏み込み。
普通なら反応すらできずに終わる。だけど――
(セリアさんの踏み込みの風圧、足元の魔力の流れ……スープが煮立つ時の気泡の動きと一緒だ。次に泡が弾ける場所は――左!)
僕の頭の中で、料理の経験則と魔力循環が勝手に高速演算を始めた。
スッ。
僕が半歩だけ身体を傾けると、僕の目と鼻の先を、セリアさんの木剣がすれ違っていった。
「「「…………」」」
庭にいた全員が凍りついた。
「え……? い、今、私の神速を……完全に見切って、最小限の動きで避けた……?」
セリアさんが信じられないものを見る目で自分の手を見つめている。
「あ、すみません! パンが焼き上がる直前の『一番美味しいタイミング』を見極める時の癖で、相手が一番隙を見せる瞬間に体が勝手に動いちゃって……」
「パンの焼き上がりと私の神速を一緒にしないで……!?」
そして最終関門、ミラによる『複合魔法の構築』。
「テオ、最後は魔法。私の計算した理論を、テオのMPで撃ってみて」
ミラが自作の魔導スマホを操作し、空中に幾重もの多層魔法陣(複合ホログラム)を浮かび上がらせた。
「これは、空間を三層に折り畳んで圧縮し、広範囲を無音で消滅させる『特製消滅弾』」
「ちょっと待てミラちゃん!? それをテオ君に撃たせる気か!?」ヴェルフェンさんが悲鳴を上げる。
「大丈夫だよ、ヴェルフェンさん。火加減の調整なら任せてください」
僕は75,000のMPを魔法陣に流し込んだ。
料理で言えば「強火で一気に炒めつつ、隠し味に手作りのバフ(疑似Sランク支援)をほんのり効かせる」イメージだ。
僕が調整した魔力を注ぎ込むと、ミラの描いた禍々しい消滅陣が、ふっと柔らかい桃色の光に変化した。
「えいっ」
僕が指先を弾くと、光の弾が飛び出し、庭の奥にある巨大な岩山に着弾した。
ドカン!……とはならず。
ジュワァァァァン……ッ!
岩山は爆発することなく、まるで「蒸し器で限界まで柔らかく煮込まれた角煮」のようにトロトロの液体状になり、そのまま跡形もなく蒸発して消え去った。
衝撃波も、周囲への被害もゼロ。完全に熱量と威力を『密閉調理』した完璧な消滅魔法だ。
「……すごーい。威力を全部内側に閉じ込めて、外への被害を完璧にゼロにしてる。テオ、魔法のシェフだね」
ミラが満足そうに頷く。
一方、ヴェルフェンさんとセリアさんは、腰を抜かしてへたり込んでいた。
「……完璧な魔力ロスゼロの攻撃……神速を見切る絶対回避……そして、被害ゼロで広範囲を消滅させる魔法……」
ヴェルフェンさんはブルブルと震える手で、ポケットから本日二錠目となる強力胃薬を取り出し、ボリボリと噛み砕いた。
「……セリア。俺たちは今まで……とんでもない『裏の怪物』を見落としていたのかもしれない……」
「ええ……テオ君が本気で戦ったら、味方を疑似Sランクに強化しながら、自分は無傷で敵を調理【消滅】してしまうわ……」
「? 二人とも、どうしたんですか? お腹空いちゃいました?」
僕が首を傾げると、二人の最強騎士は声を揃えて叫んだのだった。
「「お願いだから、テオ君は一生厨房から出ないでぇぇぇ散々だぁぁぁ!!」」
こうして、僕の自衛のための特訓は、講師陣(王国最高峰)に絶望とトラウマを植え付ける形で、無事に(?)終了したのだった。




