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伝説のSランク冒険者だった母が残した双子の娘、ダメ親父を養うために今日も森で無双しています  作者: 沼口ちるの


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バケモノたちの茶話会と、魔王のトマト

「よお、魔王ちゃん! 久しぶりだな。相変わらずトマト作りに精を出してるか?」

「ははは、ベルン殿! お久しぶりだ。おかげさまで今年の『魔王領特製アバロ・トマト』は最高の出来栄えでな。ぜひエレナの子供たちにも食べてもらおうと、こうして直々に足を運んだのだよ」

上空に浮かぶベルン家の広々とした庭。

そこには、全ステータス10万を超える世界の最高峰、魔王軍のトップである『魔王』が、まるで近所のおじさんのように気さくな笑顔で、獲れたての真っ赤なトマトが詰まったカゴを抱えて立っていた。

かつてエレナに「戦争なんかしてないで畑を耕しなさい」と諭されて以来、すっかり家庭的な内政派になった魔王は、ベルンとは「良きパパ友」のような空気感で話し込んでいる。

しかし、その周囲の空気は、アトリエシリーズ風ののどかな庭園にあるまじき、空間がピキピキと軋むほどの超弩級のプレッシャーに包まれていた。

「……お久しぶりですね、魔王陛下。それに――そちらが噂に聞く、魔王軍の『参謀』ですか」

ベルン一家の護衛(という名のご飯おねだり)として同席していた王国騎士団長・セリア(23歳)が、腰の双剣に手をかけながら、冷徹な笑みを浮かべて前に出る。

彼女の敏捷性はカンスト値の99,999。正真正銘の人類最強だ。

「ええ、初めまして、人間の最高戦力(騎士団長)。私が魔王軍の参謀、クロウです。以後お見知り置きを」

魔王の背後に控える、モノクルの奥の瞳を妖しく光らせた黒髪の青年――参謀クロウが、優雅に一礼する。

セリアの放つ、触れただけで分子結合すら切り裂く神速の気配に対し、参謀クロウは一切動じることなく、周囲の影を無尽蔵に蠢かせていた。

純粋な物理速度の極地であるセリアと、影や空間を操る超精密魔術の極地である参謀。戦いのベクトルは違えど、実力は完全に拮抗する二人のバケモノが視線を交わした瞬間、庭の草木が一斉に静まり返った。

一方、その少し後ろでは。

「ふん、お前たちが噂の双子か。人間の小娘にしては、いい筋肉フィジカルをしているな」

「へえー、あんたたちが右王と左王? なんだかめちゃくちゃ強そうなオーラが出てるね!」

魔王の絶対的な側近である二人の武人――通称『右王』と『左王』が、腕を組んでリーゼとロッテの前に立ち塞がっていた。

彼らのステータスは、双子の合計ステータス(素3.5万〜4万+形見5万=8.5万〜9万)と完全に同格。

一撃で山を更地にする拳と剣を持つ魔族の頂点と、一振りで大峡谷を作る人間の双子。

「「「「…………」」」」

お互いに一歩も退かぬまま、静かに睨み合う右王・左王、そしてリーゼ・ロッテ。

……が、そこは脳筋同士。

「お前、いいガントレットを使っているな」

「でしょー! これ、お母さんの形見! あんたのその大剣も、すっごく硬そう!」

「フッ、気に入った。今度どちらの物理火力が上か、大陸の端っこで殴り合ってみるか?」

「いいね! やろうやろう!」

わずか10秒で、破壊の約束を交わしながら意気投合していた。

(※その絶望的な魔力衝突の余波を、王都の執務室にある『国境監視用の魔導水晶』越しに見ていたヴェルフェン副団長が、「あいつら、また大陸の形を変える気か……ッ!」と激しい胃痛に襲われているのは言うまでもない)。

「――皆さま、お話中失礼します。魔王陛下が持ってきてくださったトマトを使って、冷製パスタとブルスケッタを作りました。麦茶も淹れたので、どうぞ召し上がってください」

そんな一触即発(一部脳筋)の庭に、エプロン姿の12歳の弟・テオが、にこやかに料理の乗った大きなトレイを運んできた。

「おお! テオ君の料理か! これが楽しみでな!」

魔王が嬉しそうに席に着くと、参謀も右王も左王も、そしてセリアも、一斉に殺気を消してテーブルに群がった。バケモノたちを動かすのは、いつだってテオの神がかった料理である。

「……美味い! このトマトの酸味を、極限まで引き出す魔力循環の火加減……素晴らしいな!」

「人間の子供が作ったとは思えんクオリティだ……!」

魔王軍の幹部たちが絶賛してパスタを頬張る。

「ねえ、魔王」

そんな中、テーブルの端でフォークを動かしていた8歳の天才幼女・ミラが、自作の魔導スマホから目を離さずにポツリと言った。

「その頭に生えてる立派な角、超高密度の魔力伝導体でしょ。空間転移のパスを安定させる触媒にしたいから、ちょっと削ってくれない?」

「……ミラ、初対面の魔王陛下にバチ当たりなこと言うんじゃない。HP3の俺を今すぐ気絶させる気か」

ベルンが慌てて娘の頭を小突く。

(この様子だけは、ベルンの『森羅万象の神眼』が魔王の角の希少性を正確に弾き出していたため、即座にツッコミが間に合った)。

「かっかっか! 構わんよベルン殿。エレナの末娘なら、これくらい肝が据わっていなくてはな!」

魔王は豪快に笑い、ミラを見つめた。

「ミラちゃんと言ったかな。お前がその『すまほ』という面白い玩具(魔道具)で、我が魔王領と王国の間に『無料通話回線』を繋いでくれるなら、角の破片くらい、いくらでも提供しようじゃないか!」

「……本当? じゃあ、明日までに通信衛星もう一個打ち上げて回線繋ぐ。取引成立」

世界最高峰の魔王の角が、スマホの通信エリア拡大のためにあっさりと取引されてしまった。

人類最強のセリア、それと同格の参謀クロウ。

実質攻撃力9万超えの双子と、それに匹敵する右王・左王。

そして、その頂点に立つ全ステ10万超えの魔王。

世界のパワーバランスを牛耳るような規格外の面々が、12歳の少年の作るパスタに舌鼓を打ち、8歳の幼女と電波の交渉をする――。

亡き無敵の母・エレナが遺した奇妙な縁は、魔王軍の幹部たちをも完全にアットホームな日常へと巻き込み、今日も平和で騒がしいベルン家の1日が過ぎていくのであった。

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