表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説のSランク冒険者だった母が残した双子の娘、ダメ親父を養うために今日も森で無双しています  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/56

王都武闘大会と、副団長の執念

年に一度、王都の巨大コロシアムで開催される『王国武闘大会』。

国中の猛者たちが己の腕を競い合うこの大舞台だが、今年の「特等・来賓席」には、いつもとは違う異様な顔ぶれが並んでいた。

「むーっ! なんで私たちが参加しちゃダメなの!」

「そうだよ! お肉の屋台、いっぱい出てるのに!」

豪華な来賓席のふかふかなソファで、双子のリーゼとロッテが頬を膨らませている。

その隣で、王国最強の騎士団長・セリアが、テオの作った豪華なお重弁当をつまみながら優雅に微笑んだ。

「ダメよ、リーゼ、ロッテ。あなたたちが出場したら、一回戦でこの歴史あるコロシアムが『更地』になっちゃうでしょ。ミラちゃんもよ。魔法で会場ごと異次元に飛ばしたりしないの」

「ちぇー。お父さんのスマホでゲームしてよっと」

8歳の天才幼女・ミラは早々に興味を失い、自作の魔導スマホをポチポチとタップし始めた。

当然である。現存人類最強のセリア、地形を変える双子、山を消し飛ばすミラ。このバケモノたちが大会に出場すれば、それは武闘大会ではなく「災害級の公開処刑」になってしまうからだ。

(※ちなみにベルンは「HP3」なので出れば即死するし、テオは「お弁当係」としてみんなに麦茶を配るのに忙しい)。

「――さあ! 激戦を勝ち抜いた二名が、ついに決勝戦の舞台へ上がります!」

実況の声が響き渡り、コロシアムの大歓声が揺れる。

闘技場の中央に現れたのは、ボロボロになりながらも鋭い眼光を保つ、我らが王国騎士団副団長・ヴェルフェン(33歳)だった。

「おお! ヴェルフェンのおじさん、決勝まで行ったんだね!」

「なんだかいつもより目が血走ってるけど、どうしたのかな?」

双子が身を乗り出す。

ベルンが『森羅万象の神眼』を軽く発動させ、タレ目を下げて笑った。

「あいつ、無理もないさ。今回の優勝賞品は『金貨100枚』と……『神仙の胃薬(伝説の薬草)一年分』、そして『一ヶ月の絶対有給休暇』だからな」

「……なるほど。あのおじさんにとって、命を懸ける価値があるわけね」

シルヴィア(38歳・来賓席に同席)が深く納得して頷いた。

しかし、そのヴェルフェンの前に立ち塞がる「対戦相手」は、誰の予想も裏切る異質な存在だった。

「ふわぁ……。決勝戦かぁ。帰って寝たいなぁ」

あくびをしながら木刀を肩に担いでいるのは、ボサボサ頭にヨレヨレの道着を着た、20代半ばの気の抜けた青年だった。

彼の名はジン。辺境からふらりとやってきた無名の流浪剣士だ。

「あれが、今回のダークホースね」

セリアが少しだけ目を細める。

「無名だけど、予選からここまで、相手の攻撃を一度も『受けて』いないわ。全て紙一重でかわして、急所を軽く打って気絶させてる。……厄介な相手よ」

ベルンの神眼にも、ジンの異常なステータスが映っていた。

【ジン:物理攻撃力500/敏捷性・回避力15,000/スキル『柳の剣理』】

「行くぞ……! 俺は、俺の有給やすみのためにィィッ!」

試合開始の合図と共に、ヴェルフェンが地を蹴った。

洗練された騎士の剣術。無駄のない踏み込みからの、重く鋭い一撃。

「っと、危ない危ない」

しかしジンは、まるで風に揺れる柳のように、ヴェルフェンの剛剣をスルスルと回避していく。剣と剣が交わることすらない。

「くそっ! ちょこまかと……!」

「おじさん、力みすぎだよ! 肩の力を抜いて!」

「……ふぁ」

ジンが欠伸をした隙に、木刀が蛇のようにしなり、ヴェルフェンの小手をピシャリと叩いた。ダメージは少ないが、確実に関節の動きを鈍らせていく、いやらしい戦法だ。

「おじさーん! 剣が当たらないなら、地面を『ドカン!』ってやって、足場ごと上空に吹き飛ばしちゃえばいいんだよ!」

「そうそう! そのあと落ちてきたところを『バコーン!』だよ!」

来賓席から、双子による一切参考にならない脳筋アドバイス(物理)が飛んでくる。

「俺は一般人だ! そんな真似ができるかァァァッ!!」

ヴェルフェンが涙目で怒鳴り返した。

だが、そのやり取りの最中、ジンがふと「えっ? 地面を吹き飛ばす?」と来賓席の双子を見て一瞬だけ気を取られた。

「――もらったァァァ!!」

百戦錬磨の副団長は、その一瞬の隙を見逃さなかった。

回避に特化した相手には、あえて大振りの隙を見せてカウンターを誘う。ジンが反射的に放った木刀の一撃を、ヴェルフェンは「自分の肩」でわざと受け止めた。

「なっ……肉を切らせて……!」

「俺の胃痛に比べれば、肩の痛みなどそよ風に等しいわァァァッ!!」

ジンが驚愕した瞬間、ヴェルフェンの渾身の胴払いが、ジンの胴体を綺麗に薙ぎ払った。

「……あちゃー。こりゃ一本取られた。お見事」

ジンは空中でくるりと受け身を取ると、「降参、降参」と笑って手を挙げた。

「――勝者、ヴェルフェン副団長ォォォ!!」

「やったー! おじさんおめでとー!」

「有給ゲットだね!」

来賓席からの拍手喝采を浴びながら、ヴェルフェンはコロシアムの中央で「勝った……これで、休める……っ!」と男泣きに泣いていた。

「ええ、お見事だったわ、ヴェルフェン副団長」

来賓席からマイクを持ったセリア総団長が、優雅に立ち上がり、コロシアム全体に響く声で労いの言葉をかけた。

「あなたには約束通り、一ヶ月の有給休暇を与えましょう。……ちょうど良かったわ! お休みで暇でしょうから、その一ヶ月間、私たちの『ベルン孤児院』で【常勤の特別指導教官】として生徒たちをフルタイムでしごいてちょうだいね!」

「…………は?」

有給休暇(自由な休み)という甘い響きは、総団長(人類最強)の職権乱用によって、一瞬にして「バケモノ学校への一ヶ月の出向(無休)」へと書き換えられた。

「おじさん! 明日からもずっと一緒だね!」

「やったー!」

「テオ君のご飯、毎日食べられますね!」

双子と孤児院の生徒たちが大歓声を上げる中。

「お゛れ゛の゛、ゆ゛う゛き゛ゅ゛う゛がァァァ…………ッ」

王国の頂点に立った男、ヴェルフェン(33歳)。

彼は優勝の栄誉と共に、賞品の「神仙の胃薬」を一気飲みしながら、コロシアムの中心で真っ白に燃え尽きるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ