王都ギルドの報告書と、若きルーキー(17歳)の哀愁
王都の巨大なギルド本部。
その奥にあるギルド長室の分厚い扉をノックしたのは、新進気鋭のBランクパーティー『青空の誓い』の三人(アレン、セス、リナ)だった。
彼らは皆、17歳。双子(16歳)とたった一つしか年齢が違わないにもかかわらず、息の合った連携でBランクに昇格した、ギルドでも将来を嘱望されている若き天才ルーキーたちである。
……しかし今日の三人は、まるで10歳ほど老け込んだような、虚ろで死んだ魚のような目をしてソファーに腰掛けていた。
「……それで? 報告書にある『Aランク魔物キメラ・ティグレの討伐』までは良いとして。この地図の更新依頼……『森に巨大な峡谷ができた』と『北の岩山の山頂が消滅した』というのは、一体どういう冗談かな?」
初老のギルド長が、こめかみを揉みながら報告書を読み上げる。
「冗談じゃないんです、ギルド長」
リーダーのアレン(17歳)が、焦点の合わない目で天井を見上げた。
「峡谷は、16歳の双子が『退路を断つため』に剣で地面を叩き割って作りました。岩山の山頂は、8歳の幼女が『魔法の板の電波が悪いから』という理由で、指先一つで無音で蒸発させました」
「…………」
「あ、峡谷のついでにキメラも消滅したので、素材は持ち帰れませんでした。すみません」
遊撃のセス(17歳)が乾いた声で付け足す。
ギルド長は深く、深ーくため息をつき、引き出しから「王国騎士団のヴェルフェン副団長御用達の強力胃薬」を取り出して水なしで飲み込んだ。
「……ベルン一家と、関わってしまったのだな」
「ご存知なんですか、ギルド長……!」
魔術師のリナ(17歳)が身を乗り出す。
「ええ。あの一家は、国家が総力を挙げて『不可侵』を定めている劇薬ですからな。しかし、まさかあの双子だけでなく、下の妹まで地形を消し飛ばす化け物だったとは……」
「妹ちゃんだけじゃありません! 12歳の弟のテオ君は、料理のついでみたいなサポート魔法で、俺たちを一時的にSランク級の強さに引き上げたんです! 一体なんなんですか、あの家族は!」
アレンが頭を抱えて叫んだ。
「俺たち、幼なじみ三人で必死に修行して、泥水すすって、ようやく17歳でBランクに上がって……『俺たち天才じゃん! 連携最高だぜ!』って肩で風を切ってたのに! 12歳と8歳に、冒険者としてのアイデンティティを木端微塵にされたんです! もう引退して村に帰りたい……!」
若くして成功を手にしたルーキーたちが、年下の子どもたちの規格外すぎる力にプライドを完全にへし折られ、涙目で咽び泣いている。
その姿を見たギルド長は、ふっと気の毒そうに目を細めた。
「君たち、落ち込むことはない。あの子たちの基準で自分を測ってはダメだ。……なにせ彼女たちは、あの『エレナ』の血を引く者たちなのだから」
「エレナ……?」
「15年前、異界の超文明の軍勢を『特売のオムツを買う邪魔だから』という理由で単騎で更地にした、伝説のSランク冒険者だよ。……ちなみに当時の彼女は、27歳くらいだったはずだがね」
「「「…………」」」
伝説のSランク冒険者というスケールの大きすぎる名前と、その理不尽な武勇伝を聞いて、三人は完全に返す言葉を失った。
「遺伝子レベルでバケモノだったのか……。なら、俺たち凡人が勝てるわけないな」
セスがポツリとこぼし、リナもコクリと頷いた。
「ええ。そもそも、住んでる次元が違ったのよ。……でも」
リナはふと、昨日の夕方に食べたハンバーグの味を思い出して、少しだけ表情を和らげた。
「あの子たち、すごくいい子たちだったわ。強さを見せびらかすわけでもなく、ただ純粋に『お肉美味しい!』『連携すごいね!』って笑ってて」
「ああ、そうだな。……特にテオ君の飯は、引退を思いとどまるくらい美味かった」
アレンも力なく笑って立ち上がった。
「ギルド長、お騒がせしました。俺たち、引退はしません。あの一家には一生勝てないでしょうけど……俺たちなりの『連携』を極めて、いつかあの子たちに『アレンお兄さんたち、かっこいい!』って言わせてみせますよ。……まぁ、そのついでにテオ君にご飯をたかりに行くつもりですけどね」
「ふっ、それでこそ期待のルーキーだ。頑張りたまえ、『青空の誓い』」
かくして、17歳の若き冒険者たちは、ベルン一家に植え付けられたトラウマを見事に(ご飯の力で)乗り越え、さらに洗練されたBランク冒険者として成長していくのだった。
ちなみに、この報告書が後日王国騎士団に回り、セリア総団長が「またあの子たち、地形を変えたの……」と頭を抱えるのは、また別のお話である。




