天才幼女の創造物と、魔導スマートフォン
テオの完璧すぎるサポートによって、Bランクの身でありながら擬似的なSランクの動きを体験した『青空の誓い』の三人(アレン、セス、リナ)。
彼らは模擬戦を終え、ベルン家の広々としたリビングのソファで、魂が半分抜けたような顔で休んでいた。
「……なぁ、アレン。俺たち、もうギルドに帰って普通の依頼を受けられる自信がないよ。テオ君のバフがないと体が重くて……」
「言うなセス。俺だって、普通の盾で魔物の攻撃を受け止めるのが怖くなってきた……」
すっかりテオの「過保護サポート」に依存しかけている前衛二人。
そんな彼らの向かいのソファで、ベルン家の末っ子である8歳の幼女・ミラが、ちょこんと座って何やら見慣れない薄い板(ガラス板のようなもの)を指でスワイプしていた。
「……ねえ、ミラちゃん」
魔法使いであるリナが、不思議そうに身を乗り出した。
「ミラちゃんが持っているその綺麗なガラス板……かすかに魔力を感じるけど、いったい何の魔道具なの?」
「ん? これ?」
ミラはガラス板から目を離さずに、淡々と答えた。
「『すまほ』。お父さんの故郷(地球)にあったっていう、すごい道具」
「スマ、ホ……?」
リナが覗き込むと、そのガラス板の表面には、なんと遠く離れた王都の市場の様子が、まるでそこにあるかのように鮮明な『映像』としてリアルタイムで映し出され、さらに音声まで流れていた。
「ええっ!? 映像と音の投影魔術!? 待って、こんな小さな板に、どうやってそんな複雑な術式を……!?」
国トップクラスの魔術師であるシルヴィアでさえ、遠隔地の映像をリアルタイムで投影するには、巨大な水晶玉と大掛かりな儀式が必要だ。
それを、この8歳の幼女は片手サイズの板でやってのけている。
「そんなに難しくないよ」
ミラは本から得た知識と、自ら編み出した独自の魔法理論をポツリポツリと語り始めた。
「お父さんに『でんぱ』と『いんたーねっと』っていう概念を教えてもらったから、それを魔法で構築したの。……空のずっと高いところ(大気圏外)に、重力魔法で固定した『魔力中継用の人工衛星(ただの岩)』を昨日いくつか打ち上げてきたから、それに『千里眼』と『光の屈折』と『念話』の複合魔術を反射させて、この板に受信させてるだけ」
「「「…………はい?」」」
「ちなみに、あっちにある大きな箱は『てれび』。あれは広範囲の空間の映像を切り取って繋げるから、もっと魔力回路が複雑なんだけど……あっ」
ミラが眉をひそめ、ガラス板を軽く叩いた。
「……また映像が途切れた。この森の奥にある山、地脈の魔力が強すぎて『でんぱ(魔力波)』の邪魔になってる。仕方ないな」
ミラはよいしょ、とソファから立ち上がると、リビングの窓を開けて、遠くに見える巨大な岩山に向かって小さな人差し指を向けた。
「あの山、ちょっと削るね」
詠唱はない。動作も、魔力のもれすら一切ない。
ただ、ミラの指先から放たれた極小の『何か』が、音を置き去りにして一直線に飛んでいった。
――ピカッ!!!
数秒後。
遥か遠方にある巨大な岩山の上半分が、極大の閃光と共に、まるで消しゴムで消されたかのように無音で蒸発した。
遅れて、窓ガラスをビリビリと震わせる凄まじい衝撃波がベルン家を通り過ぎていく。
「…………えっ?」
アレン、セス、リナの三人は、ポカンと口を開けたまま固まった。
「よし、アンテナのバリサン(電波最大)戻った」
ミラは何事もなかったかのように窓を閉め、再びソファに座ってスマホで動画(王都の料理番組)を見始めた。
「お、おい……リナ……」
アレンが震える声で魔法使いの幼なじみを呼ぶ。
「今、あの小さなミラちゃんが……山を一つ、吹き飛ばしたように見えたんだが……」
「……吹き飛ばしたんじゃないわ。空間ごと『消滅』させたのよ」
リナは顔面を蒼白にさせ、ガタガタと震えていた。
魔法の専門家である彼女だからこそ、今の一撃のヤバさがハッキリと理解できてしまった。
リーゼとロッテの双子が放つ「地形を変えるほどの物理攻撃」と同等のバグじみた破壊力。それに加えて、シルヴィアすら凌駕する「1ミリの狂いもない神の如き魔法精度」。
あれほどの火力を放ちながら、周囲の森には一切の被害を出さず、山の山頂だけをピンポイントで消し飛ばしたのだ。
「あ、あははは……」
セスが乾いた笑いを漏らした。
「俺たち、テオ君がこの家族の中で一番の常識人だと思ってたけど……違ったな。一番末っ子が、一番手が付けられない『生きた災害』じゃないか……」
「あ、アレンお兄さんたち! 山が爆発したけど大丈夫!?」
そこへ、外で遊んでいた双子が慌ててリビングに飛び込んできた。
「ミラがスマホの電波直しただけだから安心してね!」
「お姉ちゃん、うるさい。今、面白いところ」
(……この家族、もう誰もツッコミを入れないのか)
新進気鋭のBランクパーティー『青空の誓い』は、ソファで優雅にスマホをいじる8歳の天才幼女を前に、完全に冒険者としての常識とプライドをへし折られ、静かに魂を口から吐き出すのだった。
「おお! ミラ、スマホの調子はどうだ?」
そこへ、ダメ親父のベルンが呑気にお茶を持って現れる。
「お父さんの言った通り作ったら、すごく便利。次は『げーむ』っていうのも作ってみたい」
「ははは! そいつは楽しみだな!」
地球の知識を与えるダメ親父と、それを魔法で完全再現してしまう最強の幼女。
この恐るべき父娘のDIY(?)によって、ベルン家のテクノロジーは、超文明すらもドン引きする速度で独自の進化を遂げていくのであった。




