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伝説のSランク冒険者だった母が残した双子の娘、ダメ親父を養うために今日も森で無双しています  作者: 沼口ちるの


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【テオ視点】万能調理人と、規格外の天才幼女

森の奥にあるプール付きの超豪華な大邸宅。その広大なキッチンで、エプロン姿の俺、12歳のテオは今日の夕食の仕込みをしていた。

「ふっ!」

掛け声とともに、包丁に微弱な『風の魔力ウィンド・エッジ』を纏わせる。まな板の上の大量の野菜が、一瞬にして均等な千切りへと変わった。

続いて、コンロの火加減。無詠唱で中級火属性魔術を展開し、鍋全体を均一な温度で包み込む。

「うん、こんなもんかな。あとは隠し味に薬草を調合して……」

数年前に母さんが病気で他界して以来、我が家の家事全般を取り仕切っているのは俺だ。

剣術使いの姉リーゼや、拳術使いの妹ロッテのように、俺には突出した一つの才能がない。剣術も、魔術も、体術も、錬金術(調合)も、すべて上位クラス(Bランク相当)で器用に使いこなせるが、どれも頂点には届かない。いわゆる「器用貧乏」というやつだ。

だからせめて、この万能さを活かして家族の胃袋と健康くらいは守らなきゃいけない。

「おーい、ミラ。おやつのクッキー焼けたよー」

俺が声をかけると、空間がぐにゃりと歪み、ポンッと目の前に小さな影が現れた。

「テオにい、ありがとう」

そこに立っていたのは、8歳になる末っ子の妹、ミラだ。

小脇には、王立図書館の最深部にしか収蔵されていないはずの『古代魔術の禁書』が抱えられている。……どうやらまた、高度な空間転移魔術でこっそり借りてきたらしい。

ミラは一見すると無邪気な8歳の幼女だが、その頭脳は超がつくほどの頭脳派だ。そして魔力総量はおそらくこの国でも五本の指に入るレベルを誇っている。

おまけに、長年の修練が必要なはずの上級魔術を、息をするように感覚だけで使いこなす「隠れた超・感覚派」でもある。

「あちっ。クッキー、まだ熱い」

ミラが眉をひそめ、指先でチョンとクッキーに触れる。

瞬間、極所的な『絶対零度コールド・スリープ』の上級魔術が発動し、焼きたてのクッキーが常温まで一瞬で冷却された。

(……また大賢者クラスの魔術を、おやつの冷却に使ってるよ)

俺は心の中でツッコミを入れるが、口には出さない。

「美味しい。テオにいのクッキー、世界で一番好き」

「ははっ、そりゃよかった」

うちの家族はみんな規格外だ。Sランクだった母さんはもちろん、ギルドで無双している姉ちゃんたちもすごい。ダメ親父を演じている父さんだって、実は国一レベルの鑑定スキルを持っている(父さんは上手く隠しているつもりだろうが、何でも上位レベルで把握できる俺の目にはとうにバレバレだ)。

「ミラはさ、冒険者になりたいとか思わないの? お前の魔術があれば、王宮魔術師だって余裕だろ?」

俺が尋ねると、ミラはクッキーをかじりながらフルフルと首を横に振った。

「んーん。ミラは、ここでお本を読んで、テオにいの美味しいご飯を食べるのがいい。……それに、お父さんやお姉ちゃんたちが外で頑張ってるの、見るの楽しいから」

そう言って、ミラは窓の外を見つめる。

彼女のその瞳は、遥か彼方の森で戦う姉たちや、ギルドでこっそり暗躍している父さんの姿を『千里眼』の魔術で鮮明に捉えているのだろう。

「そっか。じゃあ、俺たちは俺たちのやり方で、この家を守ろうな」

「うんっ!」

すべてを器用にこなす万能調理人の俺と、規格外の魔力を持つ天才幼女。

俺たち裏方組がいる限り、この騒がしくて温かい実家の平穏は、今日も完璧に保たれているのだった。

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