新進気鋭のBランクと、連携(?)の模索
「……シッ!」
「ナイス、アレン! 足が止まったよ!」
「風の刃よ、装甲の隙間を穿て!」
王都近郊の森。そこに、流れるような美しい連携でBランクの魔物『装甲熊』を討伐する三人組の姿があった。
盾と剣で堅実にヘイトを集める前衛のアレン。
双短剣で素早く死角に回り込み、関節を削る遊撃のセス。
そして後方から的確なタイミングで攻撃と支援の魔法を放つ魔術師のリナ。
彼らは最近ギルドでメキメキと頭角を現している新進気鋭のBランクパーティー『青空の誓い』。同じ村で育った17歳の幼なじみ同士であり、個々の実力は平凡ながらも、長年の付き合いからくる「阿吽の呼吸」で格上の魔物すら安定して狩る優等生たちだ。
「わぁーっ! すごいすごい! 今のコンビネーション、踊りみたいで綺麗だったね!」
「うん! アレンお兄さんが防いだ瞬間に、セスお兄さんがスッて入って、リナお姉さんがドカン! だもんね!」
その戦いを木の枝の上から見ていた双子――剣術使いのリーゼと拳術使いのロッテが、パチパチと拍手をしながら飛び降りてきた。
「おや、リーゼちゃんにロッテちゃんじゃないか」
リーダーのアレンが剣を収めて爽やかに笑う。
彼らも同じくBランク冒険者であるため、実態はSランク級のバケモノ姉妹とはギルドで何度か顔を合わせていた。
「いやぁ、俺たちの力なんて大したことないよ。お前たちみたいに、一撃で魔物の装甲を粉砕できるような規格外のパワーはないからね。だからこうして、三人で弱点を補い合って戦うしかないんだ」
「そうそう。アレンがタメを作って、私が隙を作って、リナが仕留める。連携こそが私たちの最大の武器さ」
セスが短剣をくるりと回し、リナも「二人が守ってくれるから、私は安心して魔法の詠唱ができるの」と微笑む。
それを聞いた双子は、雷に打たれたように顔を見合わせた。
「れ、連携……!」
「私たち、そんなこと考えたこともなかった……!」
無理もない。双子の戦闘スタイルは常に「私が右の50匹を消し飛ばすから、ロッテは左の50匹を粉砕して!」という、連携もクソもない純粋な『面制圧(ゴリ押し)』である。
お互いを信頼はしているが、それは「あの子なら一人で全部ぶっ飛ばせるから背中を任せても安心」という、ベクトルのおかしい信頼なのだ。
「ね、ねえお姉ちゃん! 私たちもあんな風に、かっこいい『連携』やってみようよ!」
「うん! ずっと力任せはよくないって、ヴェルフェンのおじさん(副団長)にも言われたばっかりだしね!」
目を輝かせる双子。そこへ、血の匂いを嗅ぎつけたのか、森の奥から先ほどよりも遥かに巨大で凶悪なAランク指定の魔物、『キメラ・ティグレ(虎型の合成獣)』が飛び出してきた。
「なっ……Aランク魔物!? まずい、俺たちじゃ歯が立たない! 撤退だ!」
アレンたち三人組が青ざめて後ずさる中、双子は逆に目を輝かせて前に出た。
「アレンお兄さんたちは下がってて! 私たち、今から『連携』のお手本を見せるから!」
「いくよ、お姉ちゃん! 私が『囮』になって隙を作るから、お姉ちゃんが背後から『トドメ』を刺して!」
「オッケー! 任せて!」
リーゼが母の形見の長剣を構えて大きく迂回し、ロッテがキメラの正面に立つ。
アレンたちは「なるほど、まずは妹がヘイトを稼いで引きつけるんだな……!」と固唾を飲んで見守った。
「こっちだよ、大きなネコちゃん! ――『シッ!』」
ロッテはキメラの注意を引くため、地面を「軽く」踏み込み、威嚇のつもりで鉄のガントレットを空中に打ち出した。
――ドゴォォォォォォンッ!!!
「囮」のつもりで放たれたその拳圧は、すさまじい竜巻となって空間を抉り取り、キメラを地面ごと巻き込んで遥か地平線の彼方へと吹き飛ばしてしまった。
轟音と共に、森に幅100メートルほどの更地が一直線に出来上がる。
「「「…………え?」」」
アレンたち三人組の顎が、地面に届く勢いで外れた。
「あーっ!? ちょっとロッテ! どこに吹き飛ばしたの!? これじゃ私が背後からトドメ刺せないじゃない!」
剣を構えたまま背後に回り込んでいたリーゼが、怒って抗議する。
「ご、ごめんお姉ちゃん! 囮だからちょっと強めに気を引こうと思ったら、勢い余っちゃって……!」
「――グオオオオッ!!」
そこへ運悪く、もう一体のキメラが森から姿を現した。
「あ、もう一匹いた! よし、今度こそ連携だよ! 私が『退路を断つ支援』をするから、ロッテがトドメね!」
「わかった!」
リーゼは長剣を振りかぶり、「キメラが逃げられないように」と、キメラの背後の地面に向けて剣圧を放った。
――ズバーーーンッ!!!
放たれた国宝級アーティファクトの剣圧は、キメラの退路(地面)を断つどころか、キメラごと周囲の地形を真っ二つに両断し、全長数キロに及ぶ大峡谷を新たに錬成してしまった。
「……あ。ごめんロッテ。退路と一緒に魔物も消えちゃった」
「もうお姉ちゃん! だから力加減してって言ったのに!」
キャアキャアと無邪気に反省会をする双子。
その後ろで、新進気鋭のBランクパーティー『青空の誓い』の三人は、真っ白な灰のように燃え尽きて座り込んでいた。
「……なぁ、アレン。あれのどこが『連携』なんだ……?」
「……俺に聞くな、セス。囮が敵を地平線の彼方に吹き飛ばして、支援が地形ごと敵を消滅させた……ただの歩く戦略兵器の同時起動だ……」
「私たち……あんなバケモノたちに偉そうに連携を語ってたの……?」
個々の武力がバグりすぎている双子には、そもそも「連携して弱点を補う」という概念が存在しない。
結局、双子にとっての『連携』は、「どちらが先に敵を消し飛ばすか」という物理の押し付け合いにしかならないのだ。
「アレンお兄さんたち! ごめんね、私たちやっぱり連携向いてないみたい!」
「うん! 次からはいつも通り、ドカンとバコーンでいくね!」
笑顔で手を振る双子に、幼なじみ三人組は「頼むから、もう一生そのまま(力任せ)でいてくれ……」と、涙目で天を仰ぐのだった。




