閃光の学舎と、三人の怪物教師
王都近郊の大荒野。その上空に浮かぶベルン一家の浮遊島の一角に、新しく立派な白亜の校舎が建設された。
その名も『ベルン孤児院兼私立アカデミー』。
「ベルンさん、テオ君! ついに出来たわ、私たちの学校が!」
開校式の朝、王国最強の騎士団長・セリアは、いつもの凛とした軍服姿で、誰よりも目を輝かせて胸を張っていた。
実はこの学校、セリアが発起人となり、国家名誉国民であるベルン一家の協力を得て設立されたものだ。セリア自身、幼い頃に身寄りをなくし、師匠のエレナに拾われて現在の地位まで導かれた恩義がある。だからこそ、貧困や環境のせいで才能を埋もれさせている子供たちに、生きる力(物理)を授けたいという強い願いがあった。
集まった生徒は、初期段階でちょうど17人。
身寄りのないスラムの孤児から、家を継げないため放り出された貴族の次男三男、貧困にあえぐ農家の子まで境遇は様々だ。
そして、その17人の中には――。
「わぁ、いろんな子がいて楽しそうだね、ミラ」
「うん。お友達、いっぱいできるかな」
友達作りと一般教養を学ぶため、12歳の万能少年テオと、8歳の天才幼女ミラも一般生徒として机を並べていた。
「さて、生徒たちの安全を守り、かつ一流の教育を施すために、私の『総団長私設部隊』から、特に教育に向いている最高峰の幹部を3名、国から引き抜いて派遣したわ。騎士団の総戦力を落とさないためにこの3人だけだけど……実力はヴェルフェン副団長と同格よ」
セリアの紹介と共に、教壇の前に3人の男女が姿を現した。
彼らは王国騎士団の幹部でありながら、個人の武力だけでSランクに到達しているバケモノたちだ。
「よぉし! 生徒ども! 今日からお前らの根性を叩き直してやる! 立てば即戦闘! 寝れば即訓練だあ!」
一人目は、燃えるような赤髪を逆立てた熱血派の女性騎士、アザレア。
(※モチーフ:アザレア/花言葉:情熱)。ヴェルフェン副団長と並ぶ剛腕の持ち主で、実技と戦闘訓練を担当する。
「まあまあ、アザレア。子供たちが怖がってしまうでしょう? 皆さん初めまして。お勉強やマナー、座学は私に任せてくださいね」
二人目は、常に穏やかな聖母の笑みを浮かべた男性魔術騎士、カモミ。
(※モチーフ:カモミール/花言葉:逆境に耐える、癒やし)。一見優しそうだが、その魔術の練度はSランク級であり、どんな逆境でも笑顔で授業を遂行する。
「……影に潜み、気配を断つ。サボる者は、背後から。……よろしく」
三人目は、いつの間にか影から現れた、灰色の髪を長く伸ばした隠密の男性騎士、ロータス。
(※モチーフ:ロータス/花言葉:離れゆく愛、静寂)。気配遮断の達人であり、学校の治安維持とスカウト、隠密行動の授業を担当する。
熱血、穏健、隠密。
副団長クラスの怪物が3人も揃った、あまりにも贅沢すぎる教師陣。貧困層や貴族の下の子たち15人は、「す、すごすぎる……本物の騎士団幹部が先生なんて……!」と、セリアと教師たちの威厳に完全に圧倒され、目を輝かせていた。
が、アザレアたち3人の教師の視線は、生徒たちの中心にいる「二人の子供」に注がれ、密かに凍りついていた。
アザレアは、12歳のテオを見た。
(な、なんだあの少年は……!? 姿勢、重心の置き方、筋肉の弛緩……一切の隙がない! 構えてすらいないのに、私が本気で殴りかかっても一瞬でいなされる未来しか見えんぞ!?)
カモミは、8歳のミラを見た。
(おやおや……これは。あの幼女の周囲だけ、大気中の魔力の濃度がバグっていますね。無意識に多重の空間結界を展開している。私が本気で大魔術を放っても、彼女の爪一枚にすら届かないでしょうね……)
ロータスは、ミラのさらに影を見た。
(……気配を完全に断ってミラの影に潜んでいたはずなのに、あの幼女、本を読みながら私の位置を完璧に視線で追ってきている。……恐ろしい)
「総団長……」
熱血派のアザレアが、珍しく冷や汗を流しながらセリアに耳打ちした。
「あの、生徒名簿の端にいる『テオ』と『ミラ』って子供……本当に私が教育するんですか? 逆にこっちがへし折られそうなんですが」
「ふふっ、何を言っているのアザレア」
セリアは人類最強の総団長としての、絶対的な余裕と慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「あの子たちは私の可愛い弟と妹よ。技術は教えられなくても、学校の楽しさや、仲間たちとの絆を教えてあげることはできるでしょう? しっかり頼んだわよ、先生方」
「「「は、ははっ……!」」」
最強の総団長の絶対命令の前に、三人の怪物教師たちはゴクリと息を呑み、腹を括った。教育すべき対象は、貧しい孤児たちだけではない。世界の理を壊しかねない「超・規格外の姉弟」をも、真っ当な人間として導くという、超難関の任務が始まったのだ。
「よ、よし! それじゃあ第一の授業! まずは全員で美味しいお昼ご飯の配給だ!」
アザレアが声を張り上げると、テオが「あ、先生。俺、厨房を借りて17人分の特製シチュー作ってありますよ」とエプロンを取り出した。その手際の良さと完璧な家事魔術の気配に、15人の生徒たちだけでなく、教師3人も「美味すぎる……」と一瞬で胃袋を掴まれてしまうのだった。
かくして、脈絡もなく、しかし最強の情熱によって設立されたベルン孤児院。
一癖も二癖もある17人の生徒たちと、3人の怪物教師、そして見守る人類最強のセリアによる、騒がしくも温かい学園生活が、今ここに幕を開けるのだった。




