竜宮城のバカンスと、お転婆な第六王女
国家の許可を得て、空飛ぶ実家(浮遊島)ごと海へやってきたベルン一家。
眼下に広がる青い海を前に、浮遊島から下ろされた巨大な魔法の縄梯子を下りて、一行は美しいプライベートビーチへと降り立っていた。
「わぁぁっ! 海だーっ!!」
「お水がしょっぱい! お姉ちゃん、早く泳ごう!」
剣術使いのリーゼと拳術使いのロッテが、可愛らしいビキニ姿ではしゃぎ回る。
その少し後ろで、大人の女性陣がパラソルの下で強烈な存在感を放っていた。
「……っ、な、なんだか布地が少なすぎないかしら。こんな格好で敵襲があったら、すぐに動けないわ……」
顔を真っ赤にして身をよじっているのは、王国最強の騎士団長・セリア。普段のストイックな軍服の下に隠されていた、極限まで鍛え抜かれつつも女性らしい丸みを帯びたグラマラスな肢体は、健康的な色気を放っている。
「ふふっ、固いこと言わないのセリア。せっかくのバカンスじゃない。……まぁ、私の魅力には少し負けるけれどね」
隣で優雅にサングラスを直しているのは、Sランクパーティーの参謀・シルヴィア。大胆なスリットの入った黒の水着が、国トップクラスの魔術師たる彼女の妖艶で成熟した色気を完璧に引き立てていた。
「おお……さすがセリアもシルヴィアも、大人の余裕ってやつだな!」
ダメ親父(のフリをした転生者)のベルンが愛嬌のあるタレ目を下げて陽気に笑うと、セリアは「ベ、ベルンさんまで見ないでくださいっ!」とさらに顔を赤くした。
そんな和やかな(?)お色気空間の横で、双子たちともう一人、元気な水着姿の少女が海へ飛び込んでいた。
「あははっ! 最高ね! 王城を抜け出してきた甲斐があったわ!」
彼女の名はミリス。この国の第6王女である。
王位継承権を持たない彼女は、しがらみがないのをいいことに自由奔放に育ったお転婆姫だ。セリアがベルン一家のバカンスに合流すると聞きつけ、無理やりついてきたのである。
年齢は双子と同じ16歳。王族特有の高い魔力と、一流の英才教育からなる魔法剣術を修めており、その純粋な戦闘力はSランク冒険者に肉薄するほどの達人だった。
「ミリスちゃん、すっごく泳ぐの速いね!」
「ふふん、王宮のプールで鍛えてるからね! リーゼもロッテも、冒険者っていうからもっと野暮ったいかと思ったら、すっごく可愛いじゃない!」
「えへへ、ミリスちゃんもね! あ、そうだ。お父さんが『海の中でお話しできる不思議な真珠』を買ってくれたから、みんなで竜宮城を探しに行こうよ!」
ベルンがガラクタ商人から銅貨で買い叩いてきた神話級アーティファクト『海神の息吹』の力で、一行は海中へと潜った。
天才幼女・ミラの張った水圧結界に守られながら深海を進むと、やがて色鮮やかなサンゴ礁に囲まれた巨大な海底神殿――伝説の『竜宮城』が姿を現した。
しかし、その美しい竜宮城は、今まさに崩壊の危機に瀕していた。
『ギョオオオオオッ!!』
神殿に巻き付いていたのは、山のように巨大な『深淵のクラーケン』。人魚たちや竜宮城の兵士たちが絶望的な顔で逃げ惑っている。
「きゃあっ! 海の魔物よ!」
「まずいですね……海中では私の炎魔術は威力が落ちますし、この水圧では……」
シルヴィアが警戒して杖を構える。
しかし、その隣に立つセリアは、水着姿のまま双剣をだらりと下げ、微塵の焦りも見せずに優雅に微笑んでいた。
「ふふっ、心配ないわよシルヴィア。もし暴れるようなら、私が『水の抵抗ごと空間を斬り裂いて』お刺身にしてあげるから」
超文明の光の兵器すら神速で撫で斬りにする、現存する人類最強の騎士団長。彼女にとって、ただの巨大なイカ(クラーケン)など、海の中であろうと止まった的も同然である。
しかし、セリアはあえて前に出ようとはしなかった。
「……でも、今日は私の出番はなさそうね」
セリアの視線の先には、目をキラキラと輝かせている16歳の同級生トリオがいた。
「ねえミリスちゃん! あの大きなイカ、倒したらテオが美味しくお料理してくれるかな!?」
「ええっ!? 普通は逃げるところだけど……面白そうね! 私の『王族秘伝・水竜剣』とアンタたちの力、どっちが強いか勝負よ!」
「オッケー! ロッテ、いくよ!」
「うんっ!!」
16歳の少女たちが、弾丸のように飛び出していく。
ミリスが王族の莫大な魔力を剣に込め、海流を味方につけた神速の斬撃でクラーケンの巨大な触手を次々と切り飛ばす。
それに合わせて、リーゼが母の長剣を振り抜き、ロッテが鉄のガントレットでクラーケンの顎を打ち抜いた。
ドゴォォォォォン!!!
海中を揺るがす規格外の暴力が炸裂し、クラーケンは一瞬にして沈黙した。
「やったー! 大物ゲットだね!」
「ふふっ、アンタたち、やるじゃない!」
意気投合してハイタッチを交わす三人娘。竜宮城の兵士たちがそのデタラメな強さにポカンと口を開けている中、セリアは「最強の保護者」としての余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。
「……ミリス殿下の太刀筋は流石ね。でも、リーゼとロッテはちょっと力任せすぎるわ。……バカンスが終わったら、私がみっちり身体の使い方を矯正してあげないとね」
「あの巨大な古代モンスターを瞬殺した子たちに、まだダメ出しするの……? 本当に、この家族の基準はおかしいわ……」
シルヴィアが呆れたようにため息をつくが、セリアはどこか嬉しそうに目を細めていた。
その後、クラーケンの脅威から救われた竜宮城の乙姫から、一行は国宝級の海産物(と謎の玉手箱)を大量にプレゼントされた。
夕方の浮遊島では、万能調理人・テオがその超高級なクラーケンと竜宮城の海産物を使って、至高の海鮮バーベキューを振る舞うことになり、ミリスも「王宮のフルコースより美味しい!」と大絶賛。
水着のお色気あり、新キャラの活躍あり、そして何より「人類最強の保護者」に見守られながらの双子の物理無双。ベルン一家にとって、これ以上ないほど充実した最高のバカンスとなったのだった。




