天才幼女のポテンシャルと、密かなる英才教育
王都近郊の大荒野の上空。今日も平和に空に浮かぶベルン家のリビングで、8歳の天才幼女・ミラはソファに寝転がりながら本を読んでいた。
「おーい、ミラ。この間市場で買ってきた『面白い本』、読んでみたか?」
気のいいダメ親父を演じるベルンが、ニコニコしながらミラの隣に腰を下ろす。
先日、ベルンが市場の古本屋で銀貨2枚で発掘してきた本。
ベルンの『森羅万象の神眼』は、それが【読んだ者の魔力効率を永続的に10%引き上げる失われた魔導書(魂の器の補強理論)】であることを完璧に見抜いていた。
ベルンは神の制約により「お前たちは短命だからこれを読んで治してくれ」とは言えない。だからあくまで、「ちょっと難しいけど面白いファンタジー小説」としてミラに買い与えたのだ。
「うん、お父さん。これ、けっこう面白い」
ミラは本から目を離さずに、淡々と答えた。
「昔の魔術師が書いたみたいだけど、魔力って『魂の器』に入れておくお水みたいなものなんだね。でも、この筆者さん、器を大きくするアプローチがすごく下手っぴ」
「へ、へぇー! そうなのかい?」
「うん。器を無理やり広げようとするから負担がかかるの。私なら、器の内側に『柔軟性のある空間拡張の結界』を張って、いくら魔力が溢れても器自体が絶対に壊れないようにする。……こんな感じで」
ミラが指先で空中にふわりと円を描いた。
その瞬間、微弱で、しかしどこまでも優しく温かい魔力の波紋が、リビング全体――いや、浮遊島全体をサァッと包み込んだ。
「……ッ!」
ベルンは息を呑み、慌てて己の『神眼』を凝らした。
視界に映し出される、別室で昼寝をしているリーゼとロッテ、そして隣にいるミラの「寿命」の数値。
規格外の力に耐えきれず、摩耗して減り続けていた彼女たちの残り時間が……今、ミラの放った無自覚な魔術の波紋を浴びて、ほんの数ヶ月分だけ、確かに「延長」されたのだ。
(……やった! やったぞ!!)
ベルンは内心でガッツポーズを決め、嬉し涙を流しそうになるのを必死に堪えた。
神話級のアーティファクトでなくとも、この規格外の天才幼女に「ヒント(古代の魔導書)」さえ与え続ければ、彼女自身が遊び感覚で自分たちの寿命問題を修正してしまうかもしれない。
それは、絶望的な宝探しを続けていたベルンにとって、初めて見えた確かな「希望の光」だった。
「お父さん、どうしたの? お顔、変」
「い、いや! なんでもないぞ! ミラはすごい魔術を思いつくんだなぁって感心してただけさ!」
ベルンは愛嬌のあるタレ目を思い切り下げて、ミラの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「えへへ……。あ、お父さん。この本読み終わっちゃったから、今度は『生命力』とか『時間の操作』について書いてある面白いお本、買ってきて」
「おお! 任せておけ! お父さんのお小遣い(※双子の稼ぎ)を全額注ぎ込んで、世界で一番面白い本(※神話級の禁書)を探してきてやるからな!」
もし彼女が本当にその気になれば、Sランクなどという枠組みすら超越してしまう天才幼女・ミラ。
そんな彼女の無自覚なポテンシャルと、ダメ親父のチート眼力による「最強の寿命延命プロジェクト」が、誰にも知られることなく密かにスタートした瞬間だった。
「ふぁ……頭使ったらお腹空いた。お父さん、テオにいの海鮮パエリア、まだ?」
「もうすぐできるはずだぞ! 今日は家族みんなで、いっぱい食べよう!」
彼女たちが自分たちの宿命に気づくことは、まだない。
それでも、世界一過保護な父親と、世界一規格外な才能の歯車が噛み合ったこの家から、彼女たちの笑い声が消えることは絶対にないのだ。
いかがでしょうか!
ミラの異常なポテンシャルと、ベルンの神眼が最高の形で噛み合いましたねw
「直接は言えないけれど、勉強材料だけ渡して本人の才能で解決させる」というベルンのしたたかさと、それ以上の結果(寿命延長)を遊び感覚で叩き出してしまうミラのバケモノっぷりが上手く表現できたかと思います!




