王都ギルドの洗礼と、母の背中
王都近郊の荒野上空に停泊する浮遊島から、魔法陣を通って王都の市街地へ。
今日、16歳の双子である剣術使いのリーゼと拳術使いのロッテは、久々に冒険者としてのフル装備で王都の巨大なギルド本部を訪れていた。
「うわぁ、やっぱり王都のギルドは大きいね! 人もいっぱいいる!」
「うんっ! 最近お父さんのお買い物とかお引っ越しで忙しかったから、思いっきり魔物をぶっ飛ばすの久しぶりだね!」
双子がワクワクしながら受付カウンターへ向かうと、そこには周囲の冒険者たちとは明らかに違う、威厳のある初老のギルド長が待ち構えていた。
「おお……! お待ちしておりましたぞ、ベルン一家の皆様! いや、国家特別法案で定められし『名誉国民』であられるリーゼ様、ロッテ様!」
「えっ、おじさん誰?」
「王都ギルドを統括しております、ギルド長にございます! さあさあ、お二人の移籍手続きは既に国からの通達で完了しております! 待遇はもちろん、当ギルドが誇る最高峰……『Sランク』でご用意させていただきました!」
ギルド長が恭しく差し出したのは、黄金に輝くSランクのギルドカードだった。
周囲の冒険者たちが「あの小娘たちがSランクだと!?」「いや、あいつらがあの噂の浮遊島の……!」とざわめき立つ。
しかし、双子は黄金のカードを一瞥すると、心底嫌そうな顔で思い切り顔をしかめた。
「「いらない(です)。」」
「……はい?」
「だって、Sランクになったら『国やギルドの緊急事態には絶対招集』とか、面倒な義務がいっぱいあるんでしょ? 私たち、テオのご飯に遅れるような働き方は絶対しないって決めてるの」
リーゼが腕を組んでバッサリと切り捨てる。
ロッテも「そうそう!」と頷いた。
「私たちはお肉を買うためにお仕事してるだけだから、自由に好きな依頼を受けられるランクがいいの!」
「そ、そんな殺生な……! あなた方のような『戦略兵器』を野放しにしておくなど、ギルドの管理体制が問われてしまいます!」
「じゃあ、Aランクでいいわ。Bランクだと面倒な低級依頼のノルマがあるけど、Aランクなら自由度高いし、ノルマもないでしょ?」
「うぅっ……! 分かりました。では、お二人は特例の『Aランク』ということで……」
涙目でAランクのカードを発行しながら、ギルド長はふと、懐かしさと諦めが混じったような遠い目をした。
「……本当に、血は争えませんな」
「え?」
「あなた方のお母様……エレナ様も、全く同じことを仰ったのですよ。この王都ギルドで」
ギルド長の言葉に、双子は目を丸くした。
「実を言うと、エレナ様も元々はこの王都ギルドの出身でしてな。彼女も若い頃から常識外れの強さでしたが、『特売日に間に合わなくなる』と、ずっとSランクへの昇格を拒否し続けていたのです」
「お母さん……相変わらずだね」
「しかし、今から15年前。数十年に一度の『異界の超文明(魔界)』からの侵略があった年のことです」
ギルド長は、当時の凄まじい光景を思い出すように身震いをした。
「空を覆う鋼鉄の艦隊。王都の防衛線が突破されそうになったその時……当時まだ1歳のあなた方を背負ったエレナ様が、激怒しながら戦場に乱入してきましてな」
『ちょっとあんたたち!! そこをどきなさいよ! 特売のオムツが買えないじゃない!!』
「エレナ様は、防衛軍が束になっても敵わなかった超文明の機械兵器の群れを、ただの『物理』で単騎で文字通り更地にしてしまったのです。……そのあまりの戦果と被害規模(地形変化)に、国とギルドは彼女を無理やり『特権付きのSランク』に就任させ、監視下に置かざるを得なかったのです」
「……あはは。やっぱりお母さんは、スケールが違うね」
「私たちも、まだまだお母さんには敵わないなぁ」
常人には扱えないお母さんの形見――長剣と鉄のガントレットをそっと撫でながら、双子は誇らしげに笑い合った。
世界の危機よりも、特売のオムツ。そのブレない愛情があったからこそ、今の自分たちがあるのだと分かっているからだ。
「よし! じゃあ私たち、さっそくAランクの依頼に行ってくるね! 今日はお父さんが『絶対に焦げ付かない伝説のフライパン』をテオに渡したから、特大のドラゴンステーキにするんだ!」
「ロッテ、あそこに『凶暴化した火竜の討伐』ってあるよ! あれにしよう!」
「うんっ! 行ってきまーす!」
嵐のようにギルドを飛び出していく最強の双子。
残されたギルド長は、「また地形が変わらなければ良いが……」と胃薬を飲みながら、かつての伝説の冒険者の背中と、二人の少女の姿を重ね合わせるのだった。




