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伝説のSランク冒険者だった母が残した双子の娘、ダメ親父を養うために今日も森で無双しています  作者: 沼口ちるの


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至高の才能と、圧倒的なる「興味なし」

空に浮かぶ浮遊島の庭先。

ミラの規格外な空間転移魔術と、ベルンの(フリをした)底知れなさに胃を痛めていた王国騎士団副団長・ヴェルフェンは、気を取り直して庭の隅へ視線を向けた。

そこでは、16歳の双子であるリーゼとロッテが、腹ごなしの軽い組み手を行っていた。

「シッ!」

「ふっ!」

木剣と素手が交差するたび、周囲の空気が爆ぜ、分厚い雲海が真っ二つに割れる。

純粋な一対一であれば彼女たちと互角に渡り合える実力を持つヴェルフェンの目に、驚愕の色が浮かんだ。

(……間違いない。ただ筋力が強いとか、魔力が高いとかいう次元じゃない。戦闘における『土台』の完成度が、我々とは根本的に違う……!)

ヴェルフェンは、現在23歳である総団長のセリアが、3年前に弱冠20歳で騎士団の頂点に立った日のことをよく覚えていた。

あの日のセリアが放っていた、完成された天才の覇気。今、目の前でじゃれ合っている16歳の少女たちは、当時のセリアと全く同じ次元の領域にすでに到達しているのだ。

あと数年もすれば、間違いなくセリアすら凌駕する「真の人類最強」になる。

軍を預かる幹部として、ヴェルフェンの血が騒いだ。

彼らは数十年に一度、異界の超文明との絶望的な防衛戦を強いられる。もしこの双子が騎士団に入れば、防衛戦どころか、敵の母星ごと更地にできるかもしれない。

「――君たち! 素晴らしい才能だ!」

ヴェルフェンはたまらず双子に駆け寄り、熱い眼差しを向けた。

「その若さで、すでに3年前のセリア総団長と同等クラスの実力! どうだ、王国騎士団に入らないか!? 君たちなら特例で即幹部待遇、将来は国の英雄として歴史に名を残せるぞ!」

1番隊隊長のアポールたちも、「おおっ、確かに彼女たちがいれば我々の部隊は無敵だ!」と期待の目を向ける。

国を護る精鋭たちからの、最大級の賛辞と熱烈なスカウト。普通の16歳なら、感激して飛びつくところだろう。

しかし。

双子は木剣を下ろし、きょとんとした顔でヴェルフェンを見つめ返した。

「え? 騎士団って、朝から晩までお仕事するの?」

リーゼが首を傾げる。

「当然だ! 我々は24時間体制で王都を警邏し、超文明の脅威から民を護る盾となる! 休暇など滅多にないが、非常に名誉な――」

「「絶対ヤダ。」」

双子の声が見事にハモり、ヴェルフェンの熱弁を物理的な壁のように遮った。

「えっ」

「だって、お仕事で帰れなくなったら、テオの作ってくれる夕飯が食べられないじゃない」

ロッテが心底嫌そうに眉をひそめる。

「それに、騎士団の制服ってヒラヒラしてて動きにくそうだし。私たち、お肉の特売の時間には絶対に市場に行きたいから、市井の揉め事とか超文明とかに関わってる暇ないの」

リーゼも長剣を腰に戻し、「ねー」と妹と頷き合う。

「ちょ、待っ……名誉だぞ!? 歴史に名が残るんだぞ!? お肉の特売と国の平和、どっちが大事だと思っているんだ!」

「お肉。(即答)」

ヴェルフェンはガクッと膝から崩れ落ちた。

軍人としての常識が、16歳の「実家大好き思考」の前に完全敗北した瞬間だった。

「……諦めなさい、ヴェルフェン」

いつの間にかクッキーを食べ終え、完璧な美貌の「総団長」の顔に戻ったセリアが、哀れな副団長の肩をポンと叩いた。

師匠エレナの教育方針が『自分の力で稼いで、家族と美味い飯を食え』なのよ。あの子たちにとって、王国の危機や権力なんて、今日のシチューの具材以下の価値しかないわ」

「そ、そんな……! この国は、最大の軍事力ポテンシャルを、夕飯の献立のせいで損失したというのか……ッ!」

「まあまあ、おじさんたち。テオのクッキー食べる? まだ少し残ってるよ?」

ロッテが無邪気に差し出したカゴのクッキーを、アポールたち隊長陣は涙を流しながら齧った。

「……美味い。これが、我々が超文明から護るべき平和の味……」

「……はい。我々は我々の仕事(ジリ貧防衛戦)を頑張りましょう、副団長」

かくして、王国の精鋭たちは「絶対に手の届かない至高の才能」を前に、諦めの境地へと至ったのだった。

どれほど世界が危機に瀕していようと、この規格外の双子たちを動かせるのは、権力でも名誉でもなく、愛する家族と美味しい食卓だけなのだから。

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