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伝説のSランク冒険者だった母が残した双子の娘、ダメ親父を養うために今日も森で無双しています  作者: 沼口ちるの


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貧乏姉妹(実は大富豪)、ギルドで絡まれる

冒険者ギルド『琥珀の星』は、今日も朝から荒くれ者たちの熱気と酒臭さで充満していた。

「おはようございまーす! 昨日の討伐依頼の報告にきました!」

妹のロッテが元気よくギルドの木扉を開けると、喧騒が少しだけ和らぐ。私たちは受付カウンターへ向かい、討伐部位であるゴブリンの耳と、採取した薬草の束をドンッと置いた。

「おはよう、リーゼちゃん、ロッテちゃん。今日も早いね。……あら、素材の保存状態が完璧。さすがエレナさんの娘さんたちね」

受付嬢のお姉さんが、感心したように微笑んでくれる。数年前に他界した母、エレナはSランク冒険者としてこのギルドでも伝説的な存在だ。

「へへっ、お母さんの特訓の賜物だよ!」

「それに、私たちがいっぱい稼がないと、お父さんがまた変なガラクタ買っちゃうからね」

私、リーゼが苦笑いしながら言うと、受付嬢も「ベルンさん、またなのね……」と同情の視線を向けてきた。

その時だった。

「おいおい、朝から貧乏くさい話でギルドの空気を悪くしないでくれないか?」

背後から、わざとらしい嘲笑が降ってきた。振り返ると、全身をピカピカの銀鎧で包んだ見覚えのある男が立っていた。中堅冒険者パーティ『銀の鷹』のリーダー、若手貴族のザックだ。

「おや、可哀想な双子ちゃんじゃないか。今日もあの『ダメ親父』の尻拭いのために、小銭稼ぎか?」

ザックの取り巻きたちも、下品な笑い声を上げる。

「別に小銭じゃないし。私たち、ちゃんとした仕事受けてるもん」

ロッテがムスッと頬を膨らませるが、ザックはニヤニヤと鼻で笑った。

「強がるなよ。親父が働きもせず怪しい壺に金を溶かしてるって噂、ギルド中に知れ渡ってるぜ? 偉大なSランクの母親が死んで、残されたのは粗末な装備と借金まみれの親父だけなんて……涙が出る話じゃないか」

ザックの言葉に、ギルド内の何人かが同情的な目をこちらに向けてくる。

――『貧乏で可哀想な姉妹』。

それが、このギルドにおける私たちの共通認識だった。

(……お姉ちゃん、あれ言ってもいい?)

(ダメよロッテ。お母さんとの『自分たちの力で稼ぐまでは実家の財産を使わない』って約束、破る気?)

私たちは視線だけで密かに会話を交わす。

ギルドの連中は「貧乏姉妹」と嘲笑うが、実は森の奥にある私たちの実家は、一生遊んで暮らせるほどの財産が眠る超豪華な大邸宅なのだ。

ザックが「粗末」と馬鹿にしたこの使い込まれた長剣も、ロッテの鉄のガントレットも、実はお母さんが遺した国宝級の業物である。ただ、お母さんの「見栄を張らず、己の実力のみで成り上がれ」という方針により、あえて地味な見た目に偽装しているだけだった。

「……で、用件はそれだけ? 私たち、これから次の依頼に行きたいんだけど」

私が冷たく言い放つと、ザックは「可愛くないヤツらだ」と肩をすくめ、一枚の羊皮紙を押し付けてきた。

「お前らに『恩恵』を与えてやろうと思ってな。俺たちが受けていたCランク依頼『装甲ボアの討伐』を譲ってやる。俺たちみたいなエリートには割に合わない雑務だが、貧乏なお前らには喉から手が出るほど欲しい報酬だろ?」

それは、装甲ボアという極めて硬い皮膚を持つ厄介な魔物の討伐依頼だった。倒すのに手間がかかる割に報酬が少なく、誰もやりたがらない「ハズレ依頼」を押し付けようとしているのは見え見えだ。

「え、装甲ボア?」

ロッテがきょとんとした顔をする。

「なんだ、怖気づいたか? 泣いて頼むなら、少し報酬を恵んでやっても――」

ドンッ!!!

ザックの言葉が終わる前に、ギルドの床が大きく揺れた。

ロッテが背負っていた巨大な麻袋を、無造作に床へ下ろした音だ。袋の口が開き、中からゴロンと転がり出たのは――巨大な装甲ボアの、見事に急所だけを打ち抜かれた頭部だった。

「あ、それなら今日の朝、家からギルドに来る途中で『道ふさいでて邪魔だったから』ついでに倒してきたよ! 素材も全部剥ぎ取ってあるけど、これで依頼達成になるかなぁ?」

「は……?」

ザックの顔から、一瞬で表情が抜け落ちる。

中堅パーティでも手こずるCランクの魔物を、朝の散歩ついでに? しかも、その分厚い装甲を上から拳で叩き割って?

「もう、ロッテ。やりすぎよ。素材の価値が下がるじゃない」

「だってぇ、お腹空いてたから早くギルドに来たかったんだもん!」

あっけらかんと笑う私たちを見て、ザックは「ば、化け物……ッ」と呟き、後ずさりして逃げるようにギルドを去っていった。

「受付のお姉さん、この装甲ボアの素材も追加で買い取りお願いできる? これでお父さんに、ちょっといいお茶っ葉でも買ってあげよっと」

「ええ、喜んで……!」

周囲の冒険者たちが唖然とする中、私たちは今日も実力で常識を粉砕し、愛する家族が待つ森へと元気に歩き出すのだった。

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