天空への直通ゲート、あるいは魔法陣の無駄遣い
実家が浮遊島と化した翌朝。
俺たち双子は、空中にある玄関の扉を前に、深刻な顔で腕を組んでいた。
「……ねえお姉ちゃん。やっぱり毎日ここから飛び降りて、空中で着地してギルドまで走るのって、体力がもったいないよね?」
「うん。あと、私の服が風圧で破れそうになるし、なによりお父さんの買った『お高いお取り寄せ食材』を運ぶのが大変すぎる」
実力行使での帰宅は楽しいけれど、さすがに毎日の通勤としては非効率極まりない。
そこへ、寝癖がついたままのミラが、ふらりと現れた。
「……お姉ちゃんたち、うるさい。昨日、天空の心核の魔力構造と、この辺りの空間歪みを解析したから、もう普通に帰れるようにしてあげた」
ミラは地面に、ペタペタとチョークで複雑な魔法陣を描き始めた。
その模様は、王宮の魔術師が一生かけても解読できないレベルの超高度な座標変換術式だったが、ミラにとっては「あっちとこっちを繋ぐ線」程度の感覚らしい。
「はい。これ踏むと、ギルドの裏路地とここの庭が繋がる。……あと、移動の衝撃でシチューがこぼれないように、慣性制御も追加しておいたから」
「え、マジで!? ミラ、すごい!」
試しにロッテがその魔法陣を踏むと、一瞬の眩い光と共に、彼女の姿が消えた。
次の瞬間、街のギルド裏からロッテの元気な声が聞こえてくる。
「すごーい! 一瞬で着いた! お父さん、これなら特売の卵を割らずに運べるよ!」
「あはは、これで解決ね! ミラ、ありがとう!」
私は頭を撫でてやると、早速、迷宮攻略で手に入れた重たい戦利品を持って魔法陣に乗った。
一瞬の浮遊感の後、目の前には使い慣れた街の景色が広がっている。……今まであんなに苦労して、壁を壊したりジャンプしたりして帰っていたのは何だったのだろうか。
「……ふむ。転移魔法陣を生活の利便性のために使うとは、贅沢なことよ」
実家の庭先で、俺は優雅にカップを傾けていた。
実は俺も昨日、こっそり鑑定スキルでこの転移魔法陣を覗いてみたのだが、その術式は「空間の境界を薄くし、重力慣性を無効化し、かつ外部からの干渉を完全に弾く」という、神話級の転移ゲートだった。
本来なら国家の防衛拠点を繋ぐために使われるべき技術だが、この一家では「シチューをこぼさないための移動手段」として採用されている。
(まあ、これならリーゼたちが魔物を倒して帰ってくる時も、荷物を落とす心配がないな。でかしたぞ、我が娘よ)
「おーいミラ、朝ごはんのお礼に新しいおもちゃを探してきてやろうか? 街の古道具屋に『星を落とす星盤』ってのが売ってて――」
「お父さん。またガラクタ買うと、次はお父さんの部屋を宇宙空間に飛ばすよ」
「は、はい……すいません……」
家族に釘を刺され、俺は今日も肩身を狭くしつつ、最高に便利な天空の実家で美味しい朝食を摂るのだった。




