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伝説のSランク冒険者だった母が残した双子の娘、ダメ親父を養うために今日も森で無双しています  作者: 沼口ちるの


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ガラクタ(神話級)と、天空に浮かぶ我が家

「おーいミラ、お土産だぞー!」

ある日の夕方。森の奥にあるプール付きの超豪華な大邸宅の庭で、ベルンは末っ子のミラに元気よく声をかけた。

「お父さん、おかえりなさい。……また変なもの買ってきたの?」

庭のベンチで読書をしていたミラが、ジト目で俺の手元を見る。

俺が満面の笑みで見せびらかしたのは、泥にまみれた薄汚れたガラス玉だった。街のガラクタ商人から「古代のビー玉」として銅貨2枚で叩き売りされていた代物だ。

「失礼な! これはただのガラス玉じゃないぞ。光にかざすとキラキラして綺麗なんだ。ミラの新しいおもちゃにぴったりだろ?」

俺は「気のいいダメ親父」の笑みを崩さずにガラス玉を手渡す。

だが、俺がひた隠しにしている国一の鑑定スキル『森羅万象の神眼』は、この薄汚れたガラス玉の真の姿をとうに看破していた。

【天空島の心核(神話級アーティファクト):神代の天空都市を浮遊させていた動力源。莫大な魔力を注ぐことで大地を切り離し、周囲の生態系と重力を完全に維持したまま空に浮かべることができる】

本来なら、国中の魔術師が何百人もかり出されてようやく起動できるかどうかの、国宝どころか世界遺産レベルの超絶アーティファクトである。

「ふーん……。ありがとう、お父さん」

ミラはガラス玉を受け取ると、不思議そうにそれをじっと見つめた。

「でもこれ、なんだか魔力の通り道が詰まってるみたい。ちょっとお掃除するね」

言うが早いか、この国で五本の指に入るレベルの魔力総量を持つ規格外の天才幼女は、息をするように超高密度の魔力をアーティファクトへと注ぎ込んだ。

「……ん? あれ、なんか起動しちゃった」

「えっ」

ズズズズズ……ッ!!!!

突如として、大地が巨大な産声を上げた。

地震かと思ったのも束の間、俺とミラの目の前で、我が家の広大な敷地と、その周囲を囲む森が、ごっそりと「すり鉢状」に切り取られ、ふわりと宙に浮き上がったのだ。

「お、おおおお!? 空が、地面が遠ざかっていくぞ!?」

「あ、本当だ。お空飛んでる」

俺が慌てふためく(フリをする)横で、ミラは無表情のままパチパチと瞬きをしている。

アーティファクトの力とミラの完璧な魔術制御のおかげで、浮遊島となった敷地内には特殊な環境保護結界が張られていた。川の水は循環し、木々は一切枯れる気配がなく、それどころか重力制御のおかげで家のコップの泥水一つこぼれていない。大自然の生態系は、空の上に切り離されても「不思議と問題ない」状態に保たれていた。

「おーい、外が騒がしいけどなんかあったのー?」

エプロン姿のテオが、おたまで味見をしながらキッチンから顔を出す。

彼は眼下に広がるミニチュアのような森と街の景色を一瞥すると、「ふーん」とだけ呟いた。

「どうりで、さっきから風通しがいいと思った。ま、重力も空気も正常みたいだし、今日の夕飯作りには支障ないか」

12歳にして家事全般とあらゆるスキルを上位クラスで使いこなすこの万能少年は、実家が空に浮いたことよりも「シチューの火加減」の方が重要らしい。

「あ、テオにい。お夕飯なにー?」

「今日は姉ちゃんたちが狩ってきたドラゴンの肉を使った赤ワイン煮込みだよ」

かくして、我が家の「天空の城」化は、家族の誰一人としてパニックになることなく、あっさりと受け入れられてしまった。

――数十分後。

「ただいまーっ! ……って、あれ!?」

「お姉ちゃん、私たちの家、なくなってない!?」

ギルドでの依頼を終え、意気揚々と帰ってきた剣術使いのリーゼと拳術使いのロッテ。

彼女たちがいつも通り森の奥へ向かうと、そこには家があるはずの場所にポッカリと巨大なクレーターが開いていた。

「えっ、泥棒!? 家ごと持っていかれたの!?」

「ロッテ、上! 上にある!」

リーゼが指差す先、はるか上空の雲の隙間に、見慣れた自分たちの家と森がプカプカと浮いているのが見えた。

「ああもう! 絶対にお父さんがまた変なガラクタ買ってきて、ミラがやらかしたのよ!」

「テオのシチューが冷めちゃう前に帰らないと! お姉ちゃん、飛ぶよ!」

常人なら絶望してギルドに救助を求めるシチュエーションだが、常識を物理でねじ伏せる規格外の双子にそんな発想はない。

ロッテが母の形見である鉄のガントレットを構え、大地が砕け散るほどの踏み込みで真上へと跳躍する。それに続いてリーゼも、魔力を足に込めて空気を蹴り飛ばすように上空へすっ飛んでいった。

ドンッ! スタッ。

「ただいまー! もうお父さん、家を空に浮かばせないでよ! 帰るの面倒くさいでしょ!」

「そうだそうだー! 明日からギルドに行くとき、飛び降りなきゃいけないじゃん!」

空から降ってきた(物理的に跳ね上がってきた)双子の娘たちに文句を言われながら、俺は「ご、ごめんごめん! ガラクタ商人に騙されちゃったみたいだなぁ」と笑って誤魔化した。

下界では、「森が一つ消滅して空に浮かんだ!」とギルドマスターやSランクパーティーの面々がまたしても胃薬を飲んで大騒ぎしているだろうが……。

空気が澄んで景色が良くなった「天空の我が家」で囲むテオの夕飯は、今日も最高に美味しいのだった。

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