伝説の誕生、あるいは特売日と物理無双
王都から遠く離れた『終焉の荒野』にて、王国軍の精鋭たちは絶望に震えていた。
神代の封印が突如として破られ、三体の厄災——不死の呪いを撒き散らす『リッチ』、物理攻撃を無効化する『デーモンロード』、そして山を消し飛ばすブレスを吐く『双頭龍』が同時に解き放たれてしまったのだ。
「……終わりだ。せめて我らが盾となり、王都の民を逃がす時間を稼ぐのだ……ッ!」
騎士団長が死を覚悟し、魔術師たちが決死の結界陣を敷こうとした、その時。
「ちょっとあんたたち!! 道塞がないでよ!!」
凄まじい土煙を上げて、一人のうら若き女性冒険者が戦場に乱入してきた。
腰には一振りの長剣を提げ、両手には武骨な鉄のガントレット。後に双子の娘たちに受け継がれ、常人では触れることすらできない国宝級のアーティファクトとなる武器を装備した、若き日のエレナである。
「キシャアアアッ!」
乱入者に激昂したリッチが、問答無用で『即死の広域呪い』を展開する。
しかしエレナは、舌打ちをしながら長剣を無造作に振り抜いた。
後に「深森の魔女」シルヴィアの超級魔術すら物理的に両断してみせたそのデタラメな剣圧は、形のない呪いの魔法陣ごと空間を真っ二つに切り裂き、ついでにリッチの頭骨を粉砕した。
「今日はお肉屋さんの特売日なのよ! 急いで帰らないと、私が護衛してる新米行商人がまた変な壺売りにつかまっちゃうじゃない!!」
「愚カナ人間ヨ。我ニ物理ハ効カ——」
空からデーモンロードが神の如き威圧感で降臨し、絶対的な物理無効バリアを張る。
「物理が効かないなら、効くまで殴るだけよ!!」
エレナは大地がすり鉢状に陥没するほどの踏み込みから、渾身の右アッパーを放った。後に娘のロッテが古代防衛ゴーレムをスクラップにしたのと同じ、圧倒的な暴力。
絶対防御のバリアはガラスのように砕け散り、デーモンロードは断末魔を上げる暇もなく宇宙の彼方(?)へと吹き飛んでいった。
『グオオオオオッ!!』
残された双頭龍が、焦ったように二つの口から超高温の火炎ブレスを放つ。
「あーもう、火加減がなってないわね!」
エレナはブレスの豪雨を正面から突っ切り、炎の中で燃え盛る鉄のガントレットで双頭龍の二つの顎を乱暴に掴むと、「ガッツン!」と強引に同士討ちの頭突きをさせて気絶させた。
「よし、討伐完了! ドラゴンの肉は持ち帰ってシチューにしようっと!」
王国軍が何日もかけて総力戦で挑むはずだった三体の厄災は、特売日を逃したくない一人の冒険者によって、ものの三分で更地にされてしまった。
「あ、あんた……一体何者だ……?」
腰を抜かす騎士団長に、エレナは長剣を鞘に納めながらニカッと笑った。
「ただの冒険者よ! それより、この討伐報酬ってすぐ換金できる? 早く街に戻りたいんだけど!」
後日。
このデタラメすぎる戦果を受けたギルド本部は、彼女を国や貴族のしがらみから守り(そして暴走を監視し)つつギルドに縛り付けるため、特例中の特例として彼女に『Sランク』の称号を与えた。
しかし、当の彼女は「特売の卵を買い間違えそうだから」という理由で討伐任務を途中で帰ってしまうような、徹底したマイペースを生涯貫くことになる。
数年後。彼女の遺した双子の娘たちが、「迷宮のパズルを解かずに壁ごと粉砕して一直線の道を作る」という暴挙に出た際。
報告を受けたギルドマスターをはじめとする古株たちは、天を仰いでこう呟いたという。
「……あぁ、やっぱりあの母親の娘だな。世界の常識より、今日の夕飯のほうが重いんだ……」と。




