超難関迷宮と、物理(ストロング)スタイル
「お願いだ! テオ君を……いや、テオ様をギルドに返してくれぇぇっ!」
冒険者ギルド『琥珀の星』の床に額を擦り付けんばかりの勢いで、初老のギルドマスターが叫んだ。
泊まりがけの依頼から帰ってきたばかりの私たち、双子の姉リーゼと妹ロッテは、その必死すぎる姿にドン引きしていた。
「だーかーら! テオは今日、特売の卵を買いに行く日だから無理なの! 冒険者なんかやってる暇ないの!」
「それに、テオに怪我でもされたら私たちのご飯どうするの!? ギルマスが代わりに美味しいシチュー作れるの!?」
私とロッテが正論(?)で詰め寄ると、ギルドマスターは涙目で訴えかけてきた。
「作れないけど! でも、今どうしても『機巧の古代迷宮』の攻略が必要なんだ! あそこは複雑な古代暗号と緻密な罠だらけで、並の冒険者じゃ進むことすらできない。あらゆる技能をマスタークラスで扱えるテオ君の知力と技術が、どうしても……ッ!」
「あー、もう! 分かったわよ!」
私は腰に提げた長剣——お母さんの形見——をポンと叩き、ため息をついた。
稼ぎ頭である私たちが、こんなところで油を売っている場合ではない。お父さんがまた変なガラクタを買う前に、しっかり稼いでおかなければならないのだから。
「テオは絶対貸さない! その代わり、私たちがその迷宮、パパッと攻略してきてあげるから!」
「えっ!? い、いや、君たちの戦闘力は認めているが、あそこは頭を使わないと扉一つ開かないギミックだらけで……」
「いいから! 報酬は弾んでよね!」
私たちはギルマスの制止を振り切り、さっそく問題の『機巧の古代迷宮』へと向かった。
迷宮の入り口は、重厚な石造りの門だった。
その前には、星や月のマークが描かれた複雑な石板のパズルが設置されている。
「ええと、ギルマスが言ってた暗号ってこれかな。特定の順番で魔力を流し込まないと開かないとか……」
「お姉ちゃん、そんなのやってたら夕飯に間に合わなくなっちゃうよ!」
ロッテが両手の鉄のガントレットを打ち鳴らした。
確かにその通りだ。私はパズルからスッと身を引き、長剣の柄に手をかけた。
「だね。じゃあ……『シッ!』」
お母さん譲りの美しい太刀筋から放たれた、規格外の魔力を纏った不可視の剣圧。
「謎解きをしなければ絶対に開かない」はずの重厚な古代の石門は、パズルごと豆腐のように斜めにスッパリと両断され、ズシンと音を立てて崩れ落ちた。
「よし、開いた! 行こうロッテ!」
「うんっ!」
私たちは土煙を上げながら、迷宮の中へと猛ダッシュする。
道中、壁から無数の毒矢が飛んでくるトラップが作動したが、ロッテが「邪魔ぁっ!」と拳の風圧だけで矢をすべて吹き飛ばし、ついでにトラップが仕掛けられていた壁ごと粉砕した。
迷路のように入り組んだ通路も、私たちには関係ない。
「右に行く? 左に行く?」
「んー、ボスの魔力反応、まっすぐ奥からするね! 壁ぶっ壊して最短距離で行こっ!」
「オッケー!」
ドォン! ガシャアアアン!!
謎解き? 罠の解除? そんなものは「器用貧乏」なテオや、天才のミラの仕事だ。
私たち双子の主人公に与えられた役割はただ一つ。障害物を物理でぶっ壊し、稼ぐことである。
分厚い迷宮の壁を何枚もぶち抜き、直線に貫通工事を行いながら、私たちはわずか10分で最深部のボス部屋へと到達した。
『侵入者、発見。排除、開始シマス――』
最深部で待ち構えていたのは、ミスリル合金で覆われた巨大な古代防衛ゴーレムだった。魔法を反射し、物理攻撃を無効化する厄介な性質を持っているらしいが――。
「ロッテ! 装甲の隙間、狙える!?」
「もちろん! 関節の駆動部、全部もらうね!」
私は長剣に膨大な魔力を込め、ゴーレムの頭上から大地を割るような一撃を振り下ろした。魔法反射の装甲ごと、ゴーレムの体勢が大きく崩れる。
そこに、ロッテがロケットのような初速で飛び込み、むき出しになった関節部に全体重を乗せたアッパーを叩き込んだ。
国宝級のアーティファクトの力と、それを自在に操る双子の圧倒的な暴力。
「物理無効」の常識を上回る「絶対的な物理攻撃」の前に、古代の最高傑作は一瞬にしてただのスクラップへと変わった。
「ふぅ! 楽勝だね!」
「うん! あ、このゴーレムの核、高く売れそう! これでお父さんに新しい靴でも買ってあげようか!」
私たちはホクホク顔でドロップアイテムを回収し、自分たちが壁をぶち抜いて作った「一直線の帰り道」を通って、意気揚々とギルドへ帰還したのだった。
「……えーと。つまり君たちは」
ギルドの受付カウンターで、ギルドマスターが引き攣った顔で報告書を握りしめていた。
「パズルを解かずに扉を斬り捨て、罠を壁ごと粉砕し、迷路の壁をすべてぶち抜いて、ボス部屋までの『直通のトンネル』を開通させてきた、と……?」
「うんっ! これで次の冒険者から、すっごく攻略しやすくなるよ! 感謝してね!」
ロッテが無邪気に笑うと、ギルドマスターはガクッと膝から崩れ落ちた。
「歴史的な……歴史的な古代遺跡が……ただの風通しのいい更地に……」
「ほら、お姉ちゃん! 早く帰らないとテオの卵焼きがなくなっちゃう!」
「あ、待ってよロッテ! ギルマス、報酬は口座に振り込んどいてねー!」
真っ白に燃え尽きたギルドマスターを放置して、私たちは元気よくギルドを飛び出した。
やっぱり、小難しいことは性に合わない。私たちは剣と拳で、明日も元気にご飯のために稼ぐのだ!




