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伝説のSランク冒険者だった母が残した双子の娘、ダメ親父を養うために今日も森で無双しています  作者: 沼口ちるの


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裏方少年の1日冒険者体験と、残された陳情書

「ごめんね、テオ! ギルドからどうしてもって頼まれて、3日だけ隣町のダンジョンまで行ってくる!」

「テオのご飯が3日も食べられないなんて死んじゃうけど……特急で終わらせて帰ってくるからね!」

そんな言葉を残し、剣術使いの姉リーゼと、拳術使いの妹ロッテが泊まりがけの依頼へ旅立ってから、半日が過ぎた。

「さて。今日の夕飯はどうしようかな」

森の奥にある実家のキッチンで、俺、12歳のテオは腕を組んでいた。

姉ちゃんたちは不在だが、父さんとミラの分は作らなければならない。せっかくだから、今日は市場に出回らない『水晶キノコ』を使ったシチューにしようと思い立った。

だが、水晶キノコが生えているエリアはギルドの管轄区画であり、無断での立ち入りや採取は密猟になってしまう。

「仕方ない。今日だけ、臨時で冒険者登録するか」

俺はエプロンを脱ぎ、動きやすい軽装に着替えて街のギルド『琥珀の星』へと向かった。

「ええと……テオ君、だね。身分証の発行とEランクの登録が終わったわ。まずは初心者用の『薬草採取』と『スライム3匹の討伐』のチュートリアル依頼を受けてもらうことになるけれど……」

受付嬢のお姉さんが、心配そうに俺を見る。

無理もない。俺はいつも市場で買い物袋を提げているだけの、ただの「家庭的な少年」として認識されているからだ。

「分かりました。サクッと終わらせてきます」

「あ、待って! 初めての森は危険だから、そこのベテラン教官と一緒に――」

俺はお姉さんの言葉を最後まで聞かず、受付に置かれていた初心者用の粗末な鉄剣を借りて、颯爽とギルドを飛び出した。早くしないと、夕飯の仕込みに間に合わなくなる。

森に入った俺は、すぐさま『探知(錬金術ベース)』と『風の魔力ウィンド・サーチ』を複合させた広域索敵を展開した。

すべてを上位クラス(Bランク相当)でこなせる俺にとって、複数のスキルをノイズなく同時に走らせるなど息をするより簡単だ。

「よし、あそこの洞窟に水晶キノコの群生地があるな。ついでに、薬草も……『真空刈り』」

無詠唱で放たれた風の刃が、周囲の指定した薬草だけを根を傷つけずに完璧な状態で刈り取り、俺の足元へとふわりと集める。

その直後、茂みから初心者の登竜門であるスライムや、ついでとばかりに中級魔物であるキラーウルフが数匹飛び出してきた。

「邪魔だな。……『流水の型・参』」

俺は借り物のナマクラ剣を抜き、最小限の動きでウルフの急所を的確に斬り伏せた。続いて、空いた左手から『雷撃ライトニング』を放ち、スライムたちを一瞬で蒸発させる。

「ふぅ……。やっぱり、俺には姉ちゃんたちみたいな一撃必殺の破壊力はないな」

俺はキラーウルフの毛皮を綺麗に剥ぎ取りながら、小さくため息をつく。

剣術、魔術、体術、錬金術。すべてにおいて基本が極限まで洗練されている俺の動きは、一切の無駄がない。だが、本人の自己評価はあくまで「突出した才能のない器用貧乏」のままである。

俺は目的の水晶キノコをたっぷり採取し、わずか30分でギルドへと帰還した。

「……え?」

受付嬢のお姉さんは、俺がカウンターに置いた麻袋の中身を見て、完全にフリーズしていた。

「チュートリアルの薬草と、スライムの討伐証明部位です。あと、道中邪魔だったキラーウルフも数匹狩ったので、素材の買い取りお願いします。俺は水晶キノコだけ持って帰れればそれでいいので」

「ちょ、ちょっと待って! この薬草、錬金術のマスタークラスが採取したみたいな完璧な保存状態なんだけど!? それにキラーウルフって、Cランクパーティーが束になって狩るような魔物よ!? それを、たった30分で一人で……!?」

受付嬢の悲鳴に、ギルド内にいた冒険者たちが一斉にざわめき始める。

奥からギルドマスターが血相を変えて飛んできた。彼は俺が提出したキラーウルフの毛皮を一目見るなり、目を見開いた。

「傷ひとつない、完璧な一太刀での即死……それに、この魔法の痕跡。基礎の極致だ。おい少年! 君、誰の元で修行した!? 今すぐ私専属の特待生として、Aランクパーティーのサブリーダーから――」

「あ、すみません。俺、明日の朝は洗濯物を干さなきゃいけないし、床掃除もあるんで。冒険者は今日で引退します」

「…………はい?」

俺がギルドの身分証をあっさりとカウンターに返却すると、ギルドマスターも受付嬢も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

「いやいやいや! 君みたいなダイヤの原石、ギルドが放っておくわけないだろう! 君なら数年で国を背負う冒険者になれる!」

「国より、俺は家族の胃袋と健康を背負っているので。それじゃ、夕飯の支度があるので帰りますね」

俺は借りていた鉄剣をそっと置き、キノコを大事に抱えてギルドを後にした。

背後で「待ってくれぇぇぇ!!」というギルドマスターの絶叫が響いていたが、夕飯のシチューが冷めるよりはマシだ。

――それから、3日後。

「ただいまーっ!! はぁ、疲れたぁ! 早くテオのご飯食べたい!」

「あれ、ギルドのみんな、どうしたの? なんかすごい深刻な顔してるけど」

泊まりがけの依頼から帰還した双子の姉妹、リーゼとロッテが『琥珀の星』の扉を開けた瞬間。

ギルドマスターをはじめとするベテラン冒険者や受付嬢たちが、土下座の勢いで双子にすがりついてきた。

「おおお、リーゼ君! ロッテ君! 頼む、一生のお願いだ!!」

「君たちの弟さん……あのテオ君を、なんとか冒険者に復帰するように説得してくれないか!?」

「あの子はギルドの……いや、この国の宝よ! 家事なんかさせてる場合じゃないわ!」

涙ながらに分厚い「陳情書」を押し付けられた双子は、ポカンと口を開けた。

「「……は? テオが、何やったの?」」

自分たちがいないたった3日の間に、器用貧乏なはずの弟がなぜかギルドの伝説(ルーキー枠)になりかけている。

その事実を全く知らない双子の困惑した声が、ギルド内に空しく響き渡るのだった。

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