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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第97話 いや8の力使え。

体力測定。


握力。


「僕の二つ名って知ってる?」

「いや、知らねぇな」


握力計を持つ吉川に応える。


「——虚弱の吉川」


そう言って吉川は力を込めた。


「おーまさにその通りだな」

お前がそんな呼ばれ方してるの聞いたことねぇけど、と付け加える。


32kgだったぞ、と吉川に伝える。


「よーし、じゃあ次は僕の番だね」

「いや、順番的に俺だろ」


どこからともなく寺田が入ってきた。


「まぁそれなら……」

「なんか不服そうな感じだけど、俺がずっと待ってたからな」


俺の後でやれ、と言って吉川から握力計を受け取る。


「楠本くんもそういえば二つ名あったよね」

「俺本人が初耳なんだが」

「なんだっけ、前頭前野とかだった?」

「寺田、二つ名の意味ちゃんと分かってるか?」


寺田の言葉は聞き流し、思いっきり力を入れる。


45kgだった。


「普通くらいだね」


僕が本物の握力っていうのを見せてあげよう、と言って俺から受け取る寺田。


偽物の握力ってあるか?


「僕が本気でやってこの握力計壊れないかな?」

「めっちゃ自信あるじゃん」


と吉川。


「僕の中学校の頃の二つ名を教えてあげよう」

「そうそう二つ名なんて付けられることないけどな」


一呼吸置いて寺田は言った。


「——ベジタブルの寺田」


寺田は力を籠める。


その二つ名で握力測定の何が保障されてるんだ?


「僕にかかればこんなものだよ」


そう言って寺田は、こちらに測定結果を見せてきた。


40kgだった。



その物言いで俺より低いことある?





長座体前屈。


「今やってるヤツって長座体前屈だろ?」

「そうだな」


瀬野に対して相槌を打つ。


「最初に聞いたとき、長座 対 前屈だと思ったんだよな」


バーサス?


「最後にちょっと勢いをつけて記録を伸ばすヤツとかあるよね」


近くにいた吉川が話に入ってきた。


たしかにあるな。

大げさにやり過ぎない程度にするのがコツだ。


「もし良い記録を出したいんだったら、アレをやらない手はないでしょ」

「日頃からストレッチをするっていう正攻法もあるけどな」

「じゃあ今からやるけど、楠本くんは勢いをつけてしないの?」

「……しないとは言ってないだろ」


俺は最後に勢いをつけ、2センチだけ記録を伸ばした。





上体起こし。


「上体起こしってさ、だいぶ距離感近くなるわけじゃん」

「……」

「だから、もしラブコメでヒロインと主人公がやったら面白そうだよね」

「……おい、今俺やってるんだから話しかけるなって」


ゼーハーしながら吉川に応える。


俺は吉川とペアだった。

コイツ、ちゃんと回数数えてるよな?


すぐに終了して入れ替わる。


「よーし、良い記録を出すために8の力を出そう」

「それ、最大なのか?」


8がマックスってことある?


「いや、ちゃんと8使うって!」

「マックスはどのくらいなんだよ」

「わかったわかった、ちゃんと8使うから余計なこと言わないで?」


余計なことを言ってるのはお前だろ。


「あー本当は9使うつもりだったけど、楠本くんのせいで8しか使えないかも」

「俺、関係なくね?」


9があるってことは8はマックスじゃないのか。


上体起こし開始。

上体起こし終了。


「うーん、今のは7だったな」

「いや8使え」




20メートルシャトルラン。


地獄のシャトルランが始まった。

最初はゆっくりだから吉川と話をしながら歩く。


「シャトルランの『シャトル』って何なの?」

「俺も良く分からないけど、スペースシャトルで『シャトル』って使うよな」


20メートルを往復するっていうニュアンスなんじゃないか。


「もう僕、燃料切れ起こして空中分解しそうなんだけど」

「ここ地上だけどな」


スペースシャトル、まだ発射までこぎつけてねぇぞ。


「ノルマは100回かな」

「大台だな」


三ケタは運動をしていない俺たちにとってかなり大変だ。


「だから僕と楠本くんの合計で100回を目標にしよう」

「シャトルランの回数で他のヤツと合計することあるか?」


団体種目じゃねぇぞ。


「僕が10で楠本くんが90はどう?」

「俺の負担重すぎだろ」

「じゃあ妥協して、僕が20で楠本くんが100かな」


俺だけでノルマ達成できるじゃん。


しばらく耐えてから、俺たちは途中離脱した。


吉川は80回、俺は92回だった。

そこそこいい成績を残せたから満足だ。


残っているヤツらの様子を眺める。


「寺田くんが残っているのはわかるけどさ、なんで瀬野くんも100回超えてるの?」


こっそり残っている瀬野を俺たちは眺める。

まだ余裕そうな表情してるな。


……いや、瀬野って普段から表情変わらないからよくわからねぇわ。


「瀬野って中学の頃は運動部だったらしいぞ」

「えっ、そうなの?」


なんのスポーツをやってたかは覚えてないけど。


「まさか瀬野くんも”そっち側”だったとは……」

「思わぬ伏兵がいた、みたいな話し方だな」


でもたぶん、瀬野が話をしているときに吉川もいたぞ。



そしてシャトルランが終わった。

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