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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第98話 ちょっと背後霊になっておくから気にしないで。

「そういえば秋谷さん、最近あの人と話してないよね」

「あの人って?」


言わなくても誰か分かるけど。


「ほら文化祭のときに一緒に周るって言ってた人いたじゃん」

「あー吉川くんね」


そうそう、と頷く女の子。



玄関からバス停に向かう道中。

1年のときに同じクラスの女の子と話をしていた。


バス通じゃないから、とりあえず数分間しのげば大丈夫そう。


「クラス替えがあってから秋谷さんがその人と喋ってるの、一回も見たことないんだけど」

「まぁ、そんなに話す感じじゃないし」

「でも1か月くらい経って一回も話さないってことある?」


今日はやけに踏み込んでくるな。


「そんなもんじゃない?」

「いや、怪しいね」


断言されたんだけど。


「正直、秋谷さんのことなるべく詮索しないようにしてたけどさ、」

「うん、こっちの認識と大分齟齬があるね」


遠まわしで結構聞かれてきたぞ。


「まぁまぁ、でも吉川くんだっけ?あの人にちょっと聞いてもいい?」

「何を?」

「いや特に何も考えてないんだけどさ」


ノープランで話すことのできるコミュニケーション能力は普通に羨ましい。


「まだ4月だから席替えとかしないでしょ?」

「ないだろうね」

「明日の授業でグループワークありそうじゃん」

「多分ね」

「そのタイミングでちょっと話してみようかなって」


別にそんな深いこと聞くつもりないし、と付け加える。


「まぁグループワークの中で、だもんね?」

「他だと話したらダメな感じ?」

「いや、別に?」

お好きにどうぞ、と私は呟いた。


そして私たちは別れた。




グループワークの時間。


私の視野の隅には吉川くんと昨日の女の子がいる。

先生が少し遠くに言ったタイミングで彼女が吉川くんに話しかけていた。


グループワークだからと言って、知らない人に積極的に声をかけることはできない。6人のグループで知っている人がいれば、その人とだけ話すということも普通にある。だからこそ、あの子が吉川くんと話していることが周りからどう映るのか考えていた。自分のグループワークも真面目にしつつだったので、そこまで向こうのことを考えることはできなかったけど。



吉川くんが他の子と話すのを見て、普通にいやだなって思った。




昼休み。


「今日の授業中に吉川くんとちょっと話したんだけどさ」

「だれだっけ?」


グループの中の女の子が尋ねる。


「ほら文化祭の時に秋谷さんと」

「あぁあの人ね」


声のボリュームを小さくして話す。


一緒にご飯食べてるけど、私には聞こえていいの?


「なんかめっちゃ普通の人だったんだけど」

「そうでしょうね」


私は頷く。


「まぁぱっと見普通の人だもんね」

「いやでもさ、なんか前見たときよりかっこよくなってない?」


あ、それ私も思った!と話が盛り上がる。

多分、吉川くんのほうにまで聞こえてるぞ。


「秋谷さんはどう思う?」

「どうって?」

「吉川くんが最近かっこよくなってるんじゃないかって」

「うーん、まぁ長い目で見ればそうなんじゃない?」

「えー、なにその古参ですよ、みたいな感じ」

「3年って結構長いからね?」


中学生から高校生になるくらいなんだから、それは容姿だって変わるだろう。


私もかなり変わったし。


「秋谷さんって中二から、その吉川くんと同じクラスだった?」


『その』吉川くんって、良く分からない代名詞が付いてるな。


「まぁ中二からだね」

「それから3年でしょ?」

「うん」

「え、おかしくない?」


別の女の子が口にする。


こういうとき、明空さんが良い感じに話を逸らせてくれるんだけど、今日は深山さんたちと一緒にご飯を食べている。


私はそこまでうまく話を変えることができない。


「まずさ、文化祭で秋谷さんが誘ったじゃん」

「誘ったね」


それは疑いようのない事実なので頷く。


「それまでは普通に仲の良い友だちって感じでしょ?」

秋谷さんが前、そう言ってたよね?と確認された。


それも私が前に言ったことがあるので、事実として頷く。

仲の良い友だちっていうのは主観だけど。


「長すぎない?」

「まぁそんなものだと思うけど」

「いやいや、3年って結構長いからね?」


さっき私が言ったことをそのまま返された。


少しずつ、包囲されてる感じがする。

ここは分が悪い。



ちょうど昼休みを終えるチャイムが鳴った。


「えーもう終わり?」

女の子の1人が呟く。


助かった。


でもまだ安心できない。

次の授業は体育だから、更衣室で聞かれる可能性は高い。




更衣室。


「やっぱりさ、3年間それなりに仲良くて付き合ってないっておかしいでしょ」


やっぱり聞かれた。

しかも教室じゃないからかなり直接的。


「実際、付き合ってはいないわけだし」

「本当に付き合ってないの?」


他の人に言わないからさ、と付け加える。


「いや、ここで言ったら皆わかっちゃうじゃん」


そういうと周りが静かになった。


「いや、マジで付き合ってないからね?」

「でもさ、普通に吉川くんてかっこよくない?」

「だよね、なんか雰囲気イケメンって感じ」


なんか真面目そうだし、良い感じじゃない? と周りの女の子が言った。



ちょうど私が女子更衣室に出るのと入れ違いで深山さんと夜野さんが入ってきた。

今入ってきたのであれば、さっきの会話は聞かれていないはず。


ほっと胸をなでおろしつつ、私は外に出た。





「さっきの話はしないでね?」

「当たり前じゃん」


そういって明空さんは笑う。

明空さんが私に近寄ってくるときはあんまり良い予感がしない。


私たちはグラウンドに向かう途中だった。


「昼休みの話はオッケー?」

「まぁいいけど」


大した話はしていなかったし。


「秋谷さんって中2から吉川くんと同じクラスだったんだよね?」

「うん」


さっきも聞かれたことだ。

私はすぐに頷いた。


「中1のときはどうだったの?」

「中2?」

「うん」

「中1は別のクラスだったし」


違うクラスの生徒ってだけで、全然関わりはなかった。


「へぇー」

「え、なんか意味深な感じだけど」

「いや、そんな感じじゃないよ?」


なんか色々考えてそうな表情してるけど。


「え、なんか言いたいことあったら言って欲しいんだけど」

「シリアスなヤツ?」


そう聞かれたらシリアスな雰囲気出せなくなるじゃん。


普通に興味だよ、と呟く。


「私もよく覚えてないんだけどさ」

「うん」

「秋谷さんって吉川くんからラブコメを布教されたって言ってなかったっけ?」

「よく覚えてるじゃん」


記憶力には自信アリ、と冗談っぽく言う明空さん。


実際、自分で言ったかどうか覚えてないけど、事実としては正しい。


「それをちょっと聞きたくってね」

「ふーん」


それだけだよ、と明空さん。


それだけじゃなさそうな雰囲気は出しているけど、グラウンドにはすでに男子がいる。


これ以上話はできないので、私たちは会話を切り上げた。




体育は授業科目として好きじゃない。

そもそも、スポーツ自体があまり好きじゃない。


それなりに真面目に参加しつつ、時間が過ぎるのを待った。



「夜野さん、めっちゃ堂々とサボってるじゃん」

「意外と先生ってこっち見てないんだよ」


だから普通にサボっててもオッケー、とよく分からないことを夜野さんは呟いた。


「ていうか秋谷さんと話すの大分久しぶりかも」

「1年のときのクラスの人も多いから」


夜野さんと深山さんとはあんまり話せていない。


「それにしても夜野さんって授業のときはちゃんと話すんだね」

「もちろん」


私ってどう映ってるの?と尋ねられた。


ずっとスマホを見てるチャットボットみたいなイメージ。

でも流石にそれを本人に言うのは失礼か。


「私ってずっとスマホを見てるチャットボットみたいって思われてない?」

「びっくりするくらい具体的だね」


完全正答が出てきたんだけど。



その後、ぽつぽつ夜野さんと話をしながら時間を潰した。



体育が終わったあとの女子更衣室は色んな匂いで地獄みたいな感じになる。


それが嫌だからさっさと抜け出すけど、男子はまだ教室で着替えているはずだから手持無沙汰になる。そういうときは自動販売機に行ってゆっくり飲み物を飲みながら時間を潰すことが多い。


「秋谷さん、久しぶりだね」

「あ、深山さんじゃん」


深山さんも自動販売機に来ていた。


「同じクラスになったからって、そこまで話す機会ないよねー」

「まぁ一年のときのクラスの人たちもいるし、すっぱり切ることも難しいよね」


そういって深山さんは200ミリリットルのペットボトルを購入する。


ガコン、と音を立ててペットボトルが落ちた。


「深山さんもそれ買うんだ」

「うん」


次の授業で終わりだから、これくらいの方が良いんだよね、と言って取り出す。


まぁ、深山さんの意見も間違ってないか。

あまり気にせず話を続ける。


「流石に今教室に行ったら、男子たち着替えてるよね」

「あの時間、本当に気まずいよねー」


そういって深山さんはペットボトルに口を付ける。


「っていうかあれさ、他のクラスの女子たちにも着替えてる様子って見られるんじゃない?」

「そういえばそうだね」

逆の立場だったら、めっちゃ恥ずかしいかも、と深山さん。


そんな他愛のない話をしつつ、ちょうどいい時間になったので教室に向かう。

2-Bの教室に入ってから、「じゃあね」と言って深山さんとは別れた。


吉川くんの机にある200ミリリットルのペットボトルを一瞥してから、席に座った。





次の授業ではゴールデンウイークにあたって、いつもの週末より多めの宿題を出されて、授業が終わった。



「じゃあ秋谷さん、またねー」

「うんバイバイ」


手を振って別れる。


私の周りの女の子は何かしらの部活に入っている。

テニスがほとんど。


そのため、ひとりで帰ることが多い。


ゴールデンウイーク前だから、本でも借りに行こうかなと思って図書室に向かった。


私は周りの子に本を読みそうなイメージじゃない、と言われる。

まぁ今の容姿は文学少女って感じじゃないか。


図書室に着き、ドアを開ける。

貸出の席に座っていたのは明空さん。


ちらっとこっちを見て、軽く手を挙げた。

私も同じように軽く手をあげる。


以前、吉川くんと一緒に日本の作品を図書館で読んだことを思い出し、日本の似たようなジャンルが陳列されているコーナーに足を運んだ。


図書室だからか、ちょっと昔の作品のほうが多い。

正直、どの作品が良いのか全くわからなかった。


「図書室ってさ、スマホ使っていいんだっけ?」

「マナーモードにしておけば注意はされないと思うよ」


図書の先生も校内でスマホを使うのは黙認してる感じらしい。


ありがと、と言って元居たコーナーに戻ろうとすると--


「私もちょっと気になるんだけど」

「何が?」

「だって秋谷さん、さっき日本の作品のところいなかった?」

「いたね」

「それって珍しいじゃん」


ちょっと背後霊になっておくから気にしないで、と言われた。

背後霊になるって言われたの初めてなんだけど。


気にしないで面白そうな作品を検索し、図書室にあるか探した。


「・・・ていうか、図書委員の仕事はいいの?」

「今って全然人来てないじゃん」

「まぁね」


実際、私と明空さん以外の生徒はいなかった。


「他の生徒が来たら戻るけど、たぶん今日は来ないし」

「なるほどね」


それは別に良いんだけどさ、と言って明空さんは話を変える。


「なんで日本の作品を探しているの?」

「なんとなくかな」

「え、海外作品とは離別した感じ?」

「そもそも海外作品を読んでるのもなんとなくだから」


そんな深い理由はない。


「前になんとなく『人間失格』を読んだのね」

「なんとなくで読む作品じゃなくない?」


それは正しい。


「まあそれで、なんかいい感じの作品はないかなって思って」

「で、良い感じの作品はあったの?」


まぁ何冊か、と言って私は本を見せた。


「全然知らない作品だけど面白そうだね」


読み終わったら感想教えて、と言われた。



*



自分の部屋に戻ったとき、秋谷さんから連絡が来ていたことに気が付いた。


『吉川くんさ、ゴールデンウィークのどっか時間ある?』


『まぁどこかは空いてるね。なんで?』


『前、図書館に行って本読んだじゃん。あれが結構楽しかったからもう一回やりたいなって』


『いいね。じゃあどうする?』


『私、ゴールデンウィークに外出したくないんだよね。吉川くんもできれば外に出たくない感じじゃない?』


『良く分かってるね。まさにその通り』


『それならさ、電話繋いで同じ時間に読めばいいんじゃないかなって思ったんだけど、どう?』


『そっちの方が良いかも』


『前は私が好きなジャンルだったからさ、次は吉川くんが好きなラブコメで、まだ読んだことのない作品が良いかも』


『オッケー、じゃあちょっと良い感じの作品を探しておこうかな』


『助かる。時間は後で決めよう』


『僕は基本的にいつでも大丈夫だよ』


『じゃあ私が決めても良い?』


『いいよ』


『それならどこかの夜から、とかでも大丈夫?』


『うん』


『じゃあ具体的な日にちは後で連絡するから』


『オッケー』


『じゃあおやすみ』


『おやすみー』


『ここで話続けたらびっくりする?』


『現在進行形でびっくりしてるけど。まだ何かあるの?』


『とりあえず吉川くんには良作を選んで欲しいから、ここでおしまいってことで』


『じゃあおやすみ』


『おやすみー』

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