第96話 そんな野菜ジャンキーいねぇだろ。
「はぁー……」
「どうしたの?」
「世界っていうのは、なんでこんなに不条理なんだろうって」
寺田が嘆いている。
そこまで興味ないけど一応聞いておこう。
「何が?」
「野菜を食べないと不健康になるっていうデマ、みんな信じてるわけでしょ?」
「デマじゃねぇよ」
科学的根拠はあるだろ。
寺田の弁当には申し訳程度の野菜があった。
「寺田くんは野菜を食べたくないって感じ?」
「食べたくないんじゃなくって、食べる必要がないから食べてないってだけ」
「それが嫌いってことだろ」
野菜が嫌いなヤツとかそういうよな。
「ていうか、皆は嫌いな食べ物とかないの?」
「正月とかに出てくるヤツなんだっけ?」
あの中に嫌いなヤツがあったんだけど、と言ってスマホで調べる吉川。
「あぁ、数の子だ」
あれが嫌いらしい。
俺も好きではないな。
「瀬野くんは?」
「俺はアボカド」
初めて食べたときの印象があんまり良くなくて、と瀬野は説明する。
「楠本くんは牛系男子だもんね?」
「そんなこと言ったことねぇだろ」
俺が自分のこと牛系男子って言った記憶ねぇぞ。
犬系男子はともかく、牛系男子ってただのオスの牛だろ。
「でも楠本くんって嫌いな食べ物ないんでしょ?」
「ないな」
「この前一緒に帰ってたとき、道端の雑草を見て涎たらしてたもんね」
「なんだその雑な嘘」
何でも食べると言っても、見境なく口に入れてるわけじゃねぇぞ。
そもそもなんだけどさ、と言って寺田は続ける。
「野菜以外からでもほとんどの栄養素って取れるでしょ?」
「まぁできるだろうな」
瀬野が頷く。
「わざわざ野菜を経由して栄養素を摂取することに快感を覚えているヤツがいることが気に食わないんだよね」
そんな野菜ジャンキーいねぇだろ。
「例えばさ、サプリとかもあるわけじゃん」
あれで野菜を食べる分の栄養を取れば問題ないと思うんだけど、と寺田。
「でもああいうのって『主食、主催、副菜を基本に、食事のバランスを』みたいなこと書いてあるよな」
「出ました、僕の嫌いな言葉ランキング上位」
この言葉って、内閣府発信のフレーズだったと思うんだけど。
「野菜を食べる人にとっては野菜で取れる栄養をどうして食事のDLCで取るのって思うかもしれないけど」
栄養を摂取するんだったらサプリの方が直接だから、と寺田は言い切った。
「それで、寺田くんはサプリを毎日飲んでるの?」
「いや? 飲んでないけど」
「じゃあずっと不健康のままじゃねぇか」
コイツはさっきから何を言ってるんだ。
「でも小中は給食があったわけだろ?」
「もちろん」
寺田が瀬野に頷く。
「その時はどうしてたんだ?」
「給食中は歯を食いしばって食べてたね」
ちゃんと味わって食べてるじゃねぇか。
「野菜が嫌いだったら、好きな料理の中に入れるみたいなやり方あるよね」
「カレーのなかに嫌いな食べ物を混ぜれば食べられる、みたいなヤツ?」
「そうだね」
「そんな予防接種の亜種みたいなやり方で野菜を食べたくないんだけど」
いや、食事における寺田の流儀は知らねぇよ。
「ちなみに寺田くんの好きな食べ物ってなに?」
「グミ」
おい、野菜の入る余地ないぞ。
「親には野菜を残すなって言われるわけだよ」
それはそうだ。
「だから、弁当に入っている野菜は食べないとして、『いや、野菜食べてるし』って言い返せる、いい感じの食べ物ってないかな?」
「その言い返しをする時点で、親が納得するとは思えないけどな」
野菜を食べない反抗期の息子にしか映らなさそうだし。
「野菜ジュースは?」
「野菜をジュースにしても野菜じゃん」
もっと野菜から離れて欲しいかな、と寺田。
「海藻って海の野菜って言われてるらしいぞ」
瀬野がスマホを見ながら言う。
「結構いいね」
もう一声! と寺田。
「ポテトチップスのフレンチサラダ味」
「それだ!」
「いいわけねぇだろ」
食事中に「これも野菜っと……」って言ってお菓子を取り出したら、親から白い目で見られるぞ。
「ひとまず今日のところはそれで手を打とう」
「何も決まってないぞ」
決まったことと言えば、フレンチサラダ味は野菜に入らないってことくらい。
「とりあえずこの野菜、誰か食べない?」
そういって寺田は俺たちに視線を向ける。
「いなさそうだぞ」
「仕方ない、じゃあ食べるか」
そういって寺田は普通に野菜を口に入れた。
「え、お前普通に野菜食べてるじゃん」
「当たり前でしょ」
「でもお前、野菜が嫌いって言ってなかったか?」
「嫌いじゃなくって、食べる必要がないから食べてないとは言ったね」
僕が嫌いなのは、野菜を食べないと不健康になるって言うデマを流すヤツってずっと言ってたじゃん、と付け加える。
そして寺田はいつも通り弁当箱の蓋を締めた。
マジで無駄な時間だったな。




