第95話 インフルエンサーはとりあえず褒めとけ
「なんでことわざって存在してるのかな?」
「なに、いきなり」
単純に興味、と言って深山はペットボトルの水を飲む。
そういえば深山、いつのまにかミニサイズのペットボトルを買うようになったな。
「私も一緒に食べていい?」
明空さんが会話に入ってきた。
もちろん、と言って、深山が少しずれる。
そして私たちは、お昼ご飯を食べ始めた。
「ことわざって漢字でこう書くじゃん」
そういって深山は空中に『諺』を書く。
「まぁだから別に何ってわけでもないんだけどさ」
そういうのって、漢字から推測するとこうだよね、っていう流れじゃないの?
「経験則の圧縮版、みたいな感じだよね」
石の上にも三年、みたいなと明空さんは説明する。
「そう、それが気になってて!」
話の途中で深山は椅子を少し明空さんの方に寄せる。
「石の上に三年って言われても、ほんとに石の上に乗ることなんてないじゃん」
「たしかにないね」
「だから、ことわざも時代に合わせて進化していくべきだと思うんだよ」
時代関係なく当てはまるからことわざなんじゃないの?
「それで、深山さんはどういうイメージなの?」
「やっぱり、インターネットとかSNSの経験則を当てはめる感じだよね」
例えば? と明空さんは話を促す。
「さっき言ってた『石の上にも三年』ってどういう意味だっけ?」
「辛くても忍耐強く頑張れば、やがて成果は出るっていう意味だね」
明空さんは意味を説明する。
「継続して努力し続ければ結果は出るって言う意味でしょ?」
「そうだね」
「じゃあ、バズるのにも三年、かな』
まぁ正しいのかも。
「井の中の蛙大海を知らずってことわざもあるじゃん」
「あるね」
「でも井戸のある家って今、ほとんどないでしょ?」
「ないね」
テンポよく応える明空さん。
そろそろ、話に参加しなくても大丈夫そうだな。
私はさっさと昼ご飯を済ませ、スマホを取り出した。
「界隈の配信者、世界を知らず、かな」
なかなか手厳しい意見だ。
界隈に出て行くつもりが無ければ、実質そこが世界でしょ。
「長い物には巻かれろ、は?」
「これは簡単、自分より権力のある人には逆らわないほうが良いって意味でしょ?」
「そうだね」
「だからインフルエンサーはとりあえず褒めとけ、だね」
なにその投げやり感。
「ただのファンとは違うの?」
「ほら、テレビとかインフルエンサーを取り上げることあるじゃん」
ああいうイメージらしい。
深山の言ってること、SNSだったら批判が殺到しそう。
「雉も鳴かずば撃たれまい」
「SNSで発言しなければ炎上しない」
今の深山だな。
「寝耳に水」
「朝起きたらSNSで炎上してた」
投稿してないのに炎上してるじゃん。
どっちかのことわざ間違ってるでしょ。
その後、しばらくは明空さんがことわざを出して、深山が現代っぽく直す遊びをしていた。よくそんなポンポン出てくるな、と思いながらスマホを眺めていた。
「馬の耳に念仏」
「アンチに布教」
「絵に描いた餅」
「二次創作は原作ではない」
「頭隠して尻隠さず」
「顔アイコンで隠して指紋隠さず」
最後のヤツ、普通に怖いこと言ってない?
「でもアレだね、現代では通用しないことわざもあるね」
しばらくしてから、深山がおもむろに呟いた。
「何かある?」
「例えば、人の噂も七十五日ってあるじゃん」
「あるね」
「一回炎上したら、検索のサジェスト機能で『○○ 炎上』の候補出てこない?」
「たまに見るね」
「通信技術が発達した現代で、炎上は一生の傷だね」
「必要は発明の母、みたいじゃん」
びっくりするくらい意味は違うけど。
ちょうどそのとき、昼休みの終えるチャイムが鳴って私たちは自分の席に戻った。
おまけ: 男性向けラブコメの場合。
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