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思ってたのと違う!  作者: 夏野恵


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第94話 本気の視力検査ってのを見せてやるよ。

「寺田くんは身長何センチ伸びた?」

「164センチも伸びたよ!」

「寺田くん、去年まで一寸法師だったっけ?」


身体測定が終わったあと、俺たち3人は制服に着替えながら話をしていた。


「まぁ実際は1.5センチとかだったかな」

「でも身長伸びてたって羨ましいね」

「吉川くんは身長伸びてなかった?」

「変わらなかったよ……」


あともうちょっとで170センチなんだけど、と寺田。


「楠本くんは高1の段階で170センチ超えてたよね」

「まあな」


羨ましい、と言って吉川はこっちを見てきた。


「いや、でもお前と身長5ミリくらいしか変わらないぞ」

「その5ミリが大きいんだって!」


88点と89点は変わらない感じするけど、89点と90点は雰囲気違うじゃん、と吉川。


「ラブコメの主人公ってほぼ例にもれず170センチを超えているんだよね」

「ほう」

「だから今、僕は希少なラブコメ主人公と言うことになるはず」

「なら今の身長で満足しろよ」


コイツはさっきから何の話をしているんだ。


「体重はどうだった?」


体重を知られることに、そこまで嫌な気分にはならない。

だから俺は、正直に答えることにした。


「去年より2キロ増えてたな」

「マジで?」


めっちゃ羨ましいんだけど、と寺田。


「寺田くんはどうだったの?」

「僕、5キロ落ちてたんだよね」

「それって良いことじゃないの?」

「悪いことに決まってるじゃん!」


サッカーで相手と接触するときは、体重が多いほうが有利らしい。


「普通に食べる量を増やせばいいんじゃないの?」

「僕、食べても太りにくいから、体重を増やすのは難しいんだよね」


そう言う体質の人もいるのか。

普通に羨ましいけどな。


「寺田くんってサッカー部じゃん」

「そうだね」

「多分、基礎代謝量が他の人より多いから太りにくいんじゃないかな」


筋肉が発達していると、それだけで消費エネルギーが多いって聞いたことあるし、と吉川は付け加える。


「だからまずはサッカー部の練習を止めて、筋肉量を落とそう」

「サッカーしないんだったら何のために体重増やす必要なくね?」


なんのために体重増やすんだよ。

しかし吉川は、俺の言葉を聞き流して続ける。


「あとは基礎代謝の最も大きい割合を占めるものの量を減らす必要があるね」


とりあえず調べてみよう、と吉川はスマホを取り出す。


「調べた感じ、肝臓が基礎代謝の中で多い感じだね」

「肝臓って何をしてるの?」

「糖分をグリコーゲンにしたり、アルコールを分解したりしてるらしいよ」


たしかに肝臓がアルコールを分解する、みたいな話は聞いたことがある。


「この働きをできるだけ少なくすれば、体重を増やすことができるはずなんだよ」

「どうすればいいの?」


えーっと、と呟いてから、吉川は続けた。


「できるだけ食べないようにするべきだね」

「いや、食べなかったら体重は減るだろ」


吉川のアドバイス、びっくりするくらい反対のこと言ってるぞ。


「視力とかどうだった?」


さりげなく、吉川が話を変えた。


「僕は今まで通りの1.5」

「ちなみに僕は小学校の頃から2.0だね」


へぇ、と呟いて腕を組む。


「それで、楠本くんはどうだったの?」

「……俺、ちょっと落ちてたんだよ」

「なんかめっちゃ深刻そうだけど」

「あぁ、眼鏡をかけないように、視力検査は本気でやってるからな」


「なにそれ」と言って寺田は飲み物を口につける。


俺の視力は0.7だ。


「もし0.7を下回ったら、学校から要受診って言われるらしいんだよ」

「そんな死刑宣告みたいな感じじゃないと思うけどね」


普通に眼科に行くだけだし、と付け加える吉川。


「お前らは視力が1.0以上だから良いよな」

「視力に嫉妬されたの初めてなんだけど」


俺の苦悩、お前らなんかに理解できるわけねぇよ。


「それで、本気の視力検査ってものはどういう感じなの?」


寺田がスマホを触りながら聞いてきた。


あまり興味なさそうだが、気にしない。

俺が本気の視力検査ってのを見せてやるよ。


「あれって片目を隠すだろ?」

「だね」

「だから、片方の目に全神経を集中させるんだよ」

「いきなり精神論じゃん」


吉川の言葉は聞き流した。


「そして円環に刻まれし沈黙の裂け目を見るわけだ」


ランドルト環とも言うらしい。


「そんな大層なことを楠本くんは視力検査でやってたんだね」

「それで、どうやって正解させるの?」


俺は一呼吸置いて続けた。


「そんなの、なんとなく空いてそうなところを言うんだよ」

「他の人と変わらないじゃん」

「でもお前たちは視力が良いから自信を持って答えるんだろ?」

「それはもちろん」

「でも俺は謙虚さを出して、自信がない感じで答えるからな」


あー……多分右っすね、みたいな感じで。


「謙虚さっていうか、視力が悪いが故って感じだと思うけど」

「謙虚さと自信のなさは表裏一体だからな」

「まあ」

「自信なさそうなヤツが本気出したときに無双するっていうのがかっこいいだろ」


なろう系小説なら、『近眼の烙印を押された俺、チートスキル ”ミレニアム・アイ” で視力検査を蹂躙する』って感じになるだろう。



クラスの女子生徒たちが教室に戻ってきたので、俺たちは話を切り上げた。


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