第93話 一緒のクラスじゃん。
「春休みどうだった?」
「寝てたら終わってた」
「へー深山さんってロングスリーパーだったんだ」
「そういう意味じゃないけどね」
春休み明けの学校。
自分がどのクラスになるかはまだ分かっていない。
僕たちの学校では封筒が配布され、その中に次のクラスが明らかになる、という感じ。物語でよくあるような、大きな紙に全員の名前が書いてる感じじゃない。
担任の先生は「このほうが面白いから」と言っていたが、本当の理由はわからない。
「文系って3クラスでしょ?」
「そうらしいね」
「それだったら、完全に孤立することはなさそうだよね」
「まぁね」
でも、と言って深山さんは続ける。
「クラス分けって、かなり先生たちが操作してるって話を聞いたことがあるよ」
「マジ?」
「うん」
問題児が何人かいれば、分散させるようにするらしいよ、と付け加える。
「あと、ベッタリなカップルが先生の独断で離されるとか」
「先生たち、だいぶ僻んでるね」
それが原因で疎遠になって別れるとかもありそう。
「よーし、席につけ」
今から配るぞーと言って担任が教室に入ってきた。
いつもざわざわしている教室が静かになった。
「一人ずつ配るから、出席番号順で取りに来てくれ」
僕たちはこくこく頷く
「あと、全員に配り終えてから封筒は開いてくれ」
その方が面白いから、と担任は付け加える。
この人の判断基準、面白いかどうかなの?
そして担任から名前を呼ばれ、封筒を取りに行く。
「私、マ行じゃん」
「うん」
「こういう配布系って後になるから嫌なんだよね」
「へー」
出席番号が後ろだと、少し損なことが多いらしい。
僕は『吉川』で出席番号は早めだから、そんなこと初めて知った。
そして生徒全員に封筒が行きわたった。
「よーし、開けていいぞー」
担任の声を合図に、生徒たちは封筒を開ける。
少し遅れて、教室はいつも以上の喧騒を取り戻した。
みんな、他の人の組を確認しているみたいだ。
「何組だった?」
「2-Bだったよ」
僕は紙を見せる。
「私も2-B」
深山さんも紙をこちらに見せてきた。
「じゃあ荷物を持って2年の教室に向かってくれー」
これで1年は終わりな、と言って先生は出て行った。
他のクラスの生徒も同じよう2年次の教室に向かっているので、階段が混雑していた。人が少なくなるのを待ちつつ、楠本くんたちのクラスも確認してみた。
全員、同じクラスだった。
空いてきたのを見計らって荷物をまとめていると、着信があったことに気づいた。
2件、連絡が来ていた。
どちらとも秋谷さんで、同じ内容だった。
『2年のクラスなに?』
『2-Bだった』と送信すると、すぐに『私も2-B』と返信が来た。
荷物を持って上の階に向かう。
作りは変わらないけど、なんとなく新鮮な感じがした。
2-Bの教室に入る。
最初は出席番号順なので、自分の席に座って荷物を引き出しの中に入れた。
僕の視線の右隅には、他の女子と話をしている秋谷さんがいる。
「やあ、吉川くん」
後ろから声をかけてきたのは明空さんだった。
「あ、おはようございます」
「一緒のクラスになるって意外だね」
「そうですか?」
3分の1だから30パーセント以上ありますけど、と付け加える。
「ところで、同じクラスになったのに丁寧語ってどう思う?」
「丁寧語で話す人もいるから、浮かないんで大丈夫ですよ」
浮いても丁寧語で話しますけど、と呟く。
「席につけー、ロングホームルーム始めるぞー」
その時、担任の先生が入ってきた。
1年生のときの担任だった。
明空さんとの会話を切り上げ、教壇に視線を向ける。
「1年の持ち上がりも何人かいるけど、とりあえず俺の自己紹介から始めるぞ」
黒板に名前を書いたほうが良いか、と言って担任はチョークを手に取る。
『山下』という大き目の文字が黒板に書かれた。
「スケジュールを説明する前に、出席番号と名前を読み上げるから返事してくれ」
たまに間違った教室に入る生徒がいるらしい。
実は全員違う教室の生徒でした、とかだったら面白いのにな、と思いつつ山下先生が読み上げるのを聞く。
「じゃあ1番、秋谷」
「はい」
「10番、吉川」
「はい」
「11番、楠本」
「はい」
「14番、瀬野」
「はい」
「18番、寺田」
「はい」
「37番、深山」
「はい」
「38番、明空」
「はい」
「39番、夜野」
「はい」
全員の名前が呼ばれた。
このクラスは39人。
「全員間違ってないな、じゃあスケジュールを説明するから」
そういって身体検査といったスケジュールの説明が行われた。
話が終わった。
「もう用がない生徒は帰っていいぞ」という担任の言葉を合図に、教室は再び騒がしくなった。
「今日はどうする?」
「もう帰るわ」
「すぐ帰る?」
「あぁ」
後ろの楠本くんはそういってすぐに席を立った。
そのとき「吉川くん」という声が前からしたのでそっちに視線を向ける。
秋谷さんだった。
「一緒のクラスじゃん」
そういって僕の肩を軽く叩いてから、秋谷さんは教室から出て行った。
後ろに視線を戻すと、楠本くんはもういなかった。
帰るの早すぎない?
仕方がないので、今日は1人で帰ろうと思い階段を下る。
「あ、吉川くん」
玄関にはすでに深山さんがいた。
「もう帰るの?」
「うん」
学校でやることないし。
「そういえばさ、終業式の日にお菓子渡したじゃん」
「うん」
「あのとき、4月以降に何かお返しをするって言ってなかった?」
「そうだね」
じゃあ飲み物でも、と言って僕たちは自動販売機に向かった。
「何が良い?」
「私が好きそうなので」
なんとなく、レモンティーを選んだ。
「私がレモンティー飲んでたことってあったっけ?」
「多分ないけど、一番好きそうだったから」
まぁそれなりかな、と言ってペットボトルを受け取った。
「知ってる人が多かったからよかったね」
「そうだね」
じゃあ夜野さんと一緒に帰るから、といって深山さんとは別れた。




